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  Fate/Zero -Irregular shuffle- 作者:もぐ愛
序:召喚





 ウェイバー・ベルベットは自身の真価を見誤り、見損ない続ける魔術協会の総本山である時計塔の魔術師どもに、日々苛立っていた。

 確かに己の血に宿る魔術師としての歴史は、まだ三代しか積み重ねていない。それゆえに歴史が“浅い”という評価は、彼も認めざるを得ない、揺るぎない事実である。
 魔術師をして最も価値のある財産である魔術回路と魔術刻印。魔術師の愛人であった祖母が偶さかの運びで習得し、祖母から母へ、母より自身へと受け継がれたそれは、なるほど倍の時間を掛けたものに負けるだろう。

 しかし、だからこそ彼は代を経て積み重ねる魔術師としての絶対の価値を否定し、当人の努力と才能で埋めるという持論を提唱したのだ。



 魔術師とは最終的には根源に辿り着くことを目的とし、そこへ至るために魔術の秘奥を成そうとする人種である。
 そのための神秘、そのための奇跡、そのための魔術だった。

 そして彼ら魔術師をして、魔術をもってそれをなすのは至難の道程に他ならない。
 魔術師は根源への道筋として選択した魔術の秘奥の完成を目指す。しかしそれは、一代では到底成せる業ではなかった。
 だからこそ魔術師はその生涯を通じて蓄積した研究の成果を子へ孫へと子々孫々に引き継がせ、膨大な時間を用いて成し遂げるのである。

 その一助として、代を重ねることで開拓されてゆく魔術回路の本数は多ければ多いほどいい。
 その本数が生まれながらにして持ち合わせる量が決定づけられるのならば、本数の多い血統と血を交えればいい。
 そうした優生学的な方法すら当然の如く冷徹に取り入れられ、その手段を取った魔術師の家系は遺伝的に優れた資質と本数を先天的に得ることとなる。

 こうして歴史ある家系と侵攻の家系の間で、生まれながらの地力に格差が発生し、魔術師の巣窟である時計塔においての優劣が決まってゆく。
 畢竟、古きものは優れ、歴史と血こそに価値が見出される異界となっていった。
 そうして現在、時計塔ではそうした魔術師業界における絶対的な価値観に裏打ちされ、血統をことさらに誇り優待される生徒たちが我が物顔でのさばり続けるという環境が完成していた。

 新興の家系であり、新参者であるウェイバーはこれらの考えが嫌いだった。
 同時にこうした考えの下、自身よりも桁違いに優遇される連中、それを当然のごとくする講師陣、(本人の認識において)鳴り物入りで招聘されたにも関わらず自身に不当にして不遇の扱いをする時計塔全体に憤懣せずにはいられなかった。



 であるからこそ、魔術師の業界に蔓延る歴史と血統を重んじる不可侵の通念を否定した、己の理論の正しさを知らしめねばならないのだ。
 ウェイバーは自身の才能と同じく、己が抱くこの考えを信じて疑わなかった。

 しかし、現実はとても非情だった。
 彼の信じる自身の才能――魔術師としての実質的な才能――は、窮めて非才という他ない、お粗末なものでしかない。
 彼が周囲から軽んじられるのは、その点を見抜かれているという事情もあったのだろうが、当人はそれに全く気付くことなく、胸で息巻く至高の持論を唯一無二の真理として提唱してやまなかった。

 そしてウェイバーは自身の師事する降霊科の講師へと、会心の出来と自画自賛する一年かけて仕上げた論文を提出した。
 その講師は極めて魔術師的な人物であり、生まれた時から全てに恵まれて成長を遂げ、時計塔における当代有数のエリートであった。
 エリート。そう、時計塔でのエリートとは、ウェイバーが嫌悪し唾棄すべき旧態然とした価値観によって選別された存在である。
 名門中の名門であるアーチボルト家の嫡男であり、時計塔内では尊貴と崇敬の念を込めて『ロード・エルメロイ』と呼ばれる稀代の魔術師、ケイネス・エルメロイ・アーチボルト。

