コラム

相場英雄の時事日想:滅びゆく記者クラブは、本当に“悪”なのか (2/3)

[相場英雄,Business Media 誠]

 また東証のTDネット(適時開示情報閲覧サービス)が拡充され、企業の広報・IR体制の整備・充実とともにインターネットを介した情報開示が進んだ。この結果、記者クラブが独占してきた企業が発する一次情報の価値は格段に薄まった。

 兜倶楽部と同様、日銀内にある金融記者クラブもその存在価値が薄らいでいる。かつて、同クラブでは日銀の金融政策の動向をスクープすることが最大のテーマだった。しかし、日銀が金融政策決定会合というガラス張りの合議の場を設けて以降、公定歩合の上げ下げをめぐる事前報道はほとんど意味をなさなくなった。同クラブの記者は日銀以外にも銀行や保険会社をカバーするが、これらの業界も他と同じで広報・IR体制が充実したのは言うまでもない。

 従前から同クラブはスペースが狭く、「取材源とのヒソヒソ話が困難」(大手紙ベテラン記者)だったため、筆者の古巣の通信社や日経はクラブの外に分室を設け、取材拠点としてきた。日銀の金融政策が事実上の“発表モノ”になって以降、主要紙あるいはテレビ各社が相次いでクラブの外にそれぞれの取材拠点を構えるケースが増えた。クラブ内に会見やリリース予定を知らせる告知板、通称・黒板が残っているため、「記者クラブに黒板監視要員を残しているが、主力部隊は分室に常駐している」(某テレビ局)というガラガラの状態が恒常化しているのだ。取材する側のメディア、それに日銀、あるいは民間金融機関が話し合えば、記者クラブそのものがなくなっても実質的に困ることはないと筆者はみる。

yd_hara.jpg 原口一博総務相が総務省会見室で会見を開く(1月22日)

 現在、批判を浴びている永田町の政治村、あるいは霞が関の諸官庁の大半は、民間企業のような広報・IRの体制が整っていない。また一夜にして記者クラブを開放するのは、事務作業の面からも無理がある。だが、一旦門戸が開かれた以上、後戻りは不可能だろう。民間経済をカバーしてきた諸クラブと同じ様な状態になると筆者はみる。実際、首相官邸は3月25日にリリースを発表(関連リンク)。オープン化に向けた第一歩を踏み出した。「欧米のようにプレスカードを持っていれば自由に会見に参加できる体制が徐々にできあがっていく」(外資系通信社記者)のは間違いない。

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