第2話 アドルフの憂鬱
アドルフの誕生から5年の月日が流れた。
アドルフはその年齢に似合わぬ聡明さを発揮し、勉学にも熱心に取り組んでおり、周囲の人々から神童と呼ばれていた。
が、その実態を知る者はアドルフ本人しかいなかった。
<アドルフ>
まったく、どうしてこうなったのやら……。
俺は前世では銀河帝国という超大国の皇帝だった。
88歳まで生き、天寿をまっとうして逝った……と思ったら、また赤ん坊に(ry
利発? 聡明? 神童?
そりゃ前世の銀英伝時代やその前の平成日本時代も合わせれば100歳超えてるからな。
これで同年代のガキと同等だったら泣くぞ!
勉学に熱心だ?
暇なんだよ、娯楽が無いんだよ、それぐらいしかやる事ねぇんだよ!
ネット、ゲーム、アニメ、マンガ、etc……何も無いんだぜ!
オマケにまだ5歳のガキだからメイドとセッ○スも出来ん……orz
貴族同士の幼い頃の素敵な出会い?
あのなぁ……所詮5歳のガキだぞ、今は良くてもこの先どう育つか考えもつかん。
どっかの小説のように素敵な女性に育ってくれればいいが、現実はそんな甘くは無いのだよ。
その上、教育を施すやつらが基本選民思想だろ?
大人になった時、俺と性格が合うやつが簡単に見つかるとは思えんのだが……。
ハァ……こんな状況じゃあいくら公爵家でもなぁ……家督を継ぐのも兄だし。
貴族っていっても次男以下は大変なんだよ。
チクショウ、俺が何をしたって言うんだ!
アレか、前世で億単位の人間を死に追いやった罰か?
メギルド帝国は大陸一の先進国家?
知るかボケ!
俺からすれば土人国家でしかねぇよ。
まあ、平民の子だったら既に働かされてたり、その日の飯も満足に食えんかもしれんから十分に恵まれてると言えるんだろうが……ああ、前世の記憶が俺を苦しめる。
…………
しっかし黒目も黒髪も俺以外に居ないんだな……。
どちらか片方だけなら稀に居るらしいが、両方となると目撃例は俺を除いて0。
いや、ホント邪神の使いとか言われんで良かったわ。
ホントは結構危なかったらしいけど、そこら辺はマイダディに感謝だな。
さて、そろそろ疲れて来た。
今日は早めに寝るとしよう。
* * *
世界暦992年。
ローシア大陸中央に覇を唱えるマルーダ王国で第四の古代迷宮が発見された。
マルーダ王国はメギルド帝国が今の版図となってから幾度も争ってきた相手である。
魔導技術に関しては長年のアドバンテージがあるとはいえ、国土・人口ともにマルーダ王国が上回っており、それにマルーダ傘下の国々まで加わる。
そんなマルーダ王国が古代迷宮を所有したとなれば、メギルド帝国にとって脅威以外の何者でもない。
帝国上層部は、その脅威が形となって現れる前にマルーダの国力を削いでおくため、第二次マルーダ遠征軍の編成を決定する。
その気合いの入れようは、総数8万という大動員と、帝国の総力を以って完成させた世界初の魔導戦艦フォアグラムの投入を決めたことからも窺えるだろう。
準備を完了させた帝国は、先ずレビル・フォン・ストレイマン将軍率いる先鋒隊3万をマルーダ王国の属国であるリシド公国へと攻め込ませる。
12年前に行われた第一次マルーダ遠征では、このリシド公国を経由したマルーダ軍に遠征軍の後方を遮断されたことが原因で失敗に終わっており、今度は以前の轍を踏むまいとの判断であった。
総人口が6万ほどしかないリシド公国に3万もの兵を止める力は無く、怒涛のような攻撃にあえなく陥落。
リシド公国が陥落し北の憂いが無くなると、アルベール・フォン・ハプスブルク公爵の本隊5万はメギルド、マルーダの両国を隔てているラルバ川を渡河してマルーダ王国へと侵入した。
マルーダ王国も6万の兵を動員して遠征軍に相対したが、メギルド軍は全兵士が魔導兵であり、魔導具の質も上である。
こうなれば1万の兵力差も容易に埋められてしまい、更に魔導戦艦フォアグアムの圧倒的な存在がマルーダ兵たちを委縮させてしまう。
戦う前からこの状態では結果は分かり切ったようなもので、無論メギルド軍の圧勝であった。
マルーダ軍を蹴散らしたメギルド軍はそのまま西進して、マルーダ王国の東の拠点である城塞都市リレヒトを包囲する。
だが、リレヒトを落とした後は先へと進まず、リシド公国の北にあるタンバル王国を攻めていた先鋒隊よりタンバル王国陥落の知らせが入ると、あっさりと兵を退いて自国に戻ってしまった。
これは、補給線が長くなり過ぎることを恐れたハプスブルク公爵が戦果は十分と判断して引き揚げを命じたためである。
その代わりと言っては何だが、リレヒトの街は徹底的に焼き払われ、元の姿に戻すには10年は掛るだろうというありさまであった。
メギルド帝国はマルーダ王国軍に打撃を与え、リレヒトを無力化したことで当面の安全を確保した。
