お待たせしました。一話目の始まりです。
今回は主人公が走ります。逃げ回ります。叫びます。
その内容は本編を読んでのお楽しみ。
「ちっくしょぉぉぉ!!何で俺まで巻き込まれるんだよぉぉぉ!!」
俺は夕焼けの色に染まった空の下を懸命に走る。
俺の名前は桐崕 隼人
俺の後ろには不良の大群が俺を捕まえようと、手を伸ばしながら押し寄せて来ている。
そうなってしまったのも全ては隣を走る悪友のせいだ。
フルネームは哀川 勇也
元不良仲間のバカ野郎なのだが、コイツときたらふざけていやがる。
適当にその辺をぶらついている時に不良に呼び止められ、自分の能力についてとやかく言われたから、という理由だけで喧嘩を吹っ掛けやがった。
今となってはこの通り。 後ろには数えきれないほどの不良の山だ。
その数、1、2、3、4、5……多すぎて数えるのもめんどくさい。
おそらく30人はゆうに越えるだろう。
誰かなんとかしてくれ。
そんな言葉を聞くと皆「自分の力で何とかしやがれ」
とか言いそうだが、そんなのは論外。
まずはこの状況を理解してから言いやがれ。
それに例え人が少ないにしてもやる気にはなれない。
元々は俺も不良仲間だったわけだから奴らがどんな事を考えているか分かるってもんだ。
俺らが力の一つや二つ使えば、仲間を一気に呼ぶに違いない。
不良ってのは常に集団だからな。
嫌な目に遭わないために俺は後ろから追ってくる不良共から逃げる。
街を歩く学生や社会人何ぞ関係ない。
邪魔する者は全て払いのけ、道を横切る監視ロボを跨いで避け、表通りと裏路地を縫うように掛けていく。
そして表通りに突き抜けたちょうどその頃に、真横からこの問題を起こした張本人から声が飛んできた。
どうやら何か言いたいらしい。
「おい。いつまで逃げる気だよ、これ。あんな奴らぶっ飛ばせば早く済む話じゃねぇか」
はぁ…こいつは全く反省していないらしい。
「バカ野郎!元はと言えばお前が起こした問題だろ。本来ならば俺は追い掛けられるはずはねぇんだ!ごちゃごちゃ言うならお前が何とかしやがれってんだ!!」
「じゃあ俺は勝手にさせてもらうぜ。っしゃあ!燃えてきた!」
あ!アイツ一人で不良の大群に向かって行きやがった。
何を考えてやがる
「おうおう。何のつもりじゃワレ!俺達に立ち向かうつもりか!?いくらでも掛かってこいや。めためたのギッタギタにしてやるけぇのぉ!」
不良の内の一人が勇也に向けて罵倒の声を上げる。
てかいつの時代の奴だよ!
お前は何処のヤクザだ。バカ!
