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この作品は、東方プロジェクトの二次創作であり、本格的ガチムチパンツレスリング(レスリングシリーズ)の二次創作でもある小説です。
両方の知識があれば十分楽しめますが、もし片方の(あるいは両方の)知識がないとしても、それなりに楽しめる作品だと思います。
ご了承してください。
第一話 二人の男が幻想入り(前編)

 木吉きよしカズヤが目を開くと、青色の空が視界に飛び込んできた。
 雲が一つも無い、澄み切った心のような青い空……眺めているうちに、何だか違和感を覚えた。なぜ、今は外にいるのだろうか? 確か、昨日の夜は自宅で眠ったはずだ。それなのに、一夜明けたら見知らぬ場所にいる……どういうことだ?
「ここは、一体どこだ?」
 カズヤは上半身を起こして、周辺を見回した。付近にあるものといえば、霧がかかった広大な湖。そして、鮮血を連想させるような真っ赤な洋館だった。
 その真っ赤な洋館からは、何かと忌わしい気配が漂っているようだった。まるで、外界との干渉を自ら拒む姿勢を表しているような、そんな感じだ。
 カズヤにとって、その真っ赤な洋館は初めて目にするものだった。
新日暮里しんにっぽりに、あんな気味が悪い建物なんてあったか?」
 カズヤは不審に思い、頭の中で考えた。そもそも、今いる場所は本当に新日暮里なのだろうか? もしかしたら、カズヤ自身ですら知らない地……所謂『未知のエリア』なのかもしれない。
真相を知るためには、あの真っ赤な洋館に行く必要がある。おそらく、屋敷には誰かが住んでいるだろう。あまり気乗りはしなかったが、ここでジッとしているよりはマシだ。カズヤは立ち上がって、真っ赤な屋敷へ足を運んだ。
 一歩、一歩と進んでいく度に、地面のひんやりとした感覚が足の裏に伝わってくる。その時になって、今は寝巻姿に素足の状態であるのに気づいた。こんな格好で行くべきかどうか。カズヤは戸惑ったが、すぐに迷いを打ち払って足を動かした。
 現場に到着してから、カズヤは改めて洋館を眺めた。窓は少なく、人が住んでいるのかどうかもハッキリしない。中に入って調べてみようとした矢先、門前で椅子に座って眠っている少女を見つけた。
 少女は、緑色のチャイナドレスと帽子を身につけていて、鮮やかな赤毛が特徴的だった。顔を窺うと、実に気持ち良さそうに熟睡している。
 そして、少女の傍らには、次のような文字が書かれた立て札があった。

紅魔館こうまかんに用事のある方は、私を起こして下さい。紅魔館の門番 ほん美鈴めいりん

 この少女の名前は紅美鈴というのか。しかも門番ときたものだが、役目をまったく果たしていないようだ。居眠りだなんて怠慢すぎるし、だらしねぇな……カズヤは、半ば呆れてしまった。
 だが、この時点で判明したのは、真っ赤な洋館の名称が『紅魔館』ということだ。あとは、今いる場所が新日暮里なのか、あるいは他の場所なのか、それが知りたい。
 そこでカズヤは、紅美鈴を起こしてから聞き出すことにした。
「おい、そこのあんた。寝てないで起きてくれ」
 声をかけて、美鈴の肩をポンと軽めに叩いた。起きる気配は無い。今度は肩を揺さぶってみると、美鈴は椅子から地面にゴロンと転げ落ちた。
「い、いかんっ!」
 力を入れすぎた! カズヤは焦ったが、美鈴は何事もなさそうに眠り続けている。
 こんな呑気な娘が門番を務めているなんて、この紅魔館は不用心だな。泥棒の侵入すら許してしまうぞ、と要らぬ心配をしてしまった。
「あんたには悪いが、入らせてもらうぞ」
 カズヤは、美鈴を放っておいて前に進み、紅魔館の扉を開いた。
 外は明るいというのに、紅魔館の中はやけに暗い。間隔を置いて設置されている燭台のロウソクの灯火が、唯一の明かりだった。
「おーい、誰かいないか?」
 声を発してみると、静まり返った屋敷内にワンワンと響く。ただ、それだけだ。
 まさかと思うのだが、住人は未だに眠っているのだろうか? そうだとしたら、呼んでから起こす必要があるな。カズヤが二、三歩前に進んだ瞬間、背後の扉が急にバタンと閉まった。
「な、何だ?」
 カズヤは振り返った。扉は固く閉ざされている。風が吹いてきて、それで閉まったのだろう。そう考え直してから正面を向き直すと、メイドの格好をした銀髪の少女が立っているのが見えた。紅魔館の住人だと思われるが、いつの間に姿を現したのだろう。
「………見慣れない人間ね」
 銀髪の少女が先に口を開いた。しかも、こちらを睨んでいる。
「貴方、ここが紅魔館と知っていて侵入したつもり?」
 その上、銀髪の少女から疑いをかけられた。カズヤは誤解を解こうと試みた。
