WEB特集
使用前核燃料 試験的に運び出し
7月18日 22時30分
東京電力は、福島第一原子力発電所で最も多くの燃料が保管され、原子炉建屋の耐震性が懸念されている4号機のプールで、今後の廃炉作業に向けて使用前の燃料を試験的に取り出す作業を始めました。
燃料の取り出しは去年3月の事故後初めてで、東京電力は燃料に損傷がないか確認することにしています。
後藤岳彦記者が取材しました。
福島第一原発の上空は
メルトダウンに水素爆発。
日本にとどまらず世界を震かんさせた原発事故。
私は18日、その現場から僅か3キロの上空をヘリコプターに乗って取材しました。
爆発で壁が崩れ落ちた原子炉建屋や津波で破壊された設備が、1年4か月余りたった今でもあちこちに残されていて、まさに手に取るように見ることができました。
燃料の取り出しは、通常は建屋の中で厳重に行われる作業だけに屋外での作業が始まると、作業員がふだんとは違った緊張感で作業に当たっている様子が目の前で伝わってきました。
そこで感じたことは、40年と言われる福島第一原発の廃炉作業は、再び地震が起きるかもしれないという不安の中にあり、しかも、未知の長い道のりだということでした。
事故後初の燃料取り出し
4号機のプールでは、福島第一原発で最も多い1535体の燃料が保管されていて、廃炉作業の最初の工程として、来年12月から燃料が本格的に取り出される計画です。
これを前に、東京電力は18日の午前中から4号機のプールに保管されている使用前の燃料204体のうちの1体を試験的に取り出す作業を始めました。
作業は午前9時すぎから始まり、原子炉建屋の5階に当たる場所にあらかじめ設置したクレーンを使って行われました。
白い防護服を着た作業員が見守るなか、クレーンの先端に取り付けたワイヤーで、長さおよそ4メートルの黒っぽい色をした燃料をプールから慎重につり上げたあと黄色の専用の輸送容器に入れていました。
18日の作業は予定どおり行われ、トラブルは特になかったということです。
東京電力は、近く2体目の燃料も取り出す計画です。
プールで燃料を取り出す際には、強い放射線を出す使用済み核燃料を誤ってつり上げないために、水中カメラで撮影したり放射線量を測定したりしているということです。
専門家は
東京大学大学院の岡本孝司教授は、「原子炉の炉心が溶けた1号機から3号機までと比べて、4号機は放射線の影響が少なく作業がしやすい。4号機での作業の経験を、より困難な1号機から3号機の作業に生かすことが重要だ」と話しました。
また、取り出した燃料について、「クレーンを使ってまっすぐに引き上げることができていたので、形状には異常はないように見える。この燃料については水素爆発や地震の大きな影響はないと思われる」と分析しました。
さらに、今後、計画されている使用済み燃料を取り出す作業については、「きょうの使用前の燃料は発熱がなく、放射線の影響もないので扱いやすいが、いったん核分裂を起こした使用済み燃料は発熱量も多く放射線の影響も高い。このため専用の容器を開発して燃料を冷却しながら取り出さなければならず、非常に難しい作業になる」と話していました。
廃炉作業は40年
福島第一原発の1号機から4号機の廃炉作業は、40年間に及ぶとされ、最大の課題のメルトダウンした燃料の取り出しは新しい技術開発などが必要で、10年後までに行うことを目標としています。
このため、まずは1号機から4号機の原子炉建屋の上にあるプールに保管されている使用済み燃料の取り出しから始める計画で、今回の4号機の燃料の取り出しは、その最初のステップとなります。
なぜ4号機から取り出し
なぜ4号機の燃料から取り出すのか。
それには理由があります。
プールに保管されている1535体の燃料の中には、原子炉で燃やした直後の燃料も含まれ、発熱量は1号機から4号機のプールの中でも最大で、その意味では危険度も大きいと言えます。
一方で、4号機のプールは、水素爆発によって激しく壊れた原子炉建屋の上にあり、余震によって壊れるのではないかと懸念する声が地元などから上がっています。
東京電力は、プールの底を補強する工事を行い、耐震性を20%高めたとして、コンピューターによる解析で震度6強の地震が起きても原子炉建屋やプールの耐震性に問題はないとしています。
さらに、ことし5月以降、建屋の壁で見つかった水素爆発の爆風でできたとみられる膨らみによる傾きについても、建築基準法で定められた制限値を下回っているとして、建屋の健全性に問題はないと結論づけていますが、放射線量の高い現場で建屋の損傷状況などを完全に調べ尽くせているわけではありません。
より安全性を確保するうえでも4号機のプールからの燃料の取り出しは特に急がれているのです。
今回の作業の意味は
18日に行われた作業は来年12月からとされる4号機のプールからの本格的な燃料の取り出しに向けた試験で、取り出したのは、まだ1度も使用していない新しい燃料です。
近づくとすべての人が死亡するレベルの放射線を発している使用済み燃料とは違い、新燃料が出す放射線量は小さいため扱いやすい利点があり、東京電力は、まず、燃料を覆う容器に損傷や腐食がないか確認するとしています。
そのうえで水素爆発によるがれきが散乱したプールの中からいかに安全に燃料を取り出すか、方法や手順を検討するとしていますが、日本では事故を起こした原発での廃炉作業は初めてで、計画したとおり進むかは未知数です。