44年目の無罪判決。「布川事件」被告人が語る冤罪のつくられ方

[2011年06月02日]


「布川事件」を描いた映画『ショージとタカオ』は、東京・新宿K's cinemaほかで公開中

裏金づくりやデータ改竄など、警察・検察の不祥事が次々と明るみに出ている昨今。だが、絶対的な“正義の味方”であるはずの彼らが国民を裏切るなんて、以前は誰も思いもしなかった。

「布川(ふかわ)事件」の犯人とされた桜井昌司(しょうじ)氏(64歳)も、そのひとりだ。

「当時は、そういった警察の不祥事とか検察への不信とかがまったく世に出てない時代でしたから。逮捕されたときも警察はひどいことはするまいと思ってましたけど、いったん犯人としてしまった人間に対しては、平然と物的証拠をでっち上げてきたからね」

同じく「布川事件」で共犯とされた杉山卓男(たかお)氏(64歳)も憤(いきどお)る。

「昨年、大きな話題になった大阪地検特捜部の証拠改竄事件で、マスコミは前代未聞だなんて言ってたけど、俺らの頃から、いや、俺らの前からやってたんだよ、おそらくは」

布川事件とは、1967年8月に茨城県利根町で起きた強盗殺人事件だ。大工の男性を殺害し、現金約10万円を奪った犯人として逮捕されたのが、当時20歳そこそこで地元のワルだった桜井氏と杉山氏だった。

「警察には“確証なき確信”といって、逮捕した人間はなんの証拠がなくても犯人と確信して調べる、というルールみたいなものがある。いったん逮捕した人間は、犯人と思って調べる。そして、犯人はなかなか自白しないから、自白させるためにはどんな手段を弄(ろう)してもいいと……。そうなってくると、何もやっていない人間がやったと言ってしまったり、言わされてしまうこともあるんです」(桜井氏)

朝から夜中まで続く過酷な取り調べに「嘘の自白」をしてしまった彼らを犯人に仕立て上げるため、検察は現場の状況に合致するように供述調書を作り上げていった。

「検察が、俺たちが無実である証拠を隠してなければ裁判所も気づいたと思うんだよね」(杉山氏)

その後、彼らは一貫して無罪を主張し続けるが、78年7月に有罪判決が確定し、無期懲役囚として収監された。

しかし、なぜ冤罪事件は生まれ続けるのだろうか? そこには、警察や検察の独特の体質があるという。

「彼らのなかでは警察という組織は間違ったことはしない、してはならないという変な意識がある。だから、いっぺん(自白を)作ったらもう変えない」(桜井氏)

でも、警察も検察も神様じゃないんだから、間違いはあって当たり前。ミスをミスと認めたほうがよっぽど信頼を取り戻せるのに、無理を通すために証拠を捏造したり改竄するなんて……それって犯罪だよ!?

「いや、『自分たちは正しいことをやっている。もし被告たちが無実になってしまったら、社会の平和が乱れる。こいつを犯人にすることが社会の正義』だという言い分です」(桜井氏)

でも、そんな無理やりな起訴だったら、裁判所だって冤罪って気がつきそうなもんだけど……。

「自分が捕まってたときは、裁判所を神様のような存在だと思ってたのよ。なんでもわかってくれるってね。だけど、(棄却された第一次再審請求審を含め)6回も裁判やって有罪になって、そのなかで何十人も裁判官が代わったけど、誰ひとり俺たちを信用してくれなかったからね。ま、証拠を隠していた検察が元凶だけど」(杉山氏)

日本の司法制度の最大の問題点はどこにあるのか? ふたりが口をそろえて問題視するのが〝判検交流〟。これは日本の裁判所や検察庁において一定期間、裁判官が検察官になったり、検察官が裁判官になったりする人事交流制度だ。

「最高裁にも、検察官上がりの裁判官がふたりいるんですよ。日本は検察庁の影響力が大きすぎる。彼らをちゃんと監視できるような独立組織をつくらないと」(桜井氏)

仮釈放後のふたりを14年間追い続けたドキュメンタリー映画『ショージとタカオ』の井手洋子監督が彼らの心中を代弁する。

「映画を観るとふたりとも飄々として29年も塀の中にいたことを感じさせませんが、やっぱり人には言えない大変な思いをしているはず。仮釈放されても恩赦がない限り、保護観察処分は死ぬまで続く。選挙権もないし、許可なく旅行にも行けない。彼らは、みんなが当たり前に持っている権利を返してほしいだけなんです」

ふたりが逮捕されてから44年目の5月24日、東日本大震災の影響で延期されていた彼らの再審判決公判が水戸地裁土浦支部で開かれた。判決は無罪。だが、彼らが公判で求めた警察・検察への批判や誤審の原因解明については、一切触れられることはなかった。

冤罪を未然に防ぐ、取り調べの全面可視化や証拠開示制度を実現するまで、彼らの闘いは続く。

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