また、リシド公国、タンバル王国の両国を滅ぼしてその領土を帝国領に組み入れたことによってラルバ川以東のすべてを制することとなった。
* * *
世界暦994年。
2年前の第二次マルーダ遠征によって当面の間西の安全を確保したメギルド帝国はその目を南へと向けた。
帝国の南方にある国々を併呑して勢力を伸ばそうというわけである。
メギルド帝国の南下政策は今に始まったことではない。
163年前の第二次迷宮戦争以降、マルーダ王国と西の国境を接してしまった帝国としては他方に勢力を広めるしか無かったのである。
早々に東のリュピト半島を征服した後は北と南へ目を向けたが、北は極寒の大地で作物の実りは悪く、その上戦争経験だけは豊富な国々がひしめいているため得策ではない。
となると、メギルド帝国が勢力を伸ばすには消去法で南しか無くなる。
故に、歴代の王たちは幾度も南下政策を行いその度領土を増やしてきた。
しかし、ローシア大陸東部と南部を分断するクアルー山脈にぶち当たってからはそれも打ち止めになり、今回も南に目を向けたは良いものの具体的にどうするか……ということになると良案は一つも出なかった。
南部に唯一通じる道を持つ山間国家トレド王国への侵攻も検討されたが、大軍を展開出来る地形でないこと、山の斜面を崩されれば容易に増援と補給が断たれること等を理由に却下された。
そんな時、一人の人物が自分の息子から聞いた案を出す。
すなわち、クアルー山脈以南の国々への海路からの侵攻作戦を。
・・・・・・
<アドルフ>
アドルフです。
12歳になりました。
最近、悩んでた父に「陸がダメなら海から行けばいいじゃないか!」と助言したら驚いた目で見られ、「その発想は無かった、でかしたぞ!」と大変褒められたとです。
お褒めの言葉よりも金をくれよ!
海路からの侵攻は逆撃をくらった場合、海に追い落とされる可能性があるから危険なんだけどね。
まあ、クアルー山脈を越えた程度のところなら小国しか無いから何気に水陸両用な魔導戦艦を侵攻軍の護衛に付けときゃなんとかなるだろ。
多少のリスクはあるが、リターンもでかい。
トレド王国とやらの南まで制圧してしまえば、南北を帝国領に挟まれたトレド王国はある程度の待遇を保証してやれば楽に降ってくれるだろうからな。
そうすれば勝手に陸路も繋がるじゃないか。
後は消化試合だな。
大陸南部の雄であるアルセイム皇国とティアルノ王国が出張ってくれば話は違うんだろうが、その両国は長年争っている間柄。
宿敵相手に背を向けてまで、こちらを優先するとは思えん。
仮に両国が手を組むと厄介どころではないが、今の段階ならまだそこまではいかんだろ。
……それより、この世界には迷宮が有るんだ!
迷宮だよ迷宮!
男のロマン!
マジ潜りてーんだけど!
魔物が居て危険?
そんなの知るか!
何?
貴族の坊ちゃまが魔物と戦えるかだって?
ふっ、甘いな!
そもそも我がハプスブルク公爵家を含む十二大貴族は皆、戦争で手柄を立てて貴族の最上位である公爵家に叙せられた家柄だ。
つまり、どの家も男子は貴族の嗜みとかいって戦闘の訓練を(強制的に)受けさせられるんだよ。強制的にってのがポイントだ。
それに、俺の親父は軍部のトップだぞ。
この前のマルーダ遠征でも遠征軍の総司令官やってただろ?
そういうことだよ。
幸い、俺は前世で軍人だった頃もあるため、生きるか死ぬかの実戦は何度も経験している。
てかマジで殺られそうな場面も何度もあった。
ヤン・ウェンリーとかヤン・ウェンリーとかヤン・ウェンリーとか、あとビッテンとかに。
だから同世代の人間よりは多少マシだろう。
もちろん、この年で修羅場を何度もくぐり抜けてきたヤツを除けばの話だが……。
とはいえ、それは現時点での話だ。
この先、必ず才能という差が現れてくる。
『努力は才能を上回る』この言葉は一面においては正しいが、才能がある上に努力してるやつには最終的に敵わんのが現実なのだよ。
ゲームのようにコツコツやればカンストして追いつくってわけじゃ無いんだぜ。
そして次に来るのは経験の差。
俺は艦隊司令官としての経験はあっても白兵戦の経験は無いんだが……。
それでも、実戦を経験しているというのは一つのアドバンテージではある。
戦場の空気というか……なんかよく分からんものがなんとなく分かるんだよ。
それに直感みたいなのが働くこともあるしな。
…………
まあいいや。
とにかく、俺はあと何年かすれば迷宮に潜る。
基本的に石橋を叩いて渡る俺だが、もう二度も人生経験してるから今回ぐらいはスリリングでも良いんだよ。
あ、でもやっぱり痛いのは嫌だが……。
迷宮ものというよりは戦記ものっぽくなってしまった。
何故……そうか、アドルフが成長しないからか。
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