「取手バス通り魔事件」の犯人を凶行に走らせた喪失の10年間

[2010年12月24日]


取手バス通り魔事件の犯人宅。今年9月、2500万円で売りに出された

12月17日午前7時40分頃、茨城県取手市のバス内で発生した通り魔事件。江戸川学園の生徒ら14人を包丁で負傷させ、現行犯逮捕された斎藤勇太容疑者(27歳)は、逮捕後の供述で「自分の人生を終わらせたかった」と供述した。

彼を犯行へと走らせたものは、いったいなんだったのだろうか。

小・中・高の同級生は例外なく、斎藤容疑者について「彼のことはほとんど印象にない」と口を揃える。近隣住民にとってもそれは同様で、斉藤家と親交のあった主婦がこう打ち明ける。

「両親、それに兄弟とも、一緒に話をしたり、楽しく遊んでいるところを一度も見たことがないんです。でも、勇太君はお爺ちゃんとよくふたりでいたわ。仲良く手をつないで歩いている姿を何度も見ました」

その仲が良かった祖父が斎藤容疑者の前から姿を消したのは、今から10年ほど前。祖父と喧嘩が絶えなかったという容疑者の父親が、同居していた祖父と祖母を追い出したそうだ。そして今から3年前、今度は母親が亡くなってしまう。末期がんだった。

その頃、斎藤容疑者は23歳前後。進学もせず、職を転々としていたが、母親の死後、一昨年の夏あたりから自宅近くの倉庫会社でアルバイトとして働くことに。業務内容は、朝から晩まで農業用資材をひたすら梱包する単純労働。しかし、この会社もわずか1年で退社している。捜査関係者の話では、斎藤容疑者はこの会社を辞めた後、家に引きこもるようになった。

それから約1年後の今年9月、斎藤容疑者の自宅が突然2500万円で売りに出された。購入を考えていたという人物が、内見した際、「髪の毛は肩につくくらい伸びていて、ヒゲはボウボウ」の斎藤容疑者を家の中で見ている。

「昼間だというのに息子さん(斎藤容疑者)の部屋は真っ暗。分厚いカーテンを開けると、目に入ったのは、敷きっぱなしの布団と、本棚に使われたカラーボックスだけ。家電の類は一切見当たらず、とにかく物が少なかった印象です。テレビもパソコンもない、あんな部屋で引きこもっていたら息苦しくなりますよ」

容疑者が犯行に使った凶器を購入したのはこの時期とされている。「祖父母」も「母」も「仕事」も失い、最後の居場所だった「自分の部屋」までも失くしかねないという状況が、彼を犯行に走らせたのか。最後に自分を“喪失”させるために他人を巻き添えにするなど、決して許される行為ではない。

(取材・文・撮影/興山英雄)

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