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Fate/Zeroに東方キャラを呼んで、聖杯戦争をするお話です。

文才はありませんし、原作の本文を流用することがありますが、そこは少々目を瞑ってください
プロローグⅠ
 とある男の話をしよう。
 誰よりも理想に燃え、ゆえに絶望していた男の物語を。

 その男の夢は正しかった。どこまでも、ただどこまでも正しい夢。

 世界のすべての人に幸せであってほしい、と、そう願ってやまなかっただけ。

 何よりも理想を追い求め、そのためにどんな戦争にも身を置いてきた。現実の非情さを見せ付けられても、どんなに絶望しようとも、男は決して夢を諦めなかった。


 どこまでも愚かで、どこまでもくだらない夢。


 どれだけなじられようとも、どれだけ辱められようとも、男は最後まで諦めなかった。人が存在する限り争いは止まず、だとしてもそれを終わらせるために誓いを立てた。

 この世のすべての生命は、犠牲と救済の両天秤に載っている。決して片方の計り皿を空にすることが叶わないというのなら――

 どこまでも正しい男は、最後まで戦い抜いた。(おのれ)の信念に従い、貫き通し、理想を実現させるためだけに命を賭して、戦った。

 彼は天秤の計り手たろうと志を固め、より多く、より確実に、世界から嘆きを減らそうと、たった一つの選択を選び続けた。

 一人でも多くの命が載った皿を救うため、一人でも少なかった方の皿を切り捨てる。
 それは多数を生かすために、少数を殺し尽くすという行為。

 ゆえに彼は、誰かを救えば救うほど人を殺す(すべ)に長けていった。

 どれだけ手を血で汚そうとも、その手に血の色を上塗りしていきながら、しかし男は決して怯まなかった。

 手段を問わず、目的を疑わずただ無謬(むびゅう)の天秤たれと、それだけを自らに課した。


 決して命の量を計り違えぬこと。


 ひとつの命に貴賎(きせん)はなく、老若男女を問うことなく、男は分け隔てなく人々を救い、同様に分け隔てなく人々を殺していった。
 
 だが彼は気づくのが遅すぎた。
 すべての人を等しく公平に尊ぶというのなら――
 それは、誰一人も愛さないということ。

 そんな鉄則を、もっと早くから肝に銘じていたのなら、まだ彼には救いがあった。

 しかし、時すでに遅く。

 今の彼は一人の妻を持ち、そして一人の娘の父親である。
 誰よりも愛し、何よりも尊ぶべき二つの命。それを、彼は手にしてしまったのだ。だから彼の理想は、元々より少々狂った状態で遂げられることとなる。

 それが叶うまでに、彼はたくさんの血を流した。

 幼少の頃より武器を手にし、それを駆使して生き抜いてきた。人を救い、殺すことに全てをささげてきた男が――


 それが今、どうして夫として、父親としての人生を歩んでいけようか?


「この子を産めて、本当に良かった」
 静かに、慈しみを込めて、アイリスフィール・フォン・アインツベルンはその手の中で眠る赤子を見つめながら語る。

 窓の外には凍てついた吹雪。森の大地を凍らせる極寒の朝。
 凍土の地に建てられた古城の一室は、だが優しく燃える暖炉の熱に守られている。

 そんなぬくもりの結界の中で、妻は、ひとつの新しい命を抱き上げていた。

 その表情は慈愛に満ちていて、触れば雪のように溶けてしまいそうなほどに美しい銀髪が特徴的な妻。見つめる眼差しはすべての愛を注ぐように真っ赤に熟れている。

「これから先、この子は紛い物の人間として生きていく。辛いだろうし、こうして紛い物の母親に産み落とされたことを呪うかもしれない。それでも、今は嬉しいの。この子が愛おしくて、誇らしいの」

 外見は変哲もない、見るからに愛らしい赤子でありながら――

 母の胎内にいるうちから幾度となく魔術的措置を施されたその身体は、もはや母親以上に人間離れした組成に組み替えられている。生まれながらにして用途を限定された、魔術回路の塊とも言うべき存在。それが、アイリスフィールの愛娘の正体だった。