なんて声を投げ掛ければ、火に油を注ぐがの如く暴れだすに違いないから止めておく。
そのままアイツを放って逃げるのも良いのだが、俺を無くしてしまえばアイツは好き勝手しそうで心配なので一度立ち止まる。
もし勇也が『警備員』か
『風紀委員』に捕まった時に俺の名前を出されたら困るしな。
アイツの事だから有り得る。
だから俺はいざという時のストッパーだ。
まぁ、アイツが喧嘩で負ける事はないだろ。
アイツの体力は無尽蔵だし、力も強い。
運動神経抜群だし、瞬発力もある。
頭は悪いが、喧嘩の時だけ何故か頭がキレる。
それにそれだけじゃない。
アイツの右手には特別な力がある。 刃物を使われようが、銃で狙われようが勇也には関係ない。
何故なら…
「死ねやクソ野郎!」
不良共の喧騒など関係ないとでも言うように、不良の山に向かって行く。
不良の内の一人が拳を振り上げると同時に勇也も拳を握る。
両者の拳が振り抜かれ、勇也はまるでわざと狙っているかのようにその拳に向けて拳をぶつけた。
そして両者が腕を振り抜こうとした瞬間。
「ぐべら!」
不良Aは情けない声と共に、近くにいた不良を巻き込んで吹き飛ばされた。
ただ見ただけでは裏で何が起きたのかは分からないだろう。
だがあの瞬間には確実に何かが起きた。 その理由はさっきも言った通り、勇也の右手にある。
あの右手に備わる力。
それは『衝撃堕とし(フォースアウト)』という、ある一種の異能力である。
”あらゆる物理的に発生する負担を無効化する力”
簡単に言えば右手に掛かる負荷を打ち消す力と言えば良いだろうか。
その力で不良Aの拳がぶつかった時のダメージと、腕を振り抜こうとした時に右手に掛かった負荷を打ち消し、結果的に残った勇也の拳の力が不良を吹き飛ばしたというわけだ。
普通ならば有り得ない事だが、勇也だからこそ出来る美業なのかもしれない。
あの無尽蔵な体力や、物凄い運動神経の秘密もあの右手にあるようだが、アイツにはその原理が理解出来ていないらしい。
まぁ、その原理はまた後ほど伝えよう。
さて、今ので新たな問題が発生した。
見ろ! あの不良共の今にも爆発しそうなオーラ。
一部の人なんか血管が切れそうになってるよ。
物凄く嫌な予感がする。
身体中から生えている毛が逆立ち、金髪になっている者もいれば、目が車輪みたいな模様になっている者もいる。
ここで色々とツッコみたい所が多々あるが、今はそんな場合ではない事を第六感が告げていた。
”速く逃げろ”と、そう訴え掛けてくる俺の一部の神経。
身体中の神経が震え立ち、その戦慄に身も心も上手く動いてくれない。
脳に速く動けと命令を送るが、それも上手くいかない。やばい、と緊張で身を固め始めた瞬間…
「うお゛お゛お゛お゛お゛ッ!!!!」
地面を奮い起たせるほどの怒号が俺の耳に響いた瞬間、もう一度身体中に脳から”動け”と命令する事でやっと一歩を踏み出す事が出来た。
俺がその場から逃げようとした時、事件の原因である張本人、勇也が俺の元に戻りこう言った。
「あら、やっちゃった。てへ☆」
「てへ☆ じゃねぇ!!そんな場合じゃねぇよ!!そんな簡単に済ますな!!ちっくしょぉぉぉっ!!!!やっぱり最悪だぁぁぁぁぁっ」
「あっはははっ。逃げろ逃げろ~」
「ふざけるなぁぁぁぁぁ!!!!!!!!」
その叫びと共に勇也の腕を掴み、光にも負けない勢いで全力疾走した。
「勘弁してくれぇぇぇぇぇ」
この様子を外から見ていた一般人はこう思った事だろう。
「哀れ、少年」
その後、物凄い勢いで彼らは姿を消したという…
あれから数十分。
俺たちは第七学区の路地裏で休息をとっていた。
見る限り、どこを見ても建物だらけ。
俺たちを挟むように建っており、その広さは大型トラック1台分と、休息にはちょうど良い場所である。
ただ地面のあちこちに不良が使い捨てたタバコの吸い殻や、ガムの噛んだ後など、見るも無惨な姿で、鼻をねじ曲げるような生臭いその臭いは心地好いとは言えない。
