箱根駅伝、現在のあり方に疑問視 (1/2)
〜世界のマラソンとの差〜
今年も平均27%、瞬間最高では33.3%の視聴率を記録した東京箱根間往復大学駅伝競走(箱根駅伝)。その人気たるや、もうゆるぎのない正月の一大イベントになっている。
今回は特に、東洋大1年の柏原竜二というニュー・ヒーローも誕生。山上りの23.4キロで、トップ早大との4分58秒差を縮めるだけでなく、逆に22秒差までつけた大爆走は、想像を超えたものだった。
その勢いで焦りが出た早大は6区と7区で前半突っ込み過ぎるミスを犯して、一度逆転はしたもののタイム差を開けられず。結局は東洋大の初優勝を許してしまった。
■男子マラソンは「スピード」が絶対条件の時代へ
もう一つ、今回の箱根で驚かされたのは、前回の覇者・駒大といえど、一人のエースの故障で総合13位まで落ちてしまうという脆さだ。5000メートル13分台が6人と、持ち前のスタミナとともにスピードも武器にできる選手をそろえながらも1区の出遅れがたたり、なおかつ守りの布陣が裏目に出て波に乗れなかった。それなりの力を持った選手で固めた往路でもシード圏内へ入れなかったのは、それぞれの選手が精神的に追い詰められた状況の中で、自分の力を発揮しきれなかったということだ。冷静に見れば、駒大で鍛え上げられた選手といえど、さまざまな条件が整った場でないと、なかなかまともには走れないというのが現実なのだろう。
外的、内的な条件が厳しいときにどれだけの走りができるかというのは、その選手が持っている本当の実力だともいえる。今回箱根に出場した中で、例え逆風が吹いていようと自分の力を十二分に発揮できる日本人選手がどれだけいるかと考えれば、竹澤健介(早大4年)と柏原、木原真佐人(中央学院大4年)、佐藤悠基(東海大4年)など、限られた選手だけになるだろう。学生に限らず、「自己記録を出すのは記録会」、「大半のレースは自分のペースをキッチリと守って走るだけ」というのでは、本物の逞しさや強さ、気迫を持った選手の登場は“天才待ち”のみ、ということになってしまうのだ。
そんな状況を少しでも打破するために必要なのは、もっともっと選手自身が自分の個性を発揮できるような環境にすることではないだろうか。これまでも箱根駅伝の弊害が話題になっているが、その主たる論点は「1キロ3分前後のペースで安定して走れるだけの、画一的な選手しか育てられない」というものだ。
現に世界の男子マラソンは、昨年になって大きく変化し始めた。夏の五輪がスピードマラソンになり、ハイレ・ゲブレセラシエ(エチオピア)が世界記録を2時間3分台にした。それらはまだ予想範囲内だったが、それより驚かされたのは12月の福岡国際マラソンで優勝したツェガエ・ケベデ(エチオピア)が、30キロからの5キロを14分17秒というラップでカバーしたことだ。これは、前半のペースがもう少し遅ければ、勝負所では13分台のラップになる可能性を暗示するものでもある。もはや男子マラソンの「1キロ3分前後のラップで押し切ればいい」という常識は根底から崩れ、スピードを持っているのが絶対条件という時代へと移行しているのだ。
・『陸上競技マガジン』2月号(ベースボール・マガジン社) (2009/1/26)