第3話 魔法研究
12歳になったアドルフは、魔法を使った戦闘を学び始めていた。
本人の性格的に面倒くさがりそうだが、死んでも厨二病が完治してなかったアドルフは魔法を習えることに発狂して喜んだという。
そして、その取り組みようは普段のサボり癖が嘘のようであった。
アドルフは魔導具である木の杖を振い、詠唱――魔法を放つための言葉を発すること――を行う。
「炎よ、撃ち抜け!」
杖の先から炎弾が発射され、丸太で作られた標的を撃ち抜いた。
「お見事でございます。普通は最初からあれほど上手くはいかないのですが……」
アドルフ専属の教師としてハプスブルク家に雇われた人物が驚きを顕わにしながら賞賛を口にする。
「詠唱は適当だったけど……本当にあんなんで良いのか?」
「はい、詠唱に関しては特に規則性のようなものは確認されておりません。ただ、放つ魔法をある程度表した詠唱でないと魔法は発動しません」
「ふ~ん、ならこんなのはどうだ? 水よ、拡散して撃ち抜け!」
放たれた水弾が拡散し、標的とその周囲を撃ち抜く。
「なんと! 水の弾が無数に分かれて……しかも貫通している!?」
「ん? 普段の水魔法って何に使うんだ?」
「基本的には水を出すだけです。戦闘などでは地面をぬかるませたり、炎魔法による攻撃の鎮火などに使われております」
「俺のような使い方はしないのか?」
「はい、私の知る限りでは」
「ふむ……」
その後、いろいろな魔法を一通り試してこの日の訓練は終了した。
・・・・・
夜。
アドルフは密かに屋敷を抜け出して昼間疑問に思ったことを試してみることにした。
炎を出すイメージを浮かべながら杖を振ってみる。
……何も起こらない。
特に何も思い浮かべずに杖を振りながら「炎よ」と唱えてみる。
……チラッと炎が出た。
炎を出すイメージで杖を振りながら、「水よ」と発する。
……少し、水が出た。
炎のイメージで「ブララブラ~」と適当なことを言ってみる。
……何も起こらなかった。
炎弾を撃つイメージで「ファイエル!」と叫びながら杖を振る。
……炎弾が標的目掛けて飛んでいった。
<アドルフ>
ふむ、これらの事から考えられるのは詠唱はイメージに優先する……ということだが、詠唱が適当でも良いというのもおかしな話だな。
いや、2、3回目のは言葉を発したときに一瞬イメージしてしまったせいだろう。
真に何も思い浮かべ無かった場合何も起こらなかったハズだ。たぶん……
となれば、魔法は言葉を発することによってイメージした現象(に近いもの)を現実に顕現している。
そして、発する言葉はイメージした現象とある程度関係性がある言葉で無ければならない。
ここで問題なのは、頭で思い浮かべたイメージってのが何処まで当てはまるかだが……。
俺は昼間、魔法を1回目で成功させた。
教師によると、普通は1回で成功するなどほとんど無いらしい。
俺は天才なんかじゃないし、当然ながらチート能力なんぞ持ち合わせていない。
……転生による記憶や経験の引き継ぎは考慮しないでおくものとする。
とにかく、そんな俺が魔法を1回で成功させたってのが鍵だな。
そこに何か法則がある。
考えられるのは……やはりイメージをしっかり描けていたことか。
つまり、明確にイメージ出来てるってのが成功の秘訣なのだろう。
伊達に、前世と前前世でマンガやアニメを見て、読んで、聞いてないからな。
俺GJ。
ん、まてよ?
大規模魔法以上だと頭の中でのイメージはどうしても曖昧になると思うんだが……あ、もしかして。
俺は標的を貫通させるイメージで「水よ」と唱え、水弾を標的に発射する。
次は、イメージはそのままに言葉をより具体的に「水よ、貫通せよ」と唱えて発射する。
両方とも標的を貫通したが、明らかに後者の方が威力が高い。
より具体的な詠唱の方がその効力も高いというわけか。
この分だと魔法の制御なども具体的に言った方が高まるだろうな。
イメージで補えない分を詠唱で補完してるとしたら……。
なるほど、大規模魔法や戦略魔法は長ったらしい詠唱が必要になるわけね。
…………
ん~、他にも魔法にはいくつかの条件……というか制約があるんじゃないかと思う。
イメージしたことを声に出せば何でも出来るんなら世の中もっとカオスだろう?
「死ね」と言って杖振るだけで人殺せるとかマジ怖いから。
そこら辺どうなってんだ?
……分からん。
けど、それが普及してないあたりそう簡単なものじゃないってことだろうから安心していいか。
あ、そう言えば教師が魔法による攻撃は自分の魔力で以って相殺できるとかなんとか言ってたな。
相手の魔力と相当な開きがあれば出来るとか?
魔力……魔力ね。
「ファイエル!」
通常以上の魔力を込めて杖を振る。
……かなりの威力の水弾が標的を叩き壊す。
つまり魔力を多く込めればそれに比例して威力もあがると。
そしてより大きな魔法を行使するには多くの魔力というエネルギーが必要となる……か。
そこら辺はどっかのゲームと同じだな。
!
そう言えば何で『木の杖』を使うんだ?
ゲームじゃないんだから木に拘る必要は無いと思うんだが。
それ以前に、何で杖を使う?
魔導具ならどれでも魔法を使えるんだろ?
実際に武具や防具に結晶を組み込むことで(武器防具の)魔法強化が可能となったからこそ、魔導兵は精強なんじゃないか。
確かに、後方で魔法に専念する者たちにとって魔導具は武器防具である必要は無いだろう。
だが、それと同時に『木の杖』である必要も無い。
そこに何か理由がある……。
考えられるとしたら……伝導率か。
おそらく、金属より木の方が魔力の伝導率が良いのだろう。
伝導率が低ければ、それだけ魔法の効果が下がる。
故に、魔法だけを専門にするなら伝導率の良い『木』を使う……ということか。
木剣とか持ってても仕方ないしね。
それなら使い易い杖になるのも納得だ。
良い杖と悪い杖の違いってのは伝導率の違いなんだろうなぁ……。
あ~もう色々やってたら眠くなってきた。
続きは明日だな。
+注意+
・特に記載なき場合、掲載されている小説はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
・特に記載なき場合、掲載されている小説の著作権は作者にあります(一部作品除く)
・作者以外の方による小説の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。
この小説はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この小説はケータイ対応です。ケータイかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。
小説の読了時間は毎分500文字を読むと想定した場合の時間です。目安にして下さい。