第58回 ついに明確となった福島のEM有機農業への道筋
福島をはじめ、放射能汚染地帯における風評被害の根本的な対策は、本シリーズで、すでに述べたように、栽培された作物の放射性物質が全く検出されない安全な状況にすることである。その背景や具体的な方法とその成果については、前回(第57回堆肥等の放射線対策)で述べた通りである。しかしながら、それらの結果は当方の調査に基いたものであり、公的機関が認めたものではなく、ボランティアの一環にすぎないものであった。
平成24年5月17日福島県農林水産部は、農用地等における「民間等提案型放射性物質除去・低減技術実証試験事業」試験結果について(第2報)をプレスリリースした。その中で、EMで発酵させた堆肥(EMオーガアグリシステム標準たい肥)は、放射性セシウムの吸収抑制(移行係数)に著しい効果(t検定0.1%水準で有意)があると公開したのである。以下は、その関連資料である。
●農用地等における「民間等提案型放射性物質除去・低減技術実証試験事業」
試験結果について(第2報)※PDF資料はこちらから
●民間等提案型放射性物質除去・低減技術実証試験事業成績書※PDF資料はこちらから
先ずは、福島県農林水産部にEM資材を採択してくれたことに感謝したい。本結果は、15年以上も前から福島県でEM有機栽培を推進しているマクタアメニティがEMオーガアグリシステムの標準としているEM発酵堆肥のみを試験したもので、潅水や葉面散布等にEMを全く使用していない条件下のものである。これまで、本シリーズで発表した結果や300余の事例で、放射性セシウムが全く検出されなかった成果は、すべてEMで発酵させた堆肥とともに、EM活性液を10a当り100L以上(当初は200〜500L)併用した場合である。
今回の福島県の試験では、EMを潅水と同時に併用することも提案したが、統計処理が更に複雑化するために、見送られたといういきさつがある。このような背景を考慮するとEMを徹底して活用すれば、10,000ベクレル程度の汚染土壌でも、放射性物質が全く検出されない、安全な作物を栽培することが可能であると判断できるものである。
EM発酵標準堆肥の量について、多すぎるのではないかという素人の批判もあるが一般的に化学肥料を使う場合でも、堆肥は2トン程度は投入するほうが望ましいという指導がなされており、有機農業農家からすれば10a当り5トンという数値は常識的なものである。
マクタアメニティのEMオーガアグリシステムは、当初から多収高品質を実現している確定技術で、福島県では、15年余の実績があり、東京の一流のマーケットで高く評価され、40余の農家が実施し、経営内容も極めて高く、着実に発展してきたグループで構成されている。その結果は、県はもとより、農水省や経済産業省の関連部署から、種々のモデルケースとして認定される等々、福島県の将来の高付加価値農業のモデルとして高く評価されてきた農業のニュービジネスモデルともなっている。
マクタアメニティの幕田さんが、10a当り5トンのEM発酵堆肥にこだわる理由は、極めて単純である。すなわちEM発酵堆肥を5トンも投入すると、化学肥料や農薬を多用するよりも収量が多く、品質が高く、販売が楽で農家が喜びハッピーになるからである。
これからの福島県の農業のあり方は、放射性物質を含まない多収で高品質の作物を生産し、その生産を通し、人々の健康を守り、田畑や河川の放射能を低減させ、自然生態系を回復し、水産を含めた自然資源を豊かにする方法以外に選択肢はないのである。
前回でも述べたように、放射能で汚染され使用が禁止されている雑草やイナワラや畜産廃棄物等々の有機物をEMで発酵処理すれば普通の堆肥を作る期間よりも更に早く、安全なレベルに下げる事も可能であり、有機物の問題も即解決できるものである。実際に、この件については、EMを活用している農家においては、既に常識化しており、今更、試験をする必要もないということである。
すなわち、今回の、EM発酵堆肥を活用した成果の評価に、素人学者が参入する余地は全くないということである。例えば、ゼオライトを投入したり、囲炉裏灰を活用することは、農家に対し、新たな負担を課し、コストを高めることであり、様々な除染技術も、すべて、そのためのコストを上乗せするという気の重い前提条件がある。
これに対し、EM発酵堆肥システムでは、新しい負担が増えるのではなく、むしろ、行き場を失った畜産廃棄物や放射能で汚染された莫大な有機物も、良質な生産資源に変えられるというメリットを考えると論議は不要のものである。
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