それが無ければ居心地が良いのだが……。
夜の闇に染められ、街灯の一つも無いこの場所は真っ暗。
少しの音でも察知しようとしない限り、他者の存在を知るには少し難しい。
裏路地という事もあって不良も集まりやすいのだが、ほとんどの不良はあの大群の中にいるのでどこにも人影は見えない。
普通ならこんな危険地帯に足を踏み入れようとは考えないだろうが、だからこそ俺達はこの場所に身を置いている。
何故なら、普通なら来るはずは無いだろうという常識の隙を突くためだ。
当たり前だ。
不良から逃げているんだから、その仲間がいるような場所には普通逃げない。
その穴を狙って俺達はこの場所に来た。
だが不良が全く来ないとも言い切れない。あの不良の仲間ではない別の集団がいるかもしれない。
いつ敵が来るかも分からない緊張に身を固めながら、とりあえずここで休息をとる事にしたのだった。
俺は地面に仰向けに寝転がり、勇也は壁に寄り掛かって体力を回復させる。
そんな中、俺は気配を断つように静かな声で呟く。
「やっと逃げ切ったな…」
「ああ…」
流石の無尽蔵な体力を持つ勇也も、今回ばかりはキツかったようだ。
無理もない。 第七学区の端から端までを全力疾走で走った上に、息を吐く動作さえ静かにし、さらに気配も隠しているのだから。
流石の右手でも疲れまでは無効化してくれないのだから、それも当然だった。
ちょうど良いので、ここいらで軽く勇也の運動神経の秘密について説明しておこう。
前にも言ったが、その真相は勇也の右手にある。
”あらゆる衝撃や負担を無効化する能力”
それが勇也の右手の力だ。
例えば重量を負担として受け入れているならばどうだろうか。
それはもちろん右手によって無効化されるだろう。
そう、つまりはそういう事。
筋肉への負担までも打ち消し、運動神経へと繋げているのだ。
だが流石に完全に無効化する事は出来ない。
何故なら身体全体には重量が掛かるからだ。右手が”右手に触れた重量”を打ち消しているだけならば、他の部位に掛かる負担までは打ち消せないだろう。
だが右手も身体の一部に入る。
つまりは多少の重量を消しているから、勇也は常人より身体が軽いという事。
解りづらいだろうが勘弁してくれ。
俺でも曖昧にしか理解出来ていないからな。
まぁ、簡単に言えばそういう事だ。
簡単な説明も終わったし、さて、どうするか…
そろそろ帰っても大丈夫かと考えてみたが、あれからあまり時間も経っていない。
不良の大群が近くにいるかもしれないのだ。
約5分もあれば不良も遠くへ行っているだろうが、油断してはいけない。
不良共が俺達の存在に気付いていなくても、どこかに見張りを着けているかもしれないので、迂闊にこの場所から離れるわけにもいかなかった。
とは言っても、ずっとこの場所に居るわけにもいかないよな……。
「さて、これからどうしようか」
俺の微かな呟きに勇也は答える。
「そろそろ帰らないか?時間だってやばそうだし」
「そうだな。この暗さだと大体6時くらいだろうから、今から帰れば寮の門限までには間に合うかもな」
辺りはすっかり真っ暗になっている。
春の後半という事を考慮すれば、その様子から6時くらいである事が推測出来る。
だが推測だけでは不安なので、ポケットに手を入れてケータイを取り出した。
折り畳み式のケータイを開いて時間を確認する。
ただ今の時間
6時55分
そんなバカな……
因みに寮の門限は7時。
この場所から帰るとして、大体一時間くらいは余裕で掛かるだろう。
確かに当然の結果だな。
不良に追われた時間は約一時間。
とあれば帰る時間も一時間は掛かるという事だろう。
5分しかないというのに、帰るのに一時間も掛かるなんて…絶望的だ。
急げば間に合うとかそんな問題ではない。
どう足掻いても間に合わない。
流石の空間移動系能力者でも、5分は不可能だろう。
どれだけ急いでも、絶対に30分は掛かる。
もはや諦めるしかなかった。
でも、遅れてしまうと寮官が怖いからなぁ。
