日銀は12日の金融政策決定会合で追加の金融緩和を見送った。この決定に市場は失望し、同日の日経平均株価は6営業日続落、下げ幅は130円を超えた。
白川方明日銀総裁は、決定会合後の記者会見で「現在も間断なく強力な金融緩和を進めている。効果の波及には時間がかかる」と説明した。と同時に、2012年の物価上昇率見通しを4月時点の0・3%から0・2%に引き下げ、13年度は0・7%に据え置いた。1%のインフレ目標達成は「2014年度以降」に「遠からず達成」という見方だ。
日銀は、2月にデフレ脱却の目標として1%のインフレ「目途」を掲げ、強力な金融緩和を進めると表明。白川総裁の任期は来年4月までだが、自らの任期期間中の目標達成をギブアップしている。このままでは、白川総裁は「デフレ・円高大魔王」ということになるだろう。
白川総裁は「金融緩和効果の波及には長いタイムラグがある」と説明しているが、本当だろうか。日本、欧米の中央銀行のマネタリーベースの増加は、半年程度のタイムラグがあってインフレ予想率の上昇になっている。ということは、実質金利(=名目金利マイナスインフレ予想率)が半年程度後に低下することを意味する。
そうであるから、先読みしがちな為替市場は自国通貨安(円安)にすぐふれ、輸出が増加し始める。また国内の設備投資が高まる。以上の効果から実物経済が伸びる。こうした実証結果、といってもマネタリーベースとインフレ予想率の推移のグラフをみれば誰でもある程度わかるが、筆者や岩田規久男学習院大学教授もそれぞれ同様な結果を得ている。
白川総裁のいう「長いタイムラグ」というのはどの程度のものなのか、是非国会できちんと質してみるべきだ。私たちの研究では、日本と欧米を比べると、タイムラグは同じようなもので、インフレ予想に対する影響はせいぜい半年程度であるが、日本の場合、マネタリーベースの変化が圧倒的に小さい。車でたとえれば、アクセルをすぐふかしても加速のレスポンスの遅れは同じようなものだが、日本ではアクセルの踏み込みが猛烈にたりないということだ。
リーマン・ショック前であれば、日銀にとって未知の経験なので慎重であったという言い訳は可能であった。しかし、リーマン・ショック以降、各国の中央銀行がマネタリーベースを数倍にするといった大胆な金融緩和を行って、それなりの成果をあげている(一部の国ではそれでも不十分という見方すらある)のに対して、日銀のモタモタぶりは先進国の中でも際立っている。
先進国の中でなぜ日本だけがデフレなのかについて、ちょっとしたパズルであった。しかし、リーマン・ショック以降の各国中央銀行の対応と日銀の対応を比較することによって、各国の中央銀行に比べて日銀にデフレ克服の意思がないこと、そのための能力がないことが浮き彫りになってしまった。(元内閣参事官・嘉悦大教授、高橋洋一)