 よりにもよってケイネスは、ウェイバーの渾身の論文を軽く流し読みした後にあっさりと破り捨て、愚者を見下す賢者の態度で注意をくれたのである。
 そのケイネスの言動は当然ながら褒められたものではない。少なくとも真っ当な人間社会においては。
 しかし彼らのいる場所は時計塔であり、ケイネスはそこに君臨する有数の講師であった。
 権威も、実績も、実力も、全てが周囲から劣等生と認識されるウェイバーなどとは較べるべくもない高みに坐す存在。
 ゆえに、人間的に多少の問題のある人格であろうと、奇矯な人物など掃いて捨てるほどいる時計塔の中では許されるのが現実である。

 もっとも、被害者であるウェイバーだけはケイネスのその行為、その態度を許すことはできなかった。
 日々の鬱屈で溜め込まれ続けたやり場のない怒りは、この時一つの方向性を得たと言っても過言ではない。
 ケイネスを筆頭に魂の芯まで腐りきった魔術協会の連中に、いつか己の真価を思い知らせてやる。
 そうなれば、至高の頂を踏み締める自身の輝きに全ての者がひれ伏すこと間違いなしだろう。

 しかし、そう意気込んだは良いが、肝心の手段が一向に思い浮かばない。
 魔術だけでなく政戦両略に関する才能にも恵まれていないのか、これといった良策が降って湧いたように出てくることもなく、ウェイバーは青臭い怨念を心中に募らせていた。
 やがて煩悶と日々を過ごしてゆく内に、面憎きロード・エルメロイが極東のとある儀式に参加することを知る。

 その儀式の名は聖杯戦争。
 参加者である七人の魔術師はマスターとして各々一騎の英霊を己のサーヴァントとして召喚し、あらゆる願いと望みを叶える願望機である聖杯を得るため、七組のマスターとサーヴァントが最後の一組となるまで戦い抜き、殺し合う。
 なるほど、儀式の名に戦争と銘打つだけある内容だった。
 聖杯戦争の詳細を知ったウェイバーはこの儀式を、ようやくケイネスを始めとした時計塔の腐敗した者たちの眼を覚まさせる千載一遇の好機だと考えた。

 そして時を置かずにウェイバーにとって幸運な、ケイネスにとっては不幸な事故が起こる。
 なんと管財課の手違いにより、ケイネスの下へ届くはずだった英霊召喚のための触媒の入った荷を、形式的にはケイネスの弟子であるウェイバーが引き継ぎを頼まれてしまったのである。
 ウェイバーは懈怠な管財課の不手際に感謝した。善は急げとすぐさまその荷を奪取し、自室で狂喜乱舞するほどの浮かれ振りだった。
 荷の中身はある偉大な英雄が生前用いていた外套の切れ端である。この触媒で召喚される英霊は一人しかいない。
 その知名度や逸話から、不遇の天才たるウェイバー・ベルベットは聖杯戦争に参戦するに辺り、最強のパートナーを得たに等しい――











 ――そう、等しい、はずだった。

 ウェイバーは朦朧とする意識に活を入れ、大して多くはない魔力を消費し、初歩的な魔術で冷えた身体に暖を取る。
 そうでもしなければ凍える身体の痙攣が治まらなかったのである。


「あぁ……ちくしょうっ、なんなんだよっ!」


 目覚めたら地面に倒れていた。それが今現在、ウェイバーに判る自身の状況だった。

 時間はいまだ寒風吹き荒ぶ深夜であり、もう少し覚醒するのが遅ければ、ひどい風邪をこじらせていたことだろう。
 次第に鮮明となってゆく思考の歯車に油を差し、その回転を急がせ、ウェイバーはひたすら現状の把握に努めた。

 ウェイバー・ベルベットは時計塔の腐った有象無象を見返すため、聖杯戦争に参加を決意した。
 開催地である日本の冬木市に潜伏し、無事に参加権である令呪を右手の甲に授かった。
 そして今宵、最強のサーヴァントを召喚するべく、冬木市深山町の某雑木林の奥で、儀式を行おうとした。
 召喚に必要な魔方陣を描くため、すわ鶏三羽に引導を渡す段になって、なって……


「ま、まさか――っ!?」


 英霊召喚の寸前で意識を失うなど、自然にあり得るはずもない。ウェイバーは慌てて周囲を見回す。
 彼が坐り込むのは、雑木林の空き地から離れた場所で、近くにはリードで繋がれた鶏三羽が段ボール箱の中で今もなお生きていた。
 陣を描くための生き血は問題ない。ならば、肝心の触媒は――


