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香山リカの「こころの復興」で大切なこと
【第12回】 2011年7月1日
著者・コラム紹介バックナンバー
香山リカ [精神科医、立教大学現代心理学部教授]

小出裕章氏が反原発のヒーローとなった
もう一つの理由

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 彼らのようなタイプの人たちのなかで、ネット上で最初に注目されたのは、2000年5月に西鉄バスジャック事件を起こした17歳の少年です。ハンドルネーム「ネオむぎ茶」といえばご記憶にある方も多いのではないでしょうか。

 彼は優秀な高校生でした。偏差値の高い高校に入ったもののすぐに退学し、引きこもり生活に入ります。やがて「2ちゃんねる」で事実上の犯行予告をしたうえで3人を死傷させるバスジャック事件を引き起こしました。

 17歳という若さの彼が、人生を諦める必要はなかったと思います。しかし、彼は何も打つ手がなくなったと思い込み、自分をここまで追い込んだ社会に対する腹いせをしようと凶悪事件を起こしたのです。

ファンタジーへの逃避で平穏を保ってきた彼らが
いま原発問題にこころの平穏を見出している

 彼らは、こころの平安を取り戻すためにゲームやアニメ、あるいはアイドルといったファンタジーに逃避し、気持ちを落ち着かせてきました。

 ファンタジーの世界には、彼らが現実の世界で不満に思っていることは出てきません。登場したとしても、悪者として描かれるのでいずれ排斥される運命が待っています。

 これまで、彼らが現実逃避のためにのめり込んでいった代表的なものが「新世紀エヴァンゲリオン」でしょう。

 惹きつけたのは、登場するキャラクターの魅力やファンタジーとしての世界観だけではありません。このアニメには、精神分析、神学など多様な学問領域があり、様々な専門用語が散りばめられています。

 彼らは、精神分析の分野で未知なるものが登場すると、先を争って精神分析の本を読み漁りました。宗教的な用語の背景を知ろうと、こぞって宗教学の本と格闘したのです。

 そんな彼らが、いま原発問題に向かっています。

 ファンタジーの世界ではなく、現実のなかに逃避を正当化できるテーマが出てきたからです。彼らにとって、これほど学びがいがあるテーマはありません。「新世紀エヴァンゲリオン」とは比較にならないほど高度に体系化された世界だからです。

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香山リカ [精神科医、立教大学現代心理学部教授]

1960年北海道札幌市生まれ。東京医科大学卒業。豊富な臨床経験を生かし、現代人の心の問題のほか、政治・社会評論、サブカルチャー批評など幅広いジャンルで活躍する。著書に『しがみつかない生き方』『親子という病』など多数。


香山リカの「こころの復興」で大切なこと

震災によって多くの人が衝撃的な体験をし、その傷はいまだ癒されていない。いまなお不安感に苛まれている人。余震や原発事故処理の経過などに神経を尖らせている人。無気力感が続いている人。また、普段以上に張り切っている人。その反応はまちまちだが、現実をはるかに超えた経験をしたことで、多く人が異常事態への反応を示しているのではないだろうか。この連載では、精神科医の香山リカさんが、「こころの異変」にどのように対応し「こころの復興」の上で大切なことは何かについて語る。

「香山リカの「こころの復興」で大切なこと」

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