相場英雄の時事日想:景気は本当に回復したのか――記者クラブは”手抜き記者”のより所 (2/2)
ウラが取れない仕事
なぜ、株式市況記事がこんなお粗末な状態に陥ってしまったのか。ここには「ウラが取れない取材にエネルギーを割きたくない」(大手在京紙記者)との心理が少なからず働いている。一般紙、あるいはテレビ記者の人事異動サイクルは速い。半年から長くても1年間のスパンで次々に記者クラブを渡り歩くのが常だ。
一方、東証が売買手口を非公表として以降、誰が株を売買しているのかが全く見えなくなった。以前であれば、国内大手証券から買い注文が入れば、国内の機関投資家が買った、あるいは外資系証券から売りが出ればヘッジファンドの注文だ、などとある程度の類推が可能だったのだが、これが見えなくなったのだ。このため、「ウラを取る」という作業は事実上なくなってしまった。ならば短期間在籍する記者クラブ、しかもレクやクイックというお手軽なツールが完備されている以上、これを使って手早く記事をまとめてしまえばいい、という心理が働いてしまうのだ。
加えて大手マスコミの内部では、「株を手掛ける輩はどこか胡散(うさん)臭い」(別の在京紙記者)との摺(す)り込みがある。長年、市況記事を手掛けてきた媒体でさえ、株式市況担当記者を政治部記者や経済の他方面担当よりも一段低くみなす傾向があるのは紛れもない事実だ。元々、一般紙やテレビで経済関係のニュースに割ける紙面や枠には限度がある。まして「胡散臭い輩が集まった市場」という摺り込みがある以上、「株のニュースは紋切り型でも一向に構わない。むしろ、他社とトーンがそろった方が、あとで突っ込まれたときに言い訳しやすい」(民放テレビデスク)という側面さえあるのだ。
ネット取引を通じ、個人投資家のウエイトが高まりつつある株式市場。だが市場の動向を伝えるマスコミの体制は、市場の変化を反映しておらず、お粗末だと言わざるを得ない。現在、市況記事を担当する記者諸兄。自ら取材先、すなわちネタ元を開拓し、レク情報に追加する程度の手間をかけてみてはいかがだろうか?
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