「な…………なぃ……」


 世にも情けないか細い声が、白い吐息とともに夜の森に解けて融ける。
 二重三重に梱包して肌身離さず持って来た触媒、征服王イスカンダルの外套の一部が紛失していたのだ。
 状況証拠的に推理して、奪われたとみて間違いないだろう。
 そこまで思考が推移した結果、衝撃の事実のあまり大量に血の気が引き、ウェイバーの顔は蒼白を通り越して真っ白になっていた。

 この時、ウェイバー・ベルベットを襲った絶望と恐怖と焦躁は筆舌に尽くしがたいものだった。
 必勝を確信するほどの英霊を召喚する術をこうもあっさり失った現状、聖杯戦争を勝ち抜くのは困難を通り越して、その可能性は一気に勝率ゼロにまで急転直下した。
 最悪なことに、すでにマスターとして令呪を授かった以上、すぐさま冬木から逃げ出すでもしなければ、敵性存在として他の参加者に狙われることは請け合いである。

 四半刻前までは得意絶頂、まさに有頂天の心持ちだったというのに、今の精神状況はまさにどん底、ウェイバーの短い生涯において最低最悪の状態だった。
 あのロード・エルメロイと謳われるケイネスですら、時計塔の講師という権限を最大に発揮してようやく手にした触媒だというのに、今さら同格の物を用意するなど、ほとんど裸一貫のウェイバーには無理な話だった。
 同格どころか、英霊縁の品を得る伝手すらそもそも持っていない。結論は、触媒なしと相成った。

 あれほど彼を歓ばせ、まるで天使の翼の如き軽快さを錯覚させた令呪は、不思議なことに今や己の死刑宣告書のごとく重く感じ、禍々しい呪いのようにウェイバーの瞳には映った。


「ちくしょうちくしょうちくしょうっ、なんでっ……こんな……誰が盗ったんだよぉ、くっそぉ!!」


 自身も他者から盗み出したことを棚に上げ、涙と洟を垂らして悪態を吐く。
 幼稚な慟哭は喉が嗄れ、八つ当たりで痛めつけた拳から血が流れ出すまで続いた。

 喉と手の痛みで次第に悲愴感の滲む癇癪も沈静化し、なんとか正常な思考が出来るまでに落ち着いたところで、今度は現状という名の非情な現実が、鉛のように肩にのしかかる。
 その重さたるや、ウェイバーの脆弱な矮躯を押し潰さんばかりだった。何しろ掛かっているのはプライドもあるが大部分が己の命である。
 彼は否が応にも聖杯戦争に参加するべきか、尻尾を巻いて逃げるべきかの選択を、この場で余儀なくされた。

 命が惜しければ今すぐにでも逃げ出せばいい。タクシーを掴まえて空港に向かい、すぐさまチケットを購入して海外へ逃亡すれば、まだ助かるかもしれない。
 しれないのだが、仮にそうやって逃げたとしても、ウェイバーには無事に逃げ出せる自信を持つことはできなかった。

 そのような思考には当然理由がある。
 まず始めに認めなければならないのが、少なくともマスターの一人にウェイバーが参加者、それもマスターであることがバレているということである。
 召喚間際に襲って触媒を奪い取るなどというピンポイントな犯行を成し得る時点で、ずっと監視されていたのだろうと容易に推測できる。
 この時点でウェイバーとしてはこの戦争、もはや詰んでいた。触媒を奪った者には当然ながら拠点も判明していると思った方がいいだろう。
 身寄りのない異境の地で、寄る辺たる根拠地を失ったに等しい。ウェイバーの絶望感は考えれば考えるほど増していくのは気のせいであろうか。

 そうして負の感情を沸々と増大させていく内に、どうして自分が今ここで生きているのかという疑問が生じた。

 ウェイバーはマスターである。そして、触媒を奪ったのもおそらくマスターか、参加者と係わりのある人物なのだろう。
 バトルロイヤルという完全な殺し合い形式である聖杯戦争の性質上、対立陣営の参加者を生かしておく理由はまずないのである。
 くわえ、マスターという存在は生きているだけで脅威である。令呪を持っているというだけで、英霊を召喚する権利を得ている上に、例え令呪を失ってもマスターを失ったはぐれサーヴァントとの契約も可能であるのだから、触媒を奪った者(乃至者たち)は、当然のこととしてウェイバーをその場で殺害するのが最もスマートな戦略であろう。
 だというのに、ウェイバーはいまだに生きている。令呪も奪われておらず、仮に奪う方法がないならば腕を切断でもすればいいのにも関わらず、五体満足に右手は健在のままとなっている。

