2010-05-03
心理学で何がわかるか 村上宣寛
心理学の内容をあまりご存知のない方は、もしかすると本書をよんで心理学に違和感を抱くかもしれない。しかし、学問としての心理学の前線は、本書で描かれているとおりではないだろうか。この本はあくまで「心理学」の本なのであって、「心理本」ではないのだ。村上氏は心理学の定義を、「心の科学、あるいは、心のサイエンスである」p17 としている。そのあと科学的アプローチの解説から、本書は始まっていく。
著者の村上氏はしょっぱなからこう宣言する。
兄は兄らしい性格、妹は妹らしい性格になる。
親の育児態度は性格や気質に永続的な影響を与える。
乳幼児は他人の心を理解できない。
自由意志は存在する。
幽体離脱体験は本当だ。
乳幼児は長期間、物事を記憶できない。
記憶力は鍛えれば強くなる。
女性の理想の相手は、自分をもっとも愛してくれる人である。
トラウマは抑圧される。
暴力映像は暴力を助長する。
まさか、こんなこと信じていないでしょうね。 p7-8
日本においては、心理学はこころの学問だと考えられているが、最初に引用したように心理学はサイエンスなのだ。つまり科学的手法による分析や、実証的研究によって不可解な心理に切り込んでいかねばならない。日本ではそこにちょっと問題があるようだ。
本書では、実にさまざまな実験や批判によって心理学が成立しているかがわかる。本書で扱う実験、グラフ、テスト方法は多すぎるので、ここで全部を表すことができない。ただ、ある実験から違う角度からの批判があり、それに再反論することによって心理学は発達してきた。
たとえばうつ病についての治療をあげよう。現在、うつ病には、薬物治療、電気ショック療法、経頭磁気刺激法、心理療法、運動療法があげられる。この中でもっとも効果をあげているのは、運動療法か、心理療法だ。従来の薬物治療では、しばしばうつの再発を引き起こす。しかし一日に少し運動するだけで、うつからの回復しやすくなるだけでなく、再発もほとんどなくなる。心理療法は、カウンセラーと話すことによって回復を図るいままででも珍しくない方法だけど、90年代から現在にかけて新しい方法が開発されてきているようだ。しかし、薬物治療にも良い面がある。村上氏は、薬物治療にはうつによる自殺防止に効果があるかもしれないと言う。重症なうつの場合、薬物治療はひとつの選択肢としてあげられてもいいだろう。
本書では、臨床心理学についてほとんど記述がない。というのも、村上氏は臨床心理を信じていないようなのだ。たしかに今日本はたくさんの心理的、あるいは社会的病気を抱えているが、それらが著者の主観だけで語られているものも少なくない。わたしはそれが悪いことだとは思わないけれど、もうちょっと客観的なアプローチ法があればいいと考える。多くの心理不安をまきおこす現代社会において、心理学が重要な役割を担っていることは疑えない。少しずつ「心理学」をいい方向へ変化していってほしい、と思うのはおかしいだろうか。
- 作者: 村上宣寛
- 出版社/メーカー: 筑摩書房
- 発売日: 2009/09
- メディア: 新書
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