コラム

相場英雄の時事日想:景気は本当に回復したのか――記者クラブは”手抜き記者”のより所 (1/2)

「日経平均株価、1万円台の大台に迫る!」――。ここ1〜2カ月の間、“明るい見出し”をつけるメディアが増えてきているが、どのようにして市況記事が作られているのかをご存じだろうか? 今回の時事日想は株価報道の危うい一面にスポットを当てた。

[相場英雄,Business Media 誠]

相場英雄(あいば・ひでお)氏のプロフィール

1967年新潟県生まれ。1989年時事通信社入社、経済速報メディアの編集に携わったあと、1995年から日銀金融記者クラブで外為、金利、デリバティブ問題などを担当。その後兜記者クラブで外資系金融機関、株式市況を担当。2005年、『デフォルト(債務不履行)』(角川文庫)で第2回ダイヤモンド経済小説大賞を受賞、作家デビュー。2006年末に同社退社、執筆活動に。著書に『株価操縦』(ダイヤモンド社)、『ファンクション7』(講談社)、『偽装通貨』(東京書籍)、『みちのく麺食い記者・宮沢賢一郎 奥会津三泣き 因習の殺意』(小学館文庫)、漫画原作『フラグマン』(小学館ビッグコミックオリジナル増刊)連載中。


 「日経平均株価、◯カ月ぶりの大台回復」、「景気回復の兆し、株価に反映」――。

 ここ1〜2カ月の間、日経平均株価など主要な株価指数が上向くたびに新聞やテレビに明るい見出しが躍ったのは記憶に新しい。ただ、筆者のみるところ、株価上昇の背景はデリバティブ取引に絡(から)んだ需給的な要素が大きく、底抜けに明るい見出しには違和感が強い。果たして一般読者に届く市況記事はどのように作られているのか。今回は株価報道の危うい一面に焦点を当てる。

レクチャーマンとクイックだけが頼り

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 読者がイメージする取材記者とはどのようなものだろうか。取材手帳を片手に、靴底を減らしてコツコツとネタを集め、記事を書いているといったものだろうか。確かに、そういう記者は少なくない。が、株式市場の様子を伝える記事の場合は、こうしたイメージとは全く別の世界で記事が構成されているのだ。

 「レクチャー(レク)とクイックだけでしのげるから、このクラブは楽」――。

 筆者が東証の兜記者倶楽部に在籍していたころ、臨席の民放テレビ記者が臆面もなく言い放った。レクとは、1日に2度、記者クラブ近くの会議室で開催される某証券会社の専門家による市況解説のこと。クイックとは、日本経済新聞の速報メディア、日経クイックが配信する市況記事だ。

 定例レクは、夕刊に間に合う午前10時からの20分間と昼のテレビニュースに合わせた午前11時半前後、そして東証の大引け前(15時)に開催される。その日、なぜに株価が上げているのか、あるいは下げているのかが簡潔に語られる。このほか、株価指数の節目、例えば何カ月ぶり、または何年ぶりの記録となる、などの記事を構成するのに不可欠な要素を、専門家が懇切丁寧に教えてくれるのだ。

 また記者クラブの共有スペースには、日経クイックの端末が設置されており、自由に閲覧が可能。先の民放記者の言う「レクとクイックでしのげる」という理由はここにある。

 筆者も同レクに大変お世話になったクチであり、レク自体を批判するつもりは毛頭ない。問題なのは、レク情報のみで記事を書く記者が大半だということだ。すなわち、どのメディアを見ても(読んでも)、同じトーンの原稿ばかりで、金太郎飴記事なわけだ。ぐうたら記者で通っていた筆者だが、レクの情報だけで記事を書くことには大変な不安があった。レク担当の専門家はサラリーマンである。元来、証券会社は株を売買してもらってナンボの商売であるため、レク担当者は代々“強気派”が多かった。このため、レクの通りに記事を書くと、自ずと市場マインドが強い傾向に流されてしまうからだ。

 先月、日経平均株価が1万円の大台回復を果たした際、本コラムの冒頭で記したような紋切り型の記事が各媒体をにぎわせた。記事の論調と一般庶民が抱く弱い景況感とのギャップが生まれた背景には、こんなお寒い事情があるのだ。

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