 おかしい。この状況はセオリーに反していると言っていいだろう。
 そもそも令呪そのものも価値のある存在である。マスターの肉体表面に一度顕現すれば、消費型フィジカル・エンチャントとしては破格の効果を発揮する。
 触媒を奪われたならば、令呪を残す必要もないはずである。

 となると、残す必要があったということか?

 考えられる理由として、マスターとしてウェイバーを生かしておく方が下手人たちの利となる可能性。もしくは、戦争開始前にマスターの殺害を忌避した可能性。
 これらはあまり信憑性のない理由だろう。そもそもマスター権そのものを奪ってしまえば、自分たちで英霊を召喚してマスターとなることができるのだから。
 次に思い浮かぶのは、甚だ不本意でプライドの塊とも言えるウェイバーの自我に大ダメージを与える可能性。
 そう、「ウェイバー・ベルベットごときマスターは別に殺す必要性もなく、令呪を奪って脱落させる価値もない」と見逃された可能性である。

 ぎりっと奥歯が噛み合う。
 ウェイバーとしては非常に認めたくないことだが、こう考えた方が自然、あり得るであろう理由となってしまっている。
 そも、征服王イスカンダルの触媒がない以上、どんな英霊を召喚するかは神のみぞ知るというやつだ。
 もともと戦争なんて野蛮な行為の初心者たる一介の魔術師に過ぎないウェイバーが、仮に並の英霊を召喚して参戦した場合、勝ち上がれるものだろうか?
 ウェイバーは自信を持って勝てるとは断言できなかった。いや、思うことすらできなかった。



 そして忘れてはいけない問題がある。
 即ち、ウェイバーを襲った下手人が征服王イスカンダルを召喚するという可能性。
 いや、むしろ征服王イスカンダルの召喚を狙ったがためにウェイバーを襲ったのではないか。

 となると下手人は、ウェイバーがそれを持っていると事前に知っているということになり、そんなことを知っているのは、本来その触媒を手にするはずだったケイネスぐらいしかいないだろう。
 しかし、あの陰湿で粘着な(とウェイバーは疑っていないし事実その通りである)ケイネスという男が、ウェイバーを生かしておくとは考えられない。
 …………嬉々として最大級の苦しみを与えることだろう。そして凄惨な死を迎えるはずだ。
 ケイネスに敗北した後の未来を、ウェイバーは恐ろしく鮮明に想像できた。
 もともと絶望的な事態であるため、思考はどん底の底辺を掘り進むように奈落へと沈んでいった。


「死にたくは、ない。けど…………勝てるのか、僕は……」


 このまま参加したとしても、最悪自分が必勝を確信したイスカンダルという大英雄と戦わなくてはならない。
 もし負ければ監督役の聖堂教会の下へ逃げ込めばいい、などと楽観的には考えられない。敗者の逃走を見逃す物好きなど、そういないからだ。おそらく辿り着く前に殺されるだろう。
 仮に冬木から逃げ出せても、誰とも知らないマスターに正体を知られている以上は、地の果てまでも追ってきて息の根を止められるかもしれない。
 まさに征くも死、退くも死という状況――。

 ウェイバーは意識を失う前に引導を渡すはずだった鶏たちを一瞥する。

 そもそも、ウェイバーは自分を見下し、蔑む時計塔の連中を見返すために参加したのだ。まだ戦争は開始されていないが、参戦の証はすでに手にしている。
 ここで逃げ出し、仮に逃げ延びたとして、どうするというのだろうか。逃げ切れた場合、少なくとも命だけは助かったという事実は残る。しかし、それだけだった。
 魔術師として大成するという望み、己の真価を知らしめる好機、自分を他者に認めさせるという意志をもって、そのためにこの命懸けの殺し合いに参加すると決めたのだ。