たまに一日中正座で過ごせとか言われるし。
後が思いやられる…
油断は出来ないが、あまり門限を送らせたくもないのでそろそろ帰る事にした。
「勇也、そろそろ帰ろうぜ。時間がない」
「ああ、俺も確認した。でも、そんなの今さらだろ?急いだって無駄だって」
「でも時間の度合いで厳しさも変わるだろうから、なるべく早めに帰った方が良いというのは確かだと思うぞ?」
俺がそういうと勇也は数秒の間「うーん」と唸りながら考えはじめ、約5秒を過ぎた辺りで口を開いた。
「確かにそれもそうだな。帰ろうぜ」
そういって元来た場所へと戻ろうとした所で。
スー……タッ……スー……タッ……
這いずりにも近い、そして同時にコンクリートを叩くような足音が響いてきた。
俺たちは瞬時に身構える。
足音の正体はなんだろうか。
これが一般人なら良いのだが、こんな所に一般人など来るはずもない。
来るとすれば迷子になった小さな子供か、乱暴な不良共くらいだ。
だがこの時間に小さな子供が出歩いているのはおかしい。
それがよっぽどの親でなければ。
しかし、この学園都市では小さな子供は教育施設に預けられるようになっている。
子供が迷子にならないように、逃げないように、大人が管理しているはずだ。
こんな所に子供が来るはずはない。
となれば必然的に後者になるわけで…
ドサッ
そうやって考察している間に足音は突然止み、何かが倒れるような音がした。
俺達は唾を飲む。
昼間なら余裕で見渡せるこの一直線の道も、こんなに真っ暗ならば暗闇に遮られて辺りを見渡すのも困難である。
数分ほどいたとはいえ、まだ完璧には暗闇に慣れていない俺達の目ではその先にいるはずの人物を捉える事など不可能だった。
俺たち二人が緊張の余りに沈黙を崩さないでいると、暗闇の向こうから声が響いてきた。
「だ、誰か…我に、我にご飯をくれなのじゃ…」
それは幼い女の子の声だった。
とても弱りきった声に、俺と勇也はある意味後退りする。
別に怖いとかそんな事ではなく、また面倒事に巻き込まれそうな予感がしたからだ。
先ほど聞いた言葉から推測するに、晩飯が欲しいという事が分かる。
ここでまともに付き合ってしまえば、自分の財布に氷河期が来る事を示している。
生唾を飲み込む。
ほんの小さな音だったはずだったのだが、その音はすぐ手前にいる女の子には聞こえたらしい。
弱々しい声が再び飛んできた。
「そ、そこのお前達…。我に、我のために何かご馳走をしてくれなのじゃ…」
お願いをしているにも関わらず、図々しい言葉だった。
真っ暗闇で女の子の姿はあまりはっきりとは見えないが、天から漏れる微かな月の光を頼りに眼を凝らしてよく見ると、その女の子は大体小学生くらいの子である事が伺える。
それくらいの年齢なら礼儀を知らないのも当然か。
古風な喋り方には気を引き付けられるが、今はそんな暇など無い。
俺は勇也の様子を横目に覗く。
首筋からは大粒の汗水を垂らし、疲労感と緊張感でいっぱいなのか不規則的に呼吸している。
それは俺も同じで、まるで俺達が一体化したような感覚に苛まれる。
俺の視線に気が付いたのか、勇也は俺の方に顔を向け、視線を合わせる。
勇也の目には緊張の色が伺えるが、これは恐怖から来る緊張感ではないのは明らか。
どう見たってこれは災難の予兆を感じ取っているようにしか見えない。
少なくとも俺は思った。
それはそうと、地面に倒れ込むこの少女をどうするか…
こんな場所に小さな少女がいる事から察するに、何か裏があるのは確かだ。
ここは逃げたい所だが、こんな小さな少女を夜遅くに出歩かせるのも危険なので、無視する事も出来ない。(声と影から小さな少女と察しただけだが)
てか、ここで俺達が逃げてしまうのは不謹慎な気がする。
それに、夜遅くに少女を置いてけぼりにするのは、あまりにも大人気ない。
なので、俺は少女に声を掛けてみようと思う。
それを勇也に伝えようと、視線で伝える。
長い間の付き合いだ。
