コラム

窪田順生の時事日想:NHKが、火災ホテルを「ラブホテル」と報じない理由 (1/3)

言葉を生業にしているマスコミだが、会社によってビミョーに違いがあることをご存じだろうか。その「裏」には、「華道」や「茶道」と同じく「報道」ならではの作法があるという。

[窪田順生,Business Media 誠]

窪田順生氏のプロフィール:

1974年生まれ、学習院大学文学部卒業。在学中から、テレビ情報番組の制作に携わり、『フライデー』の取材記者として3年間活動。その後、朝日新聞、漫画誌編集長、実話紙編集長などを経て、現在はノンフィクションライターとして週刊誌や月刊誌でルポを発表するかたわらで、報道対策アドバイザーとしても活動している。『14階段――検証 新潟少女9年2カ月監禁事件』(小学館)で第12回小学館ノンフィクション大賞優秀賞を受賞。近著に『死体の経済学』(小学館101新書)、『スピンドクター “モミ消しのプロ”が駆使する「情報操作」の技術』(講談社α文庫)がある。


 5月13日、広島県福山市のホテルで火災が起きて7人が亡くなるという大惨事が起きた。

 亡くなられた方のご冥福をお祈りする一方で、この悲劇の報じ方が非常に気にかかる。というのは、テレビ局各社でかなりバラつきがでて、その意味するところがまったく異なっているからだ。

 例えば、NHKは第一報から現場を「ホテル」と表現し、「ホテル火災 ほとんどがCO中毒死か」というニュースのなかで、消防団のこんな証言を紹介している。

 「逃げ遅れた人を助けようと、道路に面した2階や3階の窓ガラスを割って入ろうとしたが、窓の内側に木の板が張ってあり、板を打ち破らなければ部屋に入れず、救助作業はかなり手間取った」

 そりゃ一酸化炭素中毒にもなるよ、とんでもなくずさんな防災設計じゃないかと怒りを覚えるところだが、これがTBSのニュースではちょっと事情が変わってくる。

 ネットで紹介されているホテルの室内写真や、業界では「わかめ」と呼ばれるビニールのれんが垂れる駐車場の映像も流れ、さらに現場を「ラブホテル」と明言した。

 利用された方ならば分かるだろうが、ラブホテルの部屋というのは基本的に窓はないことが多い。「そういう行為」をする人たちにとって、窓から差し込む陽の光は邪魔者以外の何者でもないので、板を打ち付けたり家具で塞ぐ。

 つまり、NHKの視聴者は、「ひどいホテルがあったもんだ」だという印象になるが、TBSの視聴者は「ラブホテルってそもそも安全なの?」と問題意識を抱く。同じニュースでも、意味するところがまったく違ってくるのだ。

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