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『心理学で何がわかるか』村上宣寛

2009年10月27日 | 人文・思想の本
村上宣寛著『心理学で何がわかるか』ちくま新書、を読みました。

心理学を、日常的な実感ではなく、サイエンスとして検証可能な問題として扱うのが著者の方針です。
俗説や疑似科学を退け、心理学者や精神科医の感想を述べたような本とは違い、科学的なアプローチで、さまざまな問題について検証しています。

共有環境の影響力は成人でゼロに落ち込むが、遺伝の影響力は、年齢と共に上昇し続け、成人では八〇〜九〇%に達した。
遺伝の影響力は四〇〜八〇%の範囲に散らばっているが、データに基づいて推定すると、一般知能の分散の五〇%程度である。また、研究を年齢で分割すると、遺伝の影響力は幼児期二〇%程度、児童期四〇%、成人期六〇%程度と、年齢に比例して増加する。

知能は遺伝するのかという問題です。
研究の仕方のよって数値は異なっていますが、年齢が上がると共に遺伝の影響が出てくるようです。
成人期では、80%位が遺伝によるものだそうです。
性格も同じく、歳をとると、ますます親に似てくるようです。
生活実感が、科学的にも実証されるようです。

暴力的映像は暴力行為を助長しない。暴力行為と直接的に関係する指標を使った研究では、効果量がほとんどゼロであり、妥当性の低い研究でのみ効果量が大きい。

暴力的な映像を見ると人間は暴力的になるか、という問題はさまざまな観点から研究されました。
結論は、暴力映像は暴力行為を助長しないそうです。

意識があるので、自由意志もあるはずである。ところが、これは誤解に過ぎなかった。自由意志は存在しないかもしれない。我々の行動を規定するのは無意識的なシステムで、意志はそれに付随するだけかもしれない。

意識があるからといって、自由意思があるわけではなさそうです。
意識を伴った意志というのは幻想だそうです。
思考が行動を起こすという証拠もないそうです。
われわれの行動を規定するのは、無意識的なシステムであるようです。
意識がどのように生まれるのか、今後の研究を待たなければならないようです。
無意識的システムについても、詳しくは論じられていません。
意識無意識というのは、心理学でも難しい問題なのでしょう。

 臨床心理学は人気があるが、その内容は特定の学派の心理療法やカウンセリングが中心で、実力や実態は、素人心理学からそれほど離れてはいない。
臨床心理士がスクール・カウンセラーを勤めても、成果が上がらないのは当たり前である。早急に、学問的水準の底上げが必要であろう。


臨床心理学は、人気のある学問です。
臨床心理学を勉強し、カウンセラーを目指す人も多いことでしょう。
しかし、この臨床心理学を学んだ者がスプールカウンセラーを務めても、ほとんど成果は上がらないそうです。

 身体運動は心身の健康を維持するために有効である。近年、科学的なエビデンスも蓄積してきた。運動を行えば、脳のさまざまな機能が高まるし、想像以上に大きな影響がある。若者では身体運動を行うと、反応時間が短くなるし、語菜学習も速くなる。高齢者にエアロビクス体操をさせると、情報処理速度が速くなる。運動を行うと、ニューロンが変化する。

身体運動は、心の健康にもつながるようです。
運動療法は、うつ病の治療にも効果的だそうです。
まず、体を動かすことです。

以上、主な論点についての内容を記しました。
心と意識、意志と行動について、関心のある内容でした。
本書を読んで、意識を作るものは無意識であり、無意識を作るものは身体行為であろうと思いました。
禅の「身心一如」と同じではないかと思いました。
もちろん、こういう非科学的な推測は、著者の嫌うことですが。



心理学で何がわかるか (ちくま新書)
村上 宣寛
筑摩書房

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臨床心理学 ちくま新書 うつ病の治療 エビデンス 臨床心理士 スクール・カウンセラー
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