プロローグ その執事、出現。
天井から水滴が少女の肩に零れ落ちた。
「・・・今日は雨かな?」
少女は天井を見つめると口から溢す様に呟く。だが、直ぐに俯き膝を抱えながら蹲ってしまう。
(・・・わたしは、一体どれだけの間此処にいるのだろう?)
余りにも長い時を生きてきた所為でそれすらも分からない。
「・・・寒い。」
雨の所為だろうか、何時もよりも肌寒く思ってしまう。少女は近くにあったクマのぬいぐるみを手に取ると抱き締めた。
「・・・冷たい。」
ぬいぐるみには温もりは無く、ただ冷たさだけがあった。
最後に温もりを感じたのは、一体何時だっただろう?
最後に愛情を感じたのは、一体何時だっただろう?
分からない。
わからない。
ワカラない。
(最後にお姉ちゃんの声を聞いたのは何時だったかな?)
「・・・お姉ちゃん。」
後どれだけの間をこの暗い部屋の中で過ごさないといけないのだろう。
「・・・お姉ちゃん。」
(言ったよねお姉ちゃん。もしも私が力をちゃんと使える様になったら出してくれるって・・・。)
「わたし、頑張ったよ?上手に使える様にたくさん練習したよ?」
だが、いくら尋ねても返ってくる言葉は同じ。
【・・・まだダメよ。もっと上手く扱える様になったら出してあげる。】
何回も、
何十回も、
何百回も、
何千回も、
何万回であっても返ってくる言葉は同じだった。
だからこそ、思ってしまう。
(・・・お姉ちゃんは、わたしの事を嫌いになったんた。)
だからこそ、悟ってしまった。
(・・・お姉ちゃんは、わたしを部屋から出すつもりなんて無いんだ。)
自分はこのまま一生この暗い部屋の中で暮らさなければならない。
自分は一生ひとりぼっちなんだと。
(・・・い、・・よ。)
少女の瞳から床に向かって雫か落ちる。
(・・いや・・・っ、だよ。)
そのまま少女から溢れんばかりの涙が頬を伝い床に落ちて行く。
「ひとりぼっちはぁっ、嫌ぁだよぉ!」
そして、少女は誰もいない部屋でひとり悲しみながら泣き続けた。
一体少女はどれだけの間泣いて居たのだろうか。
涙は枯れて、少女の瞳の回りは赤くなっている。
抱き締めていたぬいぐるみも遠くに放り出されていた。
(・・もう、疲れちゃたよ。)
少女が何もかもを諦めようとしている時、誰も居ないはずの廊下から誰かが近づく音が聞こえて来た。
(・・・誰だろう。咲夜かな?)
歩く音が段々と近づいて来る。そして、その足音は扉の前で止まった。少女は誰が来たのか疑問に思い問いかけてみる。
「・・・咲夜?」
だが、返ってきた返答は少女が思っていたモノとは全く違うものだった。
「・・いいえ、違います。私は咲夜という者ではありません。」
返ってきたのは否定。自分は咲夜では無いという男の声だった。
では、一体誰なのだろう?少女の知る人物の中には男の知り合いはいない。迷い込んだ何て事も有り得ない。
少女は扉の向こう側に居る男に自分の疑問を聞いてみた。
「じゃあ、貴方はだれ?何しにここに来たの?」
「私はただの執事。我が主人であるフランドール・スカーレット様をこの部屋から連れ出す為に参ったのです。」
「・・・主人?」
「ええ、我が主。」
「部屋から出ても良いの?」
「貴方が、それを望むなら。」
それを聞いたフランの瞳に明かりが灯り、ついに外に出る事が出来る事に嬉しさが溢れ出てくる。
「・ ・・出たい・・わたしをここから出して!」
少女は強く願った・・・外に出たいと。
「・・・Yes, My Lord.」
そして、執事は主人の願いに応えた。
硬く閉ざされていた扉がゆっくりと・・・音を立てながら・・・開かれる。
開かれた扉の前には青年が立っていた。
肩まで伸びた青黒の髪
赤い瞳
誰もが見惚れそうな容姿
執事服に身を包んだ青年が・・。
「では、参りましょうお嬢様。・・・外の世界に。」
そう言いながら青年はフランに手を差し出しそれに応える様に・・・彼の手を離さない様にフランは強く握り返した。
To Be Continued