サマーウォーズは技術屋に対する挑発であるともうけとれる。
なぜか。
映画冒頭でモジュロ演算を使って主人公はヒロインの誕生日の曜日を当てる。誕生日から計算するまでもなく、これは紛れもなく「現代」の物語である。また徹頭徹尾でてくるテクノロジーは現代ものもであり、仮想世界の表現こそアニメ特有の誇張されたものであるが、それ以外はすべて現在のテクノロジーだ。2009年現在の。
200Tフロップス程度のスパコンであればあのサイズだし、液晶の応答速度は低い。携帯の画面に表示されているアバターは簡略化されたものだし、DSにしかみえない携帯ゲーム機のインターフェースからでもあの程度の操作はできる。
ガス間の制御、交通制御、救急通報ではなく「老人の緊急アラーム」である点、火災警報、その他現在でも既にネットワークが使用されている点(映画中で言及されていない緊急地震警報やアメダスの情報もネットワーク化されている)等、すべて現実のものである。
唯一のフィクションはOZであるが、アカウント情報がひもづけられているというのは、Googleをみれば十分現実的な話ではあるし「こうなり得たかもしれない世界」として非常に良くできている。
つまるところこれは、「現実のデバイスを用いてもこの程度のことはできる」「この程度のことが起きる土壌が既に存在する」「未来のテクノロジーに頼らなくても、こういった映画を作ることができる」という挑発なのだとも言える。本当に、徹頭徹尾アバター内表現のみなのだ。(そして、現実世界の主人公達がディスプレイや携帯電話の画面で見るアバターは、当然のように簡略化された表示である)
医療や緊急通報系、軍事ネットワークなど、隔離されてしかるべきところは当然のように劇中には現れない。これは現代でもかなり厳重に隔離されているからだ。その点で「僕らのウォーゲーム」時に、核ミサイルが大陸弾道弾として飛んできた(しかも弾頭が死んだとしても、再突入体はあんなにほんわかした落ちかたはしない)のとは対照的である。
もちろん、いくら軍用に比べれば甘いとは言っても衛星を乗っ取ることは容易ではないし、GPSの補正信号を弄るのだって難易度は高い。(なによりあんな鍵をかけたりはしない)
つまるところ、細田守がこの映画で突きつけたのは「未来のテクノロジー」を使わなくても「あり得たかもしれない未来」を表現することはできるし、また「現代のテクノロジーをうまく使えばこの程度のことはできる」という挑発でもある。
映画屋にとっては死活問題であろう。彼一人の特異な才能(あれだけがちゃがちゃしているにも関わらずメッセージがぶれておらず、きれいにまとまっている)として無視するのではなく、技術として取り組む必要がある。
そして、現実の技術屋は、そこで描かれた自体が起こり得ないシステムを構築する、またあの程度に使われる未来を持ってくる必要がある。
これは様々な人間に対する挑発なのだ。
受けてたつかどうかで、我々が試されている。
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2009/09/03 18:34
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