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20歳ホームレス、職業は「移動キャバクラ」

 池袋にあるマクドナルドの2階喫煙エリアのカウンター席には、コンセントがついている。幸いなことにひとり分の席が空いていた。小雨模様のその日、私はそこに座ってノートパソコンを取り出すと、コンセントを探した。しかし、それがあるはずの場所には、隣に座る若い女性の巨大なバッグが置かれている。

――お姉さん、電源使いたいんだけどちょっといいすか?

 「お姉さん」は2人組だった。手狭なカウンターテーブルは彼女たちの雑多な荷物で溢れかえっていた。色黒のタヌキ顔の少女がはっとして「あ、ゴメンなさーい」と、悪びれる様子もなく返事をして荷物をどかしてくれた。

 無事にコンセントを確保した私がパソコンの起動を待つ間、少女たちが大きな声で話し始めた。

 「アタシのこと、お姉さんだって」タヌキ顔が言った。「よかったじゃん」ともう一方の色白なキツネ顔が返事をする。「アタシでもお姉さんに見えるんだ。なんか、マジ気分いいんだけど」

――まあ、オバさんではないでしょ(笑)。お姉さんじゃないの?

 「ホントですかー。なんかそう言われるのあんまなくて……」

 ここではじめて2人の顔、格好をまじまじと見ることとなる。一見、着飾った“ギャル”のような風体をしているが、どこか「キタナイ」。

無邪気に撮影に応じるマイカ(左)とリナ(右)

 タヌキ顔は豹柄のジャンパーにジーンズ生地のミニスカート、それにボロボロのスウェードブーツ。キツネ顔はくすんだ紫色のビニールジャンパー、襟元にはフェイクの毛皮がついている。黄色のミニスカート、黒のショートブーツという装いだった。

 顔立ちだけからすると2人ともまだ10代後半のようだが、よく見れば肌は荒れ、ボサボサになった茶髪は痛み放題だ。

――これから仕事?

 「そう」とタヌキ顔。「うーん、まあ……」と口ごもるキツネ顔をよそに、2枚の名刺を差し出してきた。

  移動キャバクラ リナ&マイカ ママ リナ
  移動キャバクラ リナ&マイカ チーママ マイカ

 「私がリナで、こいつがマイカ」。どうやら、タヌキ顔はリナ、キツネ顔はマイカというらしい。

 彼女たちの仕事は、「移動キャバクラ」だ。

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開沼 博 [社会学者]

1984年、福島県いわき市生まれ。東京大学文学部卒。同大学院学際情報学府修士課程修了。現在、同博士課程在籍。福島大学うつくしまふくしま未来支援センター特任研究員。専攻は社会学。著書に『「フクシマ」論 原子力ムラはなぜ生まれたのか』(青土社)『地方の論理 フクシマから考える日本の未来』(同、佐藤栄佐久との共著)『「原発避難」論 避難の実像からセカンドタウン、故郷再生まで』(明石書店、編著)など。学術誌のほか、「文藝春秋」「AERA」などの媒体にルポ・評論・書評などを執筆。第65回毎日出版文化賞人文・社会部門、第32回エネルギーフォーラム賞特別賞。

 


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