 そんな残酷な誕生でありながら、アイリスフィールは「良し」と言う。産み落とした己を是とし、生まれ落ちた娘を是とし、その生命を誇って、微笑む。

 その強さ、その貴き心の在りようは、まさしく『母』のものだった。

 ただの人形でしかなかった少女が、恋を経て女となり、母親として揺るがぬ力を得た。それは何者にも侵せない『幸』の形だっただろう。暖炉に護られた母子の部屋は、今、どのような絶望とも不幸とも無縁だった。


 だが――男は弁えていた。自分が存在すべき世界には、むしろ窓の外の吹雪こそが似つかわしいのだと。


「アイリ、僕は――」

 一言発するごとに、男の胸には刃が突き刺さるような痛みが伴った。その刃とは、赤子の安らかな寝顔であり、その母の眩しい微笑みだった。

「僕はいつか、君を死なせる羽目になる」
 血を吐く思いで放たれた宣言に、アイリスフィールは安らかな表情のまま頷いた。

「解っています。それがアインツベルンの悲願。そのための私」
 それは、すでに確定された未来。

 これより八年を経た後、男は妻を連れて死地へと赴く。世界を救う一人の犠牲として、アイリスフィールは彼の理想に捧げられる生贄(いけにえ)となる。

 それは二人の間で、何度も語られ、了解された事柄だった。

 すでに男は繰り返し涙を流し、自らを呪い、そのたびにアイリスフィールは彼を赦し、励ました。

「あなたの理想を知り、同じ祈りを胸に抱いたから、だから今の私があるんです。あなたは私を導いてくれた。人形ではない生き方を教えてくれた」
 同じ理想に生きて、殉じる。そうすることで彼の半身となる。それがアイリスフィールという女の愛の形。そんな彼女だったからこそ、男もまたお互いを許容できた。


「あなたは私を悼まなくていい。もう私はあなたの一部なのだから。だから――」

「僕に」
 アイリスフィールの言葉を遮るように、男は言葉を(はさ)んだ。

「僕に……その子を抱く資格は、ない」
 狂おしいほどの愛おしさに潰されそうになりながらも、男は声を絞り出した。

 右手を硬く握り、己の理想を確かめる。どれだけ我が子が愛おしかろうと、彼の理想の前では『一つの命』でしかない。ただ等しく存在し、公平にあり続けるだけの命に変わりはない。理想は平等にその命を救い、同時に殺すだろう。それが愛娘であろうとも、例外はない。

 誰よりの愛おしい。
 世界を滅ぼすことになろうとも護りたい。

 それでも男には、解っている。もしも自らが信じる正義が、この穢れない命を犠牲として要求したとき――彼が、衛宮切嗣(えみやきりつぐ)という男がどんな決断を下すことになるか。

 いつか来るかもしれないその日に怯えて、その万が一の可能性に恐怖して、切嗣は唇を、血が滲むほどに噛み締めた。悲痛すぎる表情は、今にも泣き出しそうなものだった。

「切嗣、忘れないで。誰もそんな風に泣かなくていい世界、それが、あなたの夢見た理想でしょう?
 あと八年……それであなたの戦いは終わる。あなたと私は理想を遂げるの。きっと聖杯があなたを救う」

 彼の苦悩をあまさず知る妻は、どこまでも優しく、切嗣に微笑んだ。

「だからこの子を……イリヤスフィールを抱いてあげて? 胸を張って、普通の父親として」

 まるで聖母の如く自愛に満ちたアイリスフィールの言葉に、切嗣は頬を涙で濡らした。自分の愚かさを誰よりも知る彼女でありながら、それでもこの赤子を抱く権利があると言う。白銀に輝く美しき麗人はベッドから彼を見つめて、その腕の中で眠る赤子を差し出した。
このお話では、サーヴァントが全員、東方キャラです

セイバーライダーアサシンが未定です


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