外国籍選手を極端に優遇した“ベッカム法”
来年1月、冬の移籍市場が幕を開ける。果たして、次にスペイン上陸を果たす“大物”は誰になるのだろうか?マンチェスター・シティーのロビーニョか、それともバイエルンのフランク・リベリーか、あるいは……。期待が高まるのも無理はない。わずか4カ月前、リーガ・エスパニョーラは空前の大型移籍ラッシュに沸いた。クリスチアーノ・ロナウド、カカー、カリム・ベンゼマ、ズラタン・イブラヒモヴィッチなど、世界屈指のビッグネームが次々とスペイン上陸を果たしたのだ。この一連の移籍劇がサッカー界に与えたインパクトは強烈だった。
しかし、この冬について言えば、そうした大型移籍の成立を安易に予想することは出来ない。いや、この冬に限った話ではなく、来年の夏以降、リーガに新天地を求める外国籍選手は大幅に減少する可能性すらあるのだ。その根拠となるのが、スペイン政府によって今年11月に承認され、来年1月から施行される新税制である。
そこで今回は、このスペイン独自の税制について掘り下げてみたいと思う。少しばかり硬い話になってしまうが、移籍市場の動向を左右する重要な事柄なので、しばらくお付き合い願おう。
そもそも、外国籍選手にとってリーガは非常に魅力的な働き場所だ。理由は簡単。スペインは他のEU諸国と比べ、外国籍選手に対する課税率が極端に低い国なのである。2004年、この国では外国人就労者を対象にした新たな税制が導入され、「過去10年以上スペインに居住している」などの一定の条件を除き、年収60万ユーロ(約8100万円)以上の外国人就労者は、収入の約24パーセントの所得税を国に納めれば済むことになった。年収60万ユーロというのは、リーガでプレーする選手ならほとんどが該当する基準だが、同じ条件でもスペイン人の場合、税率は約43パーセント。つまり、外国籍選手を“特別優遇”する税制と言っていいだろう。この法律は、同時期にレアル・マドリーに加入したデイヴィッド・ベッカムの名を借りて、“ベッカム法”と呼ばれている。
24パーセントという数字がどれほど特殊なものか、他国と比べるとよく分かる。監査法人『アーネスト・アンド・ヤング』社の調査によれば、高額所得者に対する税率はイタリアが約43パーセント、ドイツが約45パーセント、イングランドが約50パーセントとなっており、その際、国籍は全く考慮されない。つまり、100万ユーロ(約1億3500万円)の年俸を受け取っている外国籍選手は、セリエAでプレーすれば約43万ユーロ(約5800万円)もの税金を納める必要があるが、リーガなら約24万ユーロ(約3200万円)で済むのだ。私がスペインを「魅力的な働き場所」と書いた理由が納得いただけるだろう。
ところが、である。スペイン議会は11月、この“ベッカム法”の廃止を決定。2010年1月より、外国籍選手にもスペイン人選手と全く同じ、約43パーセントの所得税が課されることになった。そしてこれが、今やリーガ全体を巻き込む議論に発展しているのである。
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