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4日…15(ジュク・新規)、残R6.2、M7 “32歳公務員”
毎日の売上はノートで管理されている

 「これに売上つけてるんだ」

 リナが、客に買ってもらったという「偽ヴィトン」のバッグから、かわいらしいイラストが描かれた小さなノートを取り出す。

  1日…0、ブクロマック、残R320円、M130円 “どないするっちゅうねん!“
  2日…0、のっちゃん部屋、残R100円ちょっと、M0円 “激ヤバす”
  3日…10(ブクロ)、残R4、M4 “ヨネちゃんに感謝”
  4日…15(ジュク・新規)、残R6.2、M7 “32歳公務員”
  5日…0、残R2、M1.5 

 日付の横に記載されている数字は、売上金額である。10とは10本、つまり1万円を示す。その右隣にある「残」とは、その日に残っている財布の中身(R=リナ、M=マイカ)だ。さらにその隣に書かれているメモが、基本的には客情報(意味不明な記述や記号、イラスト等もあり)である。

リナは暇があるといつも絵を描いている

 このノートを眺めながら、私は気になる点を質問した。

――ちょっと“客”について聞くけど、3日のヨネちゃんっていうのは?

 「ヨネちゃんっていうのは、水道工事の会社で働いてる独身のおっちゃんなんですよ。57歳って言ってた。ツルッパゲで」(リナ)

 「最初はブクロの北口の喫煙所で声かけたんだよな。それが1ヵ月前くらいなんだけど、それからもう6回位飲んでる。1回につき飲み代プラス5000円~1万円ってとこだけど、ヘンなことしないし、すっげーラク。無口で、居酒屋で鳥の唐揚げばっか食うんだよ」(リナ)

 「そう、いっつも水色の作業着着てさ。すっごい大人しくて、うちらに『どんどん食べて』ってすすめてくるんだ。でも、超常連さん。うちはああいう人、好きやねん」(マイカ)

――4日の“32歳公務員”っていうのは?

 「うーん、イマイチ記憶にない。基本的にうちら、常連以外はほとんど覚えてないよな」(リナ)

 「それ、あんただけや。うちは覚えてる。その人は、茶髪っぽいセミロングで、最初公務員だなんてウソや思ってたんやけど、居酒屋で見せてくれたやん? なんか区役所の入館証みたいなの。『あ、ほんま公務員や』って驚いたの覚えてるわ。でも、会話とかは印象にないなあ。オタクっぽいっていうか、やっぱり大人しい人やったかな」(マイカ)

ラブホテルに誘われても必ず3人で宿泊

――この期間は“客”とホテルには泊まってない?

 「ノート見ると、多分そうやなあ」(リナ)

 「だけどこの1週間は2日泊まったよ。会社員のオヤジと、キャバのボーイ?」(マイカ)

――泊まりに行くってなったら、どうしてるの?

 「いろいろやな。基本的にウリじゃ稼ぎたくない。だってヤバイでしょ。うちらは基本的にベッドで寝たいだけ。だから、ホテル代だけもってくれるなら行っちゃうことが多いよ」(リナ)

 「本番して、お小遣いくれたらラッキーって程度かな。でも、だいたいくれるよね? 5000から1万程度は」(マイカ)

 「今までの最高? いくらかな。3万? ただ飲んだだけで5万っていうのが、売上的には最高額だけど」(リナ)

――でも、危ない目にあったりしない?

 「だからー、それも多少あるんですよ。リスクヘッジ? 必ず2人じゃないとホテルに行かないっていうのは、オレからしたら安全対策っていうか。1人じゃ何されるかわからないけど、2人いればそうそうヘンなことしないから。客だって怖いんだと思うよ」(リナ)

 「確かに、客のほうが怖いと思うよ。だって、リナ、見た目ヤバいっしょ。これで男言葉でうなっちゃったら、完全にスジモンだと思われるし」(マイカ)

 「思われねーよ」(リナ)

 「思われねー」のかもしれない。ただ、彼女たちが、今、目の前に存在する容易に生きぬくことは難しいと想像される環境の中で、したたかに生き続ける力を身に付けようとしてきたことは確かだ。

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開沼 博 [社会学者]

1984年、福島県いわき市生まれ。東京大学文学部卒。同大学院学際情報学府修士課程修了。現在、同博士課程在籍。福島大学うつくしまふくしま未来支援センター特任研究員。専攻は社会学。著書に『「フクシマ」論 原子力ムラはなぜ生まれたのか』(青土社)『地方の論理 フクシマから考える日本の未来』(同、佐藤栄佐久との共著)『「原発避難」論 避難の実像からセカンドタウン、故郷再生まで』(明石書店、編著)など。学術誌のほか、「文藝春秋」「AERA」などの媒体にルポ・評論・書評などを執筆。第65回毎日出版文化賞人文・社会部門、第32回エネルギーフォーラム賞特別賞。

 


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不法就労外国人、過激派、偽装結婚プロモーター、ヤクザ、チーマー、売春婦……。彼らはときに「アウトロー」や「アンダーグラウンド」と評され、まるで遠い国のできごとのように語られてきた。しかし、彼らが身を置く世界とは、現代社会が抱える矛盾が具現化された「ムラ」に過ぎない。そして、「あってはならぬもの」として社会からきれいに“漂白”されてしまった「ムラ」の中にこそ、リアリティはある。
気鋭の社会学者である開沼博が、私たちがふだん見えないフリをしている闇の中へと飛び込んだ。彼はそこから何を考えるのだろうか? テレビや新聞を眺めていても絶対に知ることのできない、真実の日本を描く。全15回の隔週火曜日連載。 
 

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