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本編
哀 戦士
その日は朝から最悪だった。つーかケンプファーになってからほぼ毎日最悪なんだがな。
夢の中ではカレクックに延々とカレーを食わされた。水琴の襲撃を恐れてベットの下で寝たのが原因だろう。
当の本人は勝手に鍵を開けてあがって来た。ドアを開けたら音が鳴るように罠を設置してたんだが外されたらしい。残念。
「なにあれ、罠のつもりだったの?」取っ手掴んだらえらい事になるようなのつけてやるからな…。
しばらくして紅音が家にやって来た。律儀だなぁ…。



とりあえず学校のすぐそばにある喫茶店に入る。
「女のナツル、早く来ないかしら」本人前にして来たら奇跡だ。
「(このまま来なかったらあきらめるでしょうか…)」
紅音が聞いてきたがそれは絶対ないだろう。水琴は食らいついたら離さないからな。(スッポン)と同じだ。
「あ、佐倉さんだ」
「マジか」
思わず食い入るように窓の外を見た。昨日あんなことがあったからな。
見た感じ、とくに何ともないようだ。
「……キモい」
いきなり水琴に暴言をはかれた。何でやねん。
「目が汚れてる、変質者みたい」
「よく分かった。表出ろやコラ」
思わず立ち上がる。長年の怨み、今はらしてくれる。
「あ…あの」
ずっと黙ってた紅音が俺の服を軽く引っ張った。
「とめるな紅音ちゃん。コイツとは拳で語らなきゃならんのだ」
「いえ…そうではなくて……」煮え切らないな、なんなんだ。
そこで気付いた。腕輪が光ってるのだ、敵はいないようなのでランダムだろう。
俺は慌てて走った。
「ナツルどこ行くの!?」
水琴が騒ぐが無視。よかったな、噂の女ナツルにすぐに会えるぞ。
店から出て人気のない路地に入ったとたん変身した、誰にも見られちゃいないようだ。
「また女子部か…」正直嫌だが仕方ない。それもこれも雫のせいだ。
そのまま学校の敷地内へ足を進めることにした。
すると俺の姿を確認した女子一同が一斉に左右にバラける。なぜに?
「あれが噂の…」
「老若男女問わず食った…」
「年下にSMを強要してる…」
「近付くと妊娠させられる…」
「ナツルたん、ハァハァ…」
なんか凄い不快…最後のホントに女子か?
一日で噂がエライことになってるようだ、俺なんかしたかな…。
「ちょっとあんた」
呼ばれたので振り返ると、そこには水琴がいた。そのうしろに紅音も。
「聞きたいことがあるんだけど」
ここで断ったら…後がメンドくさそうだ。
「ついてきて」水琴は校舎の方へ歩きだした
仕方ないのでついていくことにした。昔不良にタイマン張られた時を思い出す、状況どころか性別違うけど。
「ついたわよ」
水琴が目差してたのは新聞部だったようだ。ここは嫌な記憶があんだよな…。
「あんた女好きってホント?」
元が女だから当たり前なんだが、それ言ったらややこしいことになるからここは首を横に振っとく。
喋らないのは声でばれるかもしれないから、一応幼なじみだし。
「ふーん…。ま、聞きたいのは他に流れてる噂なんだけどね」他の噂?
紅音ちゃんの方を見るが首を傾げていた。知らないようだ。
「あんたが実は男子部の瀬能ナツルが好き、ってやつ」
は?
「とぼけても無駄よ。生徒会長が聞いたって言ってるもん」
(ヤツ)か!何考えてんのか全くわかんねぇ。そんな噂を流してどんなメリットがあるんだ?
俺が考えごとをしていても構わず水琴は続けた。
「はっきり言ってナツル(あいつ)はマゾよ。わざと人を怒らせて罵倒をあびるのが大好きなの」
ぶち殺す!もう少しでそう叫びそうになった。殺意の波動に目覚めかけてるのが自分でもよく分かる。
水琴は顔を赤くして、話しに夢中で気がついていないようだ、紅音は顔面蒼白で今にも倒れそうなくらい震えてんのに。
「…ツルのことが好きなのは方にも…」
知らない間に話しが進んでしまったようだ。どっちにしても声小さくて聞こえねーよ。
「とにかく!あんたホントに男ナツルのこと好きなの?!」急に大声をだしたかと思えば、くっつきそうなくらい顔を近づけてきた。こいつ…意外と……。
「どうなの!」
水琴の迫力に思わず頷いてしまった。
…って何してんだ俺ェェェェ!!!
「……そう…」
水琴は沈痛なおもむきで、絞り出すような声をだした。
「…こんなとこに呼び出してゴメンね…。応援、するから」そう言って部屋から出ていき、あとには俺と紅音だけが残された。
「……エライことになったな…」
「はい……」
二人してため息をついた。ギャグを言う気にもならねぇ…。



チャイムが鳴るまで新聞部の部室で沈んでたせいで、一時間目の授業は遅刻してしまった。仕方ないので終了間際に教室へ向かうことにした。
だって担任の授業なんだもん…途中で入ったらどうなることやら……。
紅音も何も言わず俺と同じ行動にでた。生徒にこうまで思われる教師っていったい…。
「瀬能様!」
「あの噂は本当ですか!」
「わたしを捨てて男に走るだなんて!!」
教室に入ったらそれはそれでメンドいことになった。頭イテェ…。
「瀬能さん、もう少しまってください。オッズが上がります」人を賭けの対象にすんな。
「あたしは負けに賭けたからー」ヘラヘラしてんじゃねーよ、髪の毛染めんぞ。
「人の不幸は蜜の味…ふふふのふ」自分じゃなかったら賛成なんだがな。
誰にも頼れないこの状況、まるで四面楚歌だ。ゆいつの紅音はオロオロしっぱなしだし。
「瀬能様!!」
「瀬能さん、助けてほしかったら報酬を」
キサマらの言うことを聞くくらいならぁー!!
「ナツルさん?!」紅音が驚いた声をだす、当然だ。
俺は開いていた窓から外へ飛び出した。ここは二階?そんなの関係ねぇー!
ガサッ!バキバキバキ!!


「抜かったわ…」
まさかすぐ外に木が生えてるとは思わなかった。
二年四組の教室からは「まさかそんな行動に!」とか「瀬能様ー!!」等の声が聞こえた。
「また噂が増えただろうな…」
それも悪い方に。
もう今日は帰ろう…と女子部にある自分の下駄箱を開けた。
「…?…」
靴の上に見慣れない封筒が置いてあった。ラブレターだろうか。
余談だが男子部の俺の下駄箱にも一度だけ似たような物が入ってたことがある。
心臓をバクバクさせ、それこそ期待に胸を膨らませてトイレの個室まで行き、中身を読んだものだ。
そこに書いてあったのは。
『残念賞、次に期待』
…書いた犯人は捜し出して半殺しにしたのも、今ではいい思い出のはず。
閑話休題
「今度は何だ…」ケンプファーになってからラブレター(こんなもの)ざらだからな。女の時だけだけど。
「何々…」
『同じケンプファーとして決闘を申し付ける。夜十一時に星鐵学院女子校舎にて待つ。約定をやぶれば恋人の身に災難が降りかかるであろう』
今時果たし状なんてもらったの初めてなんだが、つーか恋人って誰だよ。なんか字が古風だし。
「……ん?」何度も読みなおしてるうちにあることに気付いた。
「時間は…?」
俺は『いつ』の夜十一時に行けばいいんだろうか。


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