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 2時間5万円が最高額。「ウリ代」は別料金

 もちろん、「移動キャバクラ」という職業はリナとマイカが命名したものであって、そのような業界や業態があるわけではない。援助交際? デートクラブ? 合コン? 確かに、既存の何かに当てはめることはできないものだが、彼女らにとって、やっと行き着いた貴重な食い扶持であることは間違いない。

 「最初は駅の喫煙所とかでライターを借りんの。そこからいけそうな空気感じたら、名刺渡して、みたいな。客をつかまえたら、和民とか普通の居酒屋行ってキャバ嬢みたいに接待してやるんだ。で、ガンガン飲ませて“料金”の交渉。渋ったら、バックにヤバイのがいる風を匂わして。リナなんてオラオラ系のしゃべりうまいから、サラリーマンたちびびっちゃう(笑)」

 “料金”は客によってまちまちらしい。マイカは続けて語る。

 「今までの最高は2時間一緒に飲んだだけで総額5万円。これは脅したわけじゃなくて、向こうから喜んで出してきた。でも、こういうオイシイのはめったにない。だいたい5000円とか高くて1万円くらい」

 カネが入れば2人でインターネットカフェに宿泊する。カネがないときはマクドナルド。あるいは、客を誘って3人でラブホテルに泊まる。

 「うちら2人はセットでしか動かない。客と2人きりではホテルに泊まらないのがルール。これはリナ命令」

 客から「ウリ代(援助交際の対価)」をもらうこともあれば、ただ話をして寝るだけのこともある。

「体を伸ばして休むこと」が最高の贅沢

 マイカに次いでリナも口を開いた。

 「最近はわりと常連がついてきたから、2日おきにキャバオープンできる感じ。売上は2人で週に3万から5万円くらい? 2人ともすっげー金遣い荒いから、すぐになくなっちゃう。ホストクラブに行ったり、服買ったり、あとマッサージとか」

数百円で入店できる「自宅兼事務所」が彼女たちの日常をつないでいる

 それでも売上が立たない日が続くこともある。貯金などはじめから頭にない。マクドナルドに限ることなく、数百円の小銭さえ手元にあれば「食」と「住」にありつけてしまう現実が東京にはあるからだ。

 「3~4日、風呂に入らないのはけっこう当たり前。だから、たまにまとまったカネが入ったときは、こいつと一緒に新宿グリーンプラザか池袋プラザ行ってサウナに入って、仮眠室かカプセルで寝る。あれは極楽やね。うちら最大の贅沢」

 こう語るリナの口調は荒い。それとは対照的に、マイカは20歳前後の女子相応の話し方をする。ゆっくりと体を休める様子を想像するマイカの目は輝いていた。

 「サウナ、最高。カプセルも大好き。うちら普段マックとかで座ったまま寝ることが多いから、たまには横になって体を伸ばして、ゆっくり眠りたい。次、いつ行けるやろ」

 実は、リナとマイカが知り合ったのは、遠い昔のことではない――。

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開沼 博 [社会学者]

1984年、福島県いわき市生まれ。東京大学文学部卒。同大学院学際情報学府修士課程修了。現在、同博士課程在籍。福島大学うつくしまふくしま未来支援センター特任研究員。専攻は社会学。著書に『「フクシマ」論 原子力ムラはなぜ生まれたのか』(青土社)『地方の論理 フクシマから考える日本の未来』(同、佐藤栄佐久との共著)『「原発避難」論 避難の実像からセカンドタウン、故郷再生まで』(明石書店、編著)など。学術誌のほか、「文藝春秋」「AERA」などの媒体にルポ・評論・書評などを執筆。第65回毎日出版文化賞人文・社会部門、第32回エネルギーフォーラム賞特別賞。

 


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不法就労外国人、過激派、偽装結婚プロモーター、ヤクザ、チーマー、売春婦……。彼らはときに「アウトロー」や「アンダーグラウンド」と評され、まるで遠い国のできごとのように語られてきた。しかし、彼らが身を置く世界とは、現代社会が抱える矛盾が具現化された「ムラ」に過ぎない。そして、「あってはならぬもの」として社会からきれいに“漂白”されてしまった「ムラ」の中にこそ、リアリティはある。
気鋭の社会学者である開沼博が、私たちがふだん見えないフリをしている闇の中へと飛び込んだ。彼はそこから何を考えるのだろうか? テレビや新聞を眺めていても絶対に知ることのできない、真実の日本を描く。全15回の隔週火曜日連載。 
 

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