きっと察してくれるだろう。
勇也もそれが分かったのか、生唾を飲み込みながらも頷く。
意思が伝わったなら早速行動だ。
そう決意し、一歩踏み出した瞬間…
「面倒事はごめんだ!! さらばだーっ!ハッハッハァ!!」
そう言いながら哀川はこの場を逃げるように去って行った。
違う。俺の意図を察しといて、それが分かってて本当に逃げやがった。あのやろぉ。
あとでアイツに制裁してやんないとな。
それはさておき、アイツの事は後にするとして、まずは目の前の問題を解決するか。
さて、この少女をどうするか。
様子を伺うために、少女がいるであろう場所へと足を運ぶ。
その少女は意外と近い場所にいた。
暗い所にずっといたせいか、あまり少女の姿を確認出来なかったのでのだ。
だが、今はその少女の姿を確認出来る。
うつ伏せの状態から表情までは確認出来ないが、先ほど聞いた声色から考えると、恐らく苦の表情のまま地面の表面に顔を押し付けている事だろう。
時々聞こえてくる腹の唸りもその証拠だ。
服装と確認してみると、これまたおかしい。
この科学万能の学園都市には無いだろうと思われる綺麗な浴衣だった。
紫をベースに、それを際立たせるように様々な色の紫陽花が装飾されている。
最後の決め手は帯だろう。
基本は赤…いや、これは真紅というべきか。
真紅の帯を腰に巻いている。
紫陽花で装飾された浴衣とは正反対に、帯はちっとも装飾されていなかった。
足元まで視線を持っていくと、脱げかけの草履があった。
ここまで来た経緯は分からないが、空腹の状態で草履で歩くのは相当厳しかっただろう。
少女の姿を確認していると、うーんと唸りながら寝返りをし、仰向けの状態になった。
今、初めて少女の顔を確認する事ができた。
やはり見た目に見合った童顔だった。
目は若干つり上がりぎみで、小さく伸びた鼻、潤いに満ちた桃色の唇、その全てが整っており、この子が成長すれば麗しい女性になるであろう事は明らかだった。
この子が成長した姿を見ていたら、高確率で惚れていただろう。
これらの容姿もあって、見に纏った浴衣はとても似合っている。
俺の姿を確認したのか、薄暗闇の中であまり見えないはずなのに、まるで明確に俺の姿を確認したかのように己の手を伸ばして胸ぐらを掴もうとする。
しかし、俺との間合いのせいか、それとも少女のやる気のせいか、途中で止まって腕を落とした。
しかし、それでも図々しい態度は変わらない。
「おい、そこのお前! 我のために何かご馳走してくれなのじゃ」
一瞬カチンと来たが、相手はまだ子供。怒ってはいけない。(あくまで見た目と声からの判断だが)
声色からして怒っている事が丸解りで、これ以上声を掛けないでいると無理矢理でも動こうとしそうなので、あくまで冷静で、優しく話しかけてみる事にした。
「ああ、そこのキミ。流石にそれは図々しいと…」
「うるさい! 我に何かよこせ」
遮られた。
クッ…いや、ここはキレてはいけない。冷静に冷静に。
「よこせと言われても、まず何があったのか答えてくれないとどうしようもないんだけど」
「それよりまずはご馳走じゃ。我は今お腹が減っているのじゃ。このままでは我は餓死してしまう。良いのか? 我を放っておくと大変な事になるぞ?」
「大変な事に?つまり、このまま放っておけば餓死してしまって、俺が周りに非難されると。そういう事か?」
「そうじゃ。我の事はあとで言うから、お願いじゃ。速くご飯を、ご飯を恵んでくれなのじゃ…」
あら?急に態度を変えたと思ったら倒れた。
一気に大きな声で、それも空腹状態で叫んでいればそうなるか。
まぁ、確かにこのまま放っておくのも気が引けるし、金にも多少余裕があるから、ここは大人しくこの子に何かやるか。
俺はひとまず裏路地から表通りに出て、第七学区のどっかにあるレストランを探し、及び目指して足を歩き出した。
―――第七学区レストラン―――
現在の時刻
11時28分
外は人通りが少ない状態なのだが…
俺は一体何を間違えた!!
