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本編
世界の片隅で
教室に行ってからは酷かった。
ますみがでっちあげた新聞を鵜呑みにした女子生徒たちが押し寄せて来たのだ。
そのうえ委員長ら三人が率先して商売を始めやがった。俺に儲けがこないってのはおかしくねー?
押し付けられた手紙とかは返事書かなきゃなんねーし最悪だよ。マジで。
午前中のほとんどがそういったイベントで潰れた。
…最近真面目に授業受けた記憶がないんだが、俺の高校生活これでいいのか?
「委員長さん」
「何ですか?報酬ならありませんよ」
ねーのかよ。
思わず金勘定してる会計を見た。あれ俺のおかげだろ?
色々納得出来んが今は置いとく。
「さっき写真を撮ってたけど…」
「販売用です」まだ稼ぐ気か。
「一枚男子部の瀬能さんに…」きわどいのは撮ってなかったから普通なのがくると思うが…。
「同じ名前の男の子?知り合いですか」
「ええ、まあ…」同一人物です。
東田に渡さねーとうるさいからなあいつ。雫の写真はなんかあった時に使えるかもしれんし。



昼休みだ。女子部の食堂は初めてだがかなり綺麗だった。
男子部のはなんか昭和な空気が漂うし、料理はマズい。だから購買はいつでも人でごった返してる。
「あ・あの…」
男子部との待遇の差にカルチャーショックを受けてたら、知らない女の子に声をかけられた。
「瀬能ナツルさんですよね。ご飯、ご一緒してもいいですか?」どうやら一年らしい、初々しいねぇ。
「あー牧恵ずるい!」
「抜け駆けよ!」
なんか大事(おおごと)になってきたな。
「一緒に食べたい」なんかはいいとしても「胸を触らせて」ってなんだよ。
「やめてください、皆さん」
唐突に声が響いた、佐倉の声だ。
「ナツルさんは病弱で復学したばかりなんです。そんなに騒がないでください」
佐倉の言葉にまとわり付いてた奴らは、蜘蛛の子を散らすように離れていった。
そういえば俺は病気で休学してたことになってたんだ、忘れてた。
「ナツルさん、ご飯一緒に食べませんか?」私、ご機嫌ですと言わんばかりの笑顔だった。
「いや、でも…」
告白されてから会ってないし…正直、色々気まずい。
「雫ちゃんも一緒に食べたがってますし」
余計気まずい。



結局、雫や佐倉と一緒に昼飯を食ことになった。押しに弱いな俺…。
「初めまして。楓から話しは聞いているわ瀬能ナツルさん、三郷雫よ」
雫は当然といった感じで自己紹介した。女の姿では初対面ということにしたいんだろう。
「初めまして、生徒会長」
「雫でいいわ」そう言ってカツ丼に箸をつけた。似合わねー。
そこから色々な話しをした。佐倉と映画を見に行ったこととか俺が加わり星鐵二大美少女から三大美少女になったこととか、話題がギリギリっぽいのは気のせいじゃないだろう。
「そういえば新聞部の号外。私も読んだわ」
思わず飲んでたお茶を吹き出しそうになった。なんて爆弾放りやがんだコイツ…!
「もー、駄目だよ雫ちゃん。あんなの嘘なんだから」
「そうなの?」
そうなんだけど、なんで本人に聞かないの?
「絶対そう。ナツルさんは…一途なんだから」
いや、常日頃からハーレムルートを探しているけど?
「そう…なら今はどんな男性(・・)に恋しているのかしら」
雫はわざと男性のとこを強調して言った。
「男子部の人かしら、瀬能さんに好かれてる人が羨ましいわ」
何で俺が恋愛してるみたいになってんだ?あと佐倉が驚愕といった顔で動かないんだが。
「ごちそうさま」
考えてるうちに雫が席を立った。いつの間に食ったんだこいつ。
「そういえば、一年の近藤さん。あなたの知人?」
知ってるくせに、わざと聞いてんだろ。
「彼女。なかなかいい子ね」
「そういうのは本人に言ってあげて」
雫は返答せず去っていった。今まで黙ってた佐倉も。
「…………帰ります…」
思いつめた顔してたが大丈夫かあいつ。


