フクシマウォッチ:放射性物質の影響で最悪1300人が犠牲になる可能性=スタンフォード大研究


昨年の福島第1原子力発電所の事故は最終的に15人から1300人の犠牲者を出す可能性があるとの研究結果をスタンフォード大学の科学者らが発表した。同研究はまた、将来、事故の影響で24人から2500人が、がんに罹患(りかん)すると試算している。現場で放射性物質にさらされた原発作業員は2人から12人が、がんを患う可能性があるという。

最も深刻な数値をとってみても、この研究結果は世界で直近に起こった原発事故として最悪だった1986年のチェルノブイリ後の健康被害と比べて、かなり穏やかである。複数の専門家によると、チェルノブイリは5000~6000人が甲状腺の病気を患っており、そのほとんどが子どもである。チェルノブイリの健康被害を調査するために組織された国際グループは、最も放射性物質にさらされた人たちのうち4000人が命にかかわる「がん」にかかると試算している。

Agence France-Presse/Getty Images
避難者の放射線量を測定する職員(郡山市、2011年3月16日)

ただ最終的な数値は、この研究結果よりも悪くなる可能性がある。

この研究の共同執筆者でスタンフォード大学の環境エンジニア、マーク・Z・ジェイコブソン氏は「個人的な意見だが、15から1300の範囲はすべて、おそらく現実では保守的な数字だ」とJapan Real Time(JRT)とのインタビューで述べた。

この研究は今週、『Energy&Environmental Science(エネルギーと環境科学)』で発表されたもので、科学者らが最も可能性の高い数値として挙げているのは、放射性物質による死亡者130人、がん患者180人というものだ。

ジェイコブソン氏はこれらの数値を「かなり保守的」だと指摘する。特に、心血管系や呼吸器系の疾患といった、がんに関連がない病気を考慮すればなおさらだ。「事実、粒子から健康に対する甚大な影響があるが、その影響は計算に入っていない」とジェイコブソン氏は言う。ジェイコブソン氏は以前から、環境汚染による健康への影響について研究をしてきている。

この研究の幅広い数値の範囲は――同研究は福島第1原発事故がもたらす世界的な健康への影響を計量化した最初のものだ――放射性物質による健康への影響を測定する上での難しさを物語っている。多くの不確定要素が問題をさらに複雑にしている。最大の問題は、原発事故とからだの健康状態を関連付ける実際のデータが不足していることだ。データの分析に当たって参考にした過去の疫学的研究には限界があった。一部は単に理論上のものでしかなく、ヒロシマやナガサキの分析を含むほかの研究は不確定要素を含んでいたと、ジェイコブソン氏は言う。

この研究は、フクシマ後の最大の未知数の1つ――低濃度の放射性物質に長期にわたってさらされた場合の健康への影響――に対して回答を試みたわけではない。そうではなく、短い期間に放射性物質にさらされた場合、その後の健康にどんな影響があるかについて焦点を絞っている。研究によると、日本で予想される健康被害の27%が今後50年の間に発生するという。

スタンフォード大の研究は、福島第1原発の事故でどの程度の放射性物質が放出されたかという予測を基に、昨年3月12日から1カ月間、世界に放射性物質が拡散したとのシミュレーションを行った。世界の大気を再現した3D(3次元)のモデルを使い、研究者らは放射性物質――ヨウ素131、セシウム137、セシウム134――の拡散と集中具合をマッピングした。予測は、大気と地面の実際の汚染状況とほとんどの地域で重なった。

その後、「しきい値無し直線仮説(LNT仮説)」に基づいて、世界の人口に対する放射性物質の単位ごとの健康に対する影響を計算していった。これは、被ばく線量とがんの発生率との間に直線的な関係が成り立つとするもので、議論の余地のあるアプローチだ。研究者が作成したマップは最終的に、チェルノブイリと比較すると、健康に対する影響がはるかに小さくなる主な理由の1つを示した。それは、放射性物質の約80%が海上へ流れていったということだ。一方、チェルノブイリの場合は、ほとんどの放射性物質が地上に拡散したうえ、放出された量もはるかに多かった。

ジェイコブソン氏は、仮に同様の事故が西日本で発生すれば、犠牲者の数ははるかに増えると予測する。風向きの関係で放射性物質が地上に拡散するためだ。

研究はさらに、迅速な避難が死亡者やがん患者の数を22%減らすことになったかもしれないと指摘する。しかし同時に、「避難により救われた命は推計ほど多くなかったかもしれない。伝えられるところによると、政策決定者らは国民を事故直後に避難させることができなかったからだ」としている。

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