俺は信じられない光景を目にしている。いや、目にしているなんて生易しくない。
これは巻き込まれたとしか言い様がない。
何故なら目の前には先ほど撒いたはずの不良が、レストランで戯れている状態を目撃してしまっているからだ。
不運としか言い様が無い。
最初ははしゃいでたから、さり気無く席に着けばバレないだろうと思っていた。
しかし、そんな簡単に済む事は無かったのだ。
このレストランは半径200mもある大きさで、その半分以上は客席。約50m近くは料理室となっている。
構造に関しても申し分ない。
カウンター席が10人分、個人席が14人分、少人数席が18組分、大人数席が25組分と、人がどれだけ集まろうと大丈夫なくらいだ。
なかなか広めで、店に関しては文句など無かった。 それどころか好評価してやりたいくらいだ。
ただ入口の場所と、席の位置に問題があったくらいで。
店に入ってすぐ中が見えるから中の様子が丸解り。
だがそれを逆に言うと、相手側からも丸解りなのである。
つまり、入った瞬間不良に見つかったわけだ。
ああ、あまりに災難過ぎて叫ぶ気にもなれない…
夜遅くの店ならほとんど誰もいないだろうと考えていた俺はバカだったんだ。
考えてみれば当たり前の事だった。
あの時、裏路地から表通りに出た時は誰もいなかったから大丈夫だろうと思っていたのだが。
裏路地で休憩、及び背中に抱えている少女と会話している時間は約30分。
それだけの時間で、あれだけいた不良が遠くに離れているわけがないのだ。
誰もいなかったのはレストランにたむろしていただけだったのである。
店の中にいる不良の数はせいぜい…ああ、それも数える気になれないくらいだ。
30人くらいまで数えた所で諦めた。
なので、もっと簡単に説明しよう。
店の3分の2が不良に占領されている状態と言えば分かりやすいだろう?
もちろん、個人席や少人数席、カウンター席も含めてだ。
この広いレストランのほとんどを占領出来る不良の数に、恐れを通り越して呆れに変わってしまった。
さて、この状況をどうするか。
さっさと店から出て逃げるのも良いが、背中に女の子を背負ったままで走るのは正直キツイ。
いくら哀川でもこの状態では笑わないだろう。
確かにこの子は軽いが、それは人間として考えるからであって、荷物として見るなら少々重いだろう。
誰に訊いたって同じ事言うだろうぜ。
それにここで逃げるわけにもいかないだろう。
夜遅いから客はあまり来ないとして、問題は料理室にいるコックさん達だ。
このままでは店の評判を落としてしまう。
そうならないためにもコイツらをどうにかするしかない。
決意が固まった所で、あとはこの子をどうするかだ。
普通にそこら辺に立たせておけば、きっと捕まって人質にされるだろう。
それならば、少し迷惑になるだろうが料理室に預かってもらうしかない。
因みに背中に背負っているこの子をちらっと覗いてみると、全く微動だにしていなかった。
鬱陶しいとでも言うような目で、不良を睨み付けている。 そのせいか言葉を発する気にもなれないようだ。
先ほどは寝ていた、及び気絶していたわけだが、これだけ周りが騒がしければ目を覚ますだろう。
おそらく眠りを邪魔されたという理由も含まれているに違いない。
さて、この子を料理室の誰かに任せるか。
辺りを見渡し、店の関係者はいないかと探していると、ちょうど料理室の入口の前にウェイトレスがいるのが目についた。
ウェイトレスに事情と俺が今からやる事を説明すると、半分驚き、半分心配という感じだったが、俺が頼み込むと不安ながらも了承してくれた。
さて、荷物も離した所で今度こそ行きますか。
俺は大人数いる不良の群れの中心に入り、宣言する。
「俺は今からお前達を潰す。この店に迷惑を掛けた分と、さっき俺と勇也を散々追い掛け回した報い、ここで返してやるよ!!」
いかがだったでしょうか。
楽しんでもらえたでしょうか。
次回は戦闘です。
戦術考えるのに時間が掛かりそうですね。
+注意+
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