東京の豪華なマンションで大企業の幹部とその妻が殺害された。事件当時、現場には4人の若者がいた。警察は彼らの証言と自白を基に、そのうちの1人を犯人として逮捕する。そして10年後、4人のうち1人が余命6カ月を宣告され、当時の「真実」について口を開く。
彼らの中に「悪人」はいなかった。ただ、全員が自分にとって最も大切な人が傷つかないよう、ほんの少しうそをついただけだ。友人が僻地に左遷されないように、初恋の相手が殺人を犯したのではないかと思い、同じ痛みを持った彼女にとって不名誉にならないように…。しかし、「理解」だと思っていたこの全ての「配慮」は、実際には相手の状況を勝手に解釈した「誤解」から始まっていた。
心理ミステリーの名手である著者は、映画『告白』の原作者だ。この作品では4人のセリフを通じ「他人を理解することは可能だろうか」という質問を投げ掛け「人間の犠牲は結局、自己満足のため」という苦しい答えを導き出す。「究極の愛とは?」「罪の共有」という、小説の半ばで登場する主人公たちの会話の断片が、この話全体を通じたテーマとなっている。しっかりと組み立てられた演劇のような小説だが、『告白』のような劇的な戦慄が走ることはない。そして登場人物のイニシャルは全てNだ。