「侵入? いきなり何を言い出すんだ。俺は、この館に住んでいる人に聞きたいことがあって来たんだ。あんたは……見た感じがメイドだから、主人じゃなさそうだな」
「ええ、そうよ。お生憎さまね」
 と、銀髪の少女は素っ気なく言い返した。カズヤは気にしないで、話を切り出した。
「まぁいい。あんたに頼みがある。俺を、紅魔館の主人に会わせてくれないだろうか?」
 銀髪の少女は、しばらくは何も言わなかったが、急に呆れた顔をした。
「……そう簡単に会わせると思っているの? 貴方は、紅魔館の主について何も知らないようね」
「ああ。知らん」
 と、ハッキリと答えてやった。第一、紅魔館の主人って何者なんだ。そんなに偉いヤツなのか? 何も知らないカズヤには、どうでもいいわ! と思った。
「知らない、か……何だか引っ掛かるわね。尚更、会わせるわけにはいかない」
 突然、銀髪の少女が身構えた。カズヤには、少女が取った行動が理解できなかった。
「この私……十六夜いざよい咲夜さくやが、侵入者の相手をするわ!」
「ちょ、ちょっと待て! 俺は侵入者じゃないぞ!」
 こちらが言い終えるよりも早く、銀髪の少女・十六夜咲夜は動き出し、次の瞬間には姿をパッと消えてしまった。
 消えた! 驚く間もなく、咲夜が突如、目の前に現れた。彼女の両手には、どこから取り出したのか、銀色に光るナイフが三本ずつ握られていた。
「これでも受けなさい!」
 咲夜がナイフを投げ付けてきた。高速で飛んでくるナイフを、カズヤは、「いかん、危ない危ない……」と危機を察しつつ、一本ずつ避けた。だが、最後のナイフだけは避け損ねて、左上腕に傷を負ってしまった。軽傷だ。気にしないで体勢を整えた。
 休む間もなく、咲夜が飛びかかってくる。ナイフを投げる他に、直接切り付ける攻撃も仕掛けてきた。カズヤは、回避行為を続けただけだ。というよりは、反撃をする理由が無かった。
 この十六夜咲夜という少女、俺を完全に紅魔館の侵入者だと勘違いしている。説得しようと考えたが、相手は動き回るものだから、話す機会がない。不本意だが、やはり力任せに黙らせるしかないようだ……カズヤが意を決した時、咲夜は後ろに跳んで間合いを離した。
「さっきから避けてばかりね……でも、これならどうかしら!」
 と、咲夜はエプロンのポケットから一枚のカードを取り出した。
「メイド秘技! 操りドール!」
 咲夜が声を発した。カードは、空間に溶け込むように消えた。彼女を中心に、物凄い量のナイフが円を描くように現れた。しかも、全てのナイフの切っ先が、カズヤに向けられていた。
「ビ、ビビるわぁ!」
 咲夜は手品でも使って、ナイフを大量に出したのか? 仰天している間もなく、ナイフが動き出した。
 あんな大量のナイフは、さすがに避け切れない……いや、避けるぐらいならば、跳ね返してやる! そう思いついたカズヤは、右腕に力を集中した。
「紅蓮返しッ!」
 掛け声を上げると同時に、右腕を振り上げた。一瞬だけ炎を纏った腕から、熱気を帯びた風が生み出され、飛んできたナイフの軌道を変えた。
 ナイフの数本は、壁に当たって転がるものや、床に突き刺さるものもあった。中には、紅蓮返しを受けなかったものもあり、それらは全てカズヤの体を掠めた。左右の上腕、右膝と左の太腿に切り傷を負い、カズヤは顔をしかめて正面を見た。
 咲夜は、じっと佇んでいた。深刻な面持ちで、散り散りになったナイフを見ていた。
「腕を振っただけで、ナイフを跳ね返すなんて……貴方、ただの人間じゃないわね」
 咲夜の顔色が変わった。エプロンのポケットを探り、懐中時計を取り出した。
「……手加減をするのは止めたわ。次こそは、本気で行くわよ!」
 さっきの手品のような技が手加減だなんて、嘘ぉ! カズヤは驚きを隠せなかったが、咲夜は否応無しに別の手品を使おうとしていた。
「幻世! ザ・ワール……」
「咲夜! 待ちなさい!」
 突然、第三者の甲高い声が響いた。咲夜はハッとして振り返った。カズヤも、声が聞こえたほうに目線を向けた。
 そこは、二階の踊り場であり、こちらを見下ろしている少女の姿があった。少女の肌は青白く、瞳の色は深紅だ。そして、背には蝙蝠の羽を生やしていた。
 あの娘、吸血鬼をモチーフにしたキャラクターのコスプレをしているつもりか? そう考えたが、その思いはすぐに掻き消された。少女の体からは、紅魔館を初めて見た時に感じ取れた、あの禍々しい気配が漂っていたのだ。
「騒がしいと思って来てみたら、随分と面白いことをしているじゃない」
 少女は口を開いて、意味有り気な笑みを浮かべた。
「レミリアお嬢様、なぜ止めたんですか? 私が相手しているのは侵入者ですよ」
