6月17日に参議院で可決、成立した「情報処理の高度化等に対処するための刑法等の一部を改正する法律案」が、来月から施行される。
この通称「コンピューター監視法案」は、高度化するサイバー犯罪に対応すべく法務省が推進してきたもの。ウイルスの作成に罰金刑を課すことができるようになるなど、時代に則した法案ともいえるが、その一方で問題点もある。それは、裁判所の令状無しに警察が「怪しい」と疑いをかけた人のメールの通信記録を保全するよう、プロバイダーなどに“文書”で要請できる点だ。
つまり、警察は文書さえ出せばデータの保全要請がいくらでもできてしまうことになる。そして、そのデータを“任意提出”させる可能性がある点が問題なのだ。サイバー犯罪に詳しい山下幸夫弁護士は、その危険性をこう説く。
「単なる情報収集なのに、適当に『○○事件の捜査』という名目で個人のメール情報を任意提出させることも行なわれるようになると思います。ですから、保全要請についても、警察が恣意的に運用しないよう、少なくとも裁判所の令状が必要なようにして、歯止めをかけるべきなのです」
個人情報を警察が自由に入手できる危険性があるにもかかわらず、衆議院ではほとんど審議されることなくスピード可決された同法案。その理由として、本来なら与党の暴走を監視する側である野党が、社民党と共産党以外、賛成に回ったからだ。なぜならそもそもこの法案は自公政権時代のものなので、自民党、公明党は反対できなかった。一方で、野党時代にはこの法案に反対だった民主党は、閣議決定したにもかかわらず、党内の意思統一がなされていない。
「民主党の法務部門会議では異論や反対が相次いだのに、いつの間にか決まって、法案が提出されてしまったという印象があります」(民主党・橘秀徳議員)
この影には法務省の存在がある。なんとしてもこの法案を成立させたかった法務省は、弱体化する菅政権の足もとを見て、震災復興法案に議員と国民の目が向いているのをいいことに、民主党に法案の提出をさせたのだ。
「今の民主党執行部は政治主導といいながら、法務官僚の言いなりになっているようなもの」(民主党関係者)
誰ひとりとしてリーダーシップを執れない民主党。政権与党としての未来は暗い。
(取材/西島博之)