人気お笑い芸人の母親が生活保護を受けていたとして批判されたのをきっかけに、生活保護制度への風当たりが強まっている。国は保護費の引き下げを示唆し、政党や政治団体の中には次期衆院選の公約に制度改正を盛り込む動きも。一方、景気低迷を受けて相談窓口には切実な相談が寄せられ、支援団体は警戒感を募らせている。(紺野大樹)
「面接を40回受けたがだめだった」(30代男性)▽「4月に失業し、貯金は3千円」(40代男性)▽「40代の息子が10代のころから引きこもりだが、(行政窓口で)『働かせなさい』と言われ、受給できない」(70代女性)。
近畿生活保護支援法律家ネットワーク(神戸市中央区)には、5月のお笑い芸人をめぐる騒動以降、相談が急増し、直後は多い日で1日約50件の電話が寄せられた。担当者は「本当に困っている人が騒動をきっかけに、声を上げるようになったのでは」と話す。
同ネットワークは2007年10月の相談業務開始以降、今年5月末までに3753件の相談について、弁護士らが対応。約65%の2431件で給付が決まるなどしたという。
厚生労働省のまとめによると、全国で生活保護を受けている人は今年3月時点で210万人を突破。兵庫県でも10万5千人を超えており、10年度の県全体の保護費支出が1683億円に上るなど、各市町の財政を圧迫している。不正受給も多く、ケースワーカー1人が100世帯を担当する神戸市では10年度、約4億円の不正が判明している。
騒動以降、小宮山洋子厚労相は保護費の支給水準引き下げを検討する意向を示した。また橋下徹大阪市長率いる大阪維新の会は事実上の次期衆院選公約として、支給基準の見直しや現物給付中心の支給方法への変更を挙げる。
ホームレスの生活支援を続けるNPO法人「神戸の冬を支える会」の青木茂幸事務局長は「国や政治が、お笑い芸人の騒動を保護費抑制の追い風にしようとしている」と批判。「不況で雇用情勢が悪ければ、受給者が増えるのは必然。保護費の削減は給付を減らすのではなく、ケースワーカーを増やして不正受給にもっと目を光らせてほしい」と話す。
(2012/07/19 10:12)
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