 咲夜は言葉を返した。話し口調がガラリと変わったようだが、あのレミリアという娘とは主従関係なのだろう、とカズヤは予測した。
「侵入者であれ、咲夜と互角に戦った人間を見たのは、これで三人目よ。しかも、この幻想郷では見慣れない人間……おそらく、外の世界から来た人間ね」
 レミリアの視線が、こちらに向けられた。瞬間、カズヤに悪寒が走った。見た目は人間の少女だというのに、何かが違う。悪魔か、それに近い存在から睨まれているようだ。
「外の世界の人間……貴重なサンプルが、わざわざ来てくれた、ってことか」
 また別の声だ。しかも背後から。カズヤが我に返って振り向くと、パジャマ姿の少女が突っ立っていた。寝起きだからだろうか、やけに覇気がない顔を浮かべている。分厚い辞書を左脇に抱えていて、右手には咲夜が手品をする際に使ったのと同じカードを持っていた。
「木金符! スポイルチェイン!」
 パジャマ姿の少女の声に反応するように、カードがピカッと光って消えた。床に亀裂が走り、そこから鎖が何本も放出する。新手の手品か! そう思ったカズヤの体に、鎖が蛇のように絡み付く。
「うおっ! 離せ!」
 必死にもがいたが、鎖は解けるどころか、体に徐々に食い込んでいく。その上、何だか気だるくなってくるのを感じた。
 パジャマ姿の少女は、咲夜の元へテクテクと歩いてきた。咲夜は、少女に向けて頭を下げてから声をかけた。
「パチュリー様も来たのですか?」
「ええ。たまには図書館以外の所に顔を出そうと思ったの。そんな時に、滅多に会うことがない外の世界の人間を見つけたのだから、ラッキーだったわ」
「あら、パチェ。さっきのスペルカードだけど、見たことがない魔法ね」
 と、レミリアが話しかけた。パチュリーは咳払いをして、辞書を開いて目を通した。
「今は、相克をテーマにした合成術を研究しているの。さっき使った魔法は、木属性と金属性を組み合わせたものよ。金は木を腐らせる作用を持つ。そこに目を付けて開発された木金符・スポイルチェインは、縛った相手の体力を吸収する鎖を解き放つ魔法よ」
「そこまで詳しく話さなくてもいいわよ。パチェ」
 レミリア達が会話をする中で、カズヤはもがくのを止めて、物思いに耽った。
 どうやら俺は、最悪な事態に陥ったようだ。現在地がどこなのかを知るために紅魔館を訪ねたのに、今となっては自由を失われた身……まさか、この館に妙な手品を使う奴らが潜んでいたなんて、軽率だった。
 こんな時に、あいつがいれば……いや、甘えを見せるのは俺らしくない! 不遇の裏には、きっと活路があるのだから、自力で状況を打破せねば! カズヤは自らを奮い立たせて、力任せに鎖を引きちぎろうとした。そこへ、パチュリーから話しかけられた。
「そこの筋肉質の人間。足掻いてもムダよ。さっきも話したけど、その鎖は縛った相手の体力を蝕んでいく仕組みになっているわ。諦めなさい」
 パチュリーの言葉を、カズヤは聞き流した。俺は決して、得体の知れない者には絶対に屈しない、と自分に言い聞かせたが、そんな思いとは裏腹に体の気だるさは増していく。意識も朦朧としてきた。
 その時、扉がバタンと開かれて、美鈴が姿を見せた。最初に反応したのはレミリアだ。
「美鈴、何しに来たの?」
「休憩を取りに来たんですよ、レミリア様……ところで、この筋肉質の男は何ですか?」
 美鈴の質問に対して、咲夜は鋭い目つきで睨み付けた。
「美鈴! 貴方、また居眠りをしていたわね!」
「い、いえ! 居眠りなんて、決してしていないですよ!」
 と、美鈴は顔を激しく振って否定した。それを見たカズヤは、「熟睡していたくせに、よく言うよ」と心の中で呟き、呆れ返った。
「じゃあ、ここにいる侵入者は何なのよ!」
「し、侵入者ぁ!」
 ようやく気づいた美鈴だが、咲夜の表情は怒りに満ちていた。
「美鈴。あとでお仕置きをするわ。覚悟しなさい」
「お仕置きの前に、そこの人間を地下牢に放り込んでおきなさい。咲夜」
 と、レミリアが命令する。咲夜は頷いてから、こちらにツカツカと近寄ってきた。
 カズヤには、もう抵抗する力が残っていなかった。鎖が解かれた瞬間、体が崩れ落ちた。薄れていく意識の中で、カズヤは思った。この見知らぬ地で、俺は一体何をされるのだろうか……脳裏には、新日暮里では悪名高いといわれる拷問の数々……吊るした人を様々な器具で甚振るダーク♂潮干狩りに、人を真空パックにするダーク♂おくりびとの光景が、浮かんでは消えていく。
 これが悪い夢ならば、とっとと醒めてくれ……カズヤは不安を抱いたまま、気を失った。


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