(cache) 連載８２：低過ぎる介護報酬　早急に見直しが必要／2008年11月01日

連載８２

2008/11/01

低過ぎる介護報酬　早急に見直しが必要

　毎朝、何紙もの新聞に目を通すことが、私の日課となっていますが、10月７日の、厚生労働省による、高齢者（65歳以上）が受けた虐待の調査報告は、同じ老齢の身には見過ごすことのできないニュースでした。
　
　全国１８１６市区町村と都道府県の調査をまとめたもので、07年度は前年度より７１２件多い１万３３３５件になり、内訳は家庭内で１万３２７３件、特養老人ホームなどの施設で６２件が確認されています。
　
　現在、ほぼすべての自治体に虐待通報窓口が設置され、その結果、通報件数が増えたとも分析されています。
加害者は86％が同居の家族で、40・６％が息子、次いで、夫（15・８％）、娘（15％）によるもので、死亡理由は、殺人が13件、介護放棄７件のほか、心中も４件ありました。
　
　被害は「氷山の一角」とも指摘されており、家庭内虐待の被害者の77％が女性で、その約７割が要介護認定を受けていました。在宅介護の難しさが改めて浮かびあがった形になっています。
　
　厚生労働省は、入所待機者の増加が問題になっている特別養護老人ホームについて、介護の必要性が高い人を優先する施設運営基準の見直し案をまとめていますが、入所を待つ高齢者は全国で約40万人といわれます。
　
　私は、入間郡三芳町に特別養護老人ホーム『みよし園』（昭和59年開設）と介護老人保健施設『むさしの苑』（平成７年開設）を造り、地域の皆様に少しでもお役に立ちたいという思いで運営してまいりましたが、特養老人ホームは満杯で、入所希望の方々には２年も待って頂かなければならない状況です。
　
　高齢者の虐待が増えた背景には、適切な介護を受けられる入居施設が足りないことがあげられます。
やむなく家庭で介護せざるを得ない、しかも介護する家族の年齢は60歳以上と、老老介護の日々はストレスを増大させ、些細なことがきっかけに虐待へと走るのでしょう。
　
　読者の方々は、なぜ介護施設が増えないのかと不思議に思われるかもしれませんが、介護職の方々に支払われる報酬は、国が定めており、２００３年に２・３％減、２００６年には２・４％減と大幅に引き下げられた、そのためにせっかく資格を持ちながら、生活が成り立たないからと介護職を離れる人が続出し、たとえ施設ができたとしても、必要な人員確保が難しくなっているのです。
　
　２０００年の介護保険スタート以降、介護報酬は一度も上げられることなく、職員の労働意欲にも影響が出ており、介護サービスの質の向上を妨げています。さらに多くの施設では、人件費等、経費の削減に追われ、経営難から廃止に追い込まれる施設もみられます。
　
　一方、利用者側をみますと、高齢者の負担額は後期高齢者保険導入後、雪ダルマ式に増えています。
以前は無料だった食費も自己負担となり、負担額が大きいために施設を退所せざるを得ない、入所申し込みすらできないケースも増え、「所得の格差」が「介護の格差」に直結する事態となってきました。
　
　介護職員の不足、施設の不足はますます深刻化し、このままでは、制度の維持も難しいのではないかという懸念も広がっています。
　
　新薬や最新の医療機器がどんどん開発され、それらの価格は高騰し、保険に適用する費用も無限に上がっていきます。
そのため、国は医療費削減、経費削減にばかり目を向け、お年寄りの日々の暮らしには目が届かなくなっているようです。
　
　これでは地道にコツコツ働いてきて、やっと老後を迎えたときに、長期療養が必要になったお年寄りの受け皿がない。
　
　そういう事態になっていることを国は真摯に受けとめ、高齢社会を支える介護職の方々に対して、まずは介護報酬を一般企業レベルにまで上げることを考えてほしいものです。
　
　なお、ＥＭ―Ｘ予防医学研究所では健康全般に関するご相談を、随時受付けています。　（℡０４８―４６１―２００９）