 言ってみればプライドを優先し、命をチップに博打を打ったのである。
 ここで逃げ出せば、自分はただ単にケイネスの嫌がらせをして時計塔から逃げ出した、取るに足らない虫螻として認知されることだろう。
 誰にも認められない不遇から行動を開始したウェイバーに取って、それは意地でもできない選択だった。

 だから選んだ。それは彼に残った最後の意地だった。
 ちっぽけな矜恃であろう。そんなもので選択するのは馬鹿げた行為だろう。
 そして、その行為は他者に認められぬことを許容できない、怯懦の末の選択でもある。

 しかし、だからどうした。
 生来ウェイバー・ベルベットの在り方は、後ではなく前を向く者であり、下ではなく上を目指す者であり、途中で道に迷おうとも、時には一旦退がろうとも、とにかく目指す場所へと進む者なのだから。
 それは今も変わらない。ゆえに――


「だから……やるしかないじゃないか……」


 ウェイバーはこの絶望的な状況において、戦う道を選択した。


 陣の染料として用意した鶏たちに引導を渡し、その生き血が熱をもっている内に召喚用の魔方陣を描いてく。
 手順も忘れておらず、大幅に疲弊した精神状況にも関わらず、確実に条件を満たしていく。


「閉じよ(満たせ)。閉じよ(満たせ)。閉じよ(満たせ)。閉じよ(満たせ)。閉じよ(満たせ)。繰り返すつどに五度、ただ、満たされる刻を破却する――」


 詠唱を紡ぐ中、ウェイバーは不思議と自身の精神が落ち着いていくのに戸惑いを覚え、儀式に集中しつつも、なんとかその理由を類推してみた。
 そして気付く。考えて見れば、触媒なしで召喚をするなど、己を信じて疑わないこのウェイバー・ベルベットの真価が問われるのと同義ではないか。
 自覚した瞬間、武者震いがしたウェイバーは、知らず不敵な笑みを浮かべていた。


「――告げる。汝の身は我が下に、我が命運は汝の剣に。聖杯の寄る辺に従い、この意、この理に従うならば応えよ――」


 つまり、これから召喚される英霊こそ、真なる自身のパートナーなのだ。そしてこうなった以上、彼が喚び出すのは征服王イスカンダルを凌駕する存在でなければならない。


 ――いや、それこそ最強のサーヴァントを招くつもりでやらなきゃならないんだっ!


 期待と興奮と少しの不安が綯い交ぜになった感情で意識が高揚し、自然、呪文を詠唱する声に力が込められる。
 そうしてようやく、ウェイバーの特質である、ひたむきに上を目指す意志の熱量が爆発した。
 内面は儀式を行うために冷静を保ちつつ、燃え盛る情熱が意思と感覚を明敏にする。


「――汝三大の言霊を纏う七天、抑止の輪より来たれ、天秤の守り手よっ!!」


 最後の呪文を詠唱し、魔方陣の中央で魔力が循環と寸断を繰り返し、エーテルの暴風が巻き起こる。陣の文様が赤く紅く朱く、夕陽のように、血のように、燦然と輝く。


「さぁ来いっ! 僕のサーヴァントっ!!」


 陣の内側が外界と繋がった。英霊の座と呼ばれる時間と切り離された領域に。人の身で精霊と同格となり、人を超越した最強の霊長たちの集う場へ。
 そして具現化する。聖杯が設けた七つのクラスに英霊がその存在の格を象られ、七騎の内の一騎として、マスターの相棒たるサーヴァントとして顕現した。


「――問おう。君が私のマスターか?」


 ウェイバーの眼前には、赤い外套を纏う白髪赤眼の可憐な少女が静かに佇み、透き通るような玲瓏な声音で誰何の言葉をかけてきた。


気付いた誤字などをちまちまと修正したりちょろっと加筆したりしました。

※以下前書きより移動。
TS魔改造エミヤンはちょっと強いです。「ぼくのかんがえたさいきょうエミヤン」的な感じに。
ただ、Fate本編と同じく「サーヴァントはすごいけどマスターがヘボいから足手纏い込みでバランス取れてる」的な路線を目指したいなぁ、と。
ZERO原作の方でも実力的に征服王の力を十全に発揮させることができないウェイバー君、士郎よりショボいですネー、これぞチートなしの凡人キャラ。


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