うかつな敗北は大相撲の興趣を損なうだけではなく、力士の本来持つ能力も出せずに終わる。こういった勝負の決着は、力士にとって無念なものだろうし、わざわざ切符を買って見に来てくれた客にも、申し訳のないものだろう。
そのうかつな負け方がなぜか多くあるように思えたので、気をつけなければならない旨を小稿で書いた。ところが、負けたのではなく、何がどうなったのか分からずに勝ってしまった相撲が、11日目の土俵で飛び出した。
問題の敗北に関して、私が名指しで書いたのは、売り出し中の国産大関2人である。しかし、11日目の土俵で、めったに見られない、うかつ相撲を演じたのは、大関ではなく小結の妙義龍で、勝つ役割を引き受けたのは、うかつ負けが目立つ琴奨菊だったのだ。まるで、映画全盛期時代に、オールスターが総出演しているのに、次から次へと有望な新人俳優が肩を並べてくるあの手のような話であった。
一方、土俵の方はどうなっているかというと、終盤戦らしいという限度の中で、次第に荒れる様子を見せているといったところだろうか。白鵬、日馬富士の2人を、琴奨菊2敗、稀勢の里と把瑠都3敗、琴欧洲4敗、鶴竜5敗の5人が、どこまで追うことができるだろうというところだろう。その他に、魁聖2敗と競馬でいえば大穴の評価に相当する力士がいる。話題がこの力士にまで及ぶとなると、ちょっと意識の範囲の中に収まらなくなってしまう。
力士の名と、その成績を並べてみると、一つ、気がつかずにはいられないことがある。
それは、淡々と勝負が進行しているようだが、先頭を走る白鵬から見ると、少々不気味な要素を含んでいるといわざるを得ないと私は思える。
どうして、そんな感じを持つかというと、先頭を追う微差2位、3位の力士たちがそろいすぎている。そこから波乱が始まって大きくなる可能性を秘めているように思えるからなのである。
いずれにしても、このまま無事に千秋楽に到達できるとは思えない。
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