その日、学校が終わった後紅音を家に呼んだ。これからのことについて話し合うためだ。
「ナツルさんは見てて退屈しませんね」
「やかましい」
俺はハラキリトラの感想に悪態をついた。他人事ならそりゃ面白いだろうな。
「色々あって何から手をつけりゃいいのか…変身がランダムってのも問題だしなぁ」
「ですね…」
紅音と二人、ため息をついた。最近いいことねーなー。
すると下の階からドタバタと音がした。何事?
「ナツルーあがったよー!」水琴がいきなり現れた。どうする。

→戦う
 防御
 道具
 逃げる

「み・水琴さん鍵は…?」
個人的に一番上を選ぼうとしていたら紅音に先をこされた。やはりスピードが大事か。
「あれ?紅音ちゃんじゃん。なに、部屋にまであがり込む仲だったの」
「ええと…」
水琴の言葉にすぐさま紅音は俺の方を見だした。すぐに弱気になんのがこいつの悪い癖だ。
「水琴てめぇーこの前飾りつけした時に忘れ物してっただろ。『我は力に在って生命に在らず』とか夜中に聞こえてくんぞ」
助け船って訳じゃないが口をはさんだ、真実だしな。
トイレに行った時本気でビビったぞ。
「あ、やっぱりここだった。なかったから探してたんだ」
「早く回収してくれ」これ以上何かに選ばれるのはたくさんだ。
いけない、いけないとか言って水琴は一階(した)に降りて行った。どこで手に入れた物なんだろうか。
「助かりました…」
「いや、別に」
「水琴さんなにしに来たんでしょうか…」
少なくとも厄介ごとで来たのは確かだ。
しばらくして水琴が帰ってきた、手に置物を抱えて。
「ナツルー。とくに体に異常ない?」
「そんな危険な物人ん家に忘れていったのか」
幼なじみだよね、俺たち。
「まあそれはおいといて」
凄く気になるが話しが進まないからほっとこう。知るのも怖いし。
「これ、知ってるでしょ」
水琴が突き付けてきたのは朝配られてた号外だった、破り捨ててぇ…。
「ますみが仕掛けたのよ。けしかけたのはあたしだけど」
黒幕はコイツか!とりあえずぶん殴りそうになったが理性でカバー、全部はかせてからだ。
「あの…それで…」
紅音が俺の代わりに聞いてくれた。ナイス。
「女ナツルについて色々調べたいから手を貸してちょうだい」
貸しを返してもらった記憶がないんだが。
「それに…他にも知りたいことが……」
なんか急に顔を赤くして下を向いた。知りたいこと?
「それだけの用事で来たのか」
俺の言葉に水琴は直ぐ様顔をあげて。
「なによ。ホントは学校で言いたかったのにいないんだもん」
女子部にいたからな、とは言えん。
それで話しは終わったのだろう。水琴は笑顔で言った。
「ナツル晩ご飯まだでしょ。作ってあげよっか」
「いらん」俺は即答した。
「なによー、おいしいもの作ってあげようと思ったのに」
どうせカレーだろ、それかラーメン。
「お前のせいで一時期、カレー中毒になった。もう四角く白い部屋に入りたくない」
思い出すのは両親の心配そうな目、クラスメイトからの寄せ書き、医者の患者を見るような眼差し、浮かんでは消えるカレーの残像……、辛かったなぁ…カレーなだけに。涙が出そうだ。
「バッカみたい」
「キサマァァァ!!!」
言うに事欠いてそれか!加害者のくせに…加害者のくせに!
「コロシテヤル…コロシテヤルゾォォ!!」
「駄目…ナツルさん駄目です!!」
水琴につかみ掛かろうとしたら、それまで黙って様子をうかがっていた紅音が怯えながらも俺を羽交い締めにした。かなり力を入れてるらしく振りほどけない。
「ていっ」
「ぐはっ」
身動きできないのをいいことに水琴が鳩尾に拳を打ち込んできた。コイツ人体の急所の一つを…。
「それじゃあ明日の朝、女ナツルを見張るからこの家集合ね」水琴はそう言って帰って行った。
「畜生…疫病神だあいつは……」
「なかなか大変ですねぇ」
やれやれ、といった感じのハラキリトラの言葉が静かに部屋に響いた。誰か代わってほしいぜ…。


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