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被害者の発見が続いている。政府が予告する今月末で水俣病救済を締め切れば混乱が続く。窓口を開けておく必要がある。水俣病は有機水銀のために、けいれんに苦しんだり、手足がしび[記事全文]
原発に依存しない安心な社会をつくっていく。そのためには、発電全体での原発比率を下げるだけでなく、核燃料サイクルからの明確な撤退方針を示すことが必要だ。関係閣僚による「エ[記事全文]
被害者の発見が続いている。政府が予告する今月末で水俣病救済を締め切れば混乱が続く。窓口を開けておく必要がある。
水俣病は有機水銀のために、けいれんに苦しんだり、手足がしびれたりする公害病だ。
「患者」と認定されると最高で1800万円の補償金や医療費が支払われるが、複雑で厳しい基準がある。初期の重症患者を想定したものだ。
だが認定されなくても、しびれのような症状に苦しむ被害者はたくさんいる。
政府は地域や生まれ年を区切ったうえで、救済にむけた受けつけを2年前に始めた。被害者と認められると、210万円の一時金などが払われる。
これまで熊本、鹿児島、新潟の3県で、5万8千人以上が申請した。7月の締め切りを政府が発表した2月以降は、月に千人を超えている。
締め切りを前に、制度の矛盾も見えてきた。
たとえば、熊本県水俣市の対岸にある天草地方は、一部が救済の対象地域だ。だが、集団検診をしている民間の医師らと朝日新聞社の分析で、受診した人のうち「両手足の感覚が鈍い」症状がある率は、対象地域の内も外も、ともに8割以上の高率だった。生まれた年が対象外の世代からも症状が確認された。線引きが実態にあっていない。
締め切りがないと、行政も賠償する企業も次に進めないという考え方もあるだろう。
だが、水俣病とみられる漁師が十数人もいるのに、漁業への影響や差別を恐れ、集落ぐるみで「患者隠し」を申しあわせた地域もある。
水俣病被害者救済法は「あたう限りすべて」の被害者を救済すると明記している。苦しみ、救済されるべき被害者が、多くいる。広がりは底なしと言えるほどだ。それが重金属汚染の恐ろしさと、難しさだ。
救済法は、住民健康調査や病像解明のための調査研究の必要をうたっている。だが、政府は住民調査をせず、被害の全体像を明らかにしていない。
細野豪志環境相は現実を見つめ、申請期限を定めた大臣通知を改めるべきだ。
水俣病は発症後まもなく死にいたる劇症型が強く知られたため、自分の症状を水俣病だと知らない人も少なくない。
最高裁が幅広い水俣病の存在を認めたことで、被害者はさらに多いことが年を経るにつれて明らかになっている。
締め切りは無理だと、医師や地元の人たちは訴えている。幕を引くときではない。
原発に依存しない安心な社会をつくっていく。そのためには、発電全体での原発比率を下げるだけでなく、核燃料サイクルからの明確な撤退方針を示すことが必要だ。
関係閣僚による「エネルギー・環境会議」は8月末、今後のエネルギー政策の方向性を決める。2030年での原発依存比率は、0%、15%、20〜25%の選択肢を検討している。
その際、使用済み燃料の処分方法も決める。原発を止めても立ちはだかる使用済み燃料の保管・処分問題をどうするか。日本は今、大きな岐路に立つ。
使用済み燃料をすべて再処理し、プルトニウムをとり出して燃料として使う。この全量再処理・核燃料サイクルが日本の原子力政策の要となってきた。
エネルギー・環境会議は、原発ゼロなら全量を再処理せず、地下に埋設する直接処分が妥当で、あとの二つの場合は直接処分と再処理の両方があり得るとの見方を示している。だが、中途半端な結論にせず、再処理路線から直接処分の方向へ、明確にかじを切るべきだ。
今後の日本では、原発を増やすことは考えにくい。ウラン燃料の使用量が減るのに、わざわざ再処理して割高のプルトニウムを使うのは合理的でない。
日本が、経済的に見合わないのに、核兵器の材料ともなるプルトニウムの大規模利用をめざせば、それをまねて再処理に動く国が続出しかねない。そうなれば世界の核不拡散体制にも悪影響を与える。
だからこそ、使用済み燃料を再処理せず、数十年の間、中間貯蔵したあと直接処分するのが、得策と考える。
ただ、この直接処分路線を選ぶと、「価値ある資源」だった使用済み燃料は一転して「価値のないごみ」になる。その結果、民間企業がビジネスとして使用済み燃料を扱う方式はいずれ、壁にぶつかるだろう。
そこで、国が前面にたって中長期的な戦略をたてることが不可欠だ。
使用済み燃料の中間貯蔵施設の建設、最終処分の研究開発、最終処分地探しなどを、事業の国有化も含めて、国が責任を持って進めていくことだ。欧米諸国も、使用済み燃料の扱いを民間企業にあずけず、国が前面に出て取り組んでいる。
核燃料サイクル施設がある青森県での代替の振興策や、再処理ビジネスをしてきた日本原燃の業務転換など、難題は多い。だが、いずれも、脱原発依存への途上で、国しか担いきれない重い任務である。