「北の指示で工作活動か　詐欺容疑の男、民間潜入」の記事詳細：イザ！

　兵庫県の中小企業支援制度を悪用し、融資金約１０００万円をだまし取ったとして、大阪府警外事課などは６月２１日、詐欺容疑で、兵庫県尼崎市、運送会社「伍代物流サービス」社長、吉田誠一容疑者（４１）ら２人を逮捕した。吉田容疑者は元在日朝鮮人で、北朝鮮の工作機関からの指示で工作員として脱北者らの情報などを収集していた疑いがあり、警察当局が慎重に捜査を進める。

　吉田容疑者は昨年３月、北朝鮮の情報を取り扱う民間団体にスタッフとして潜入。脱北者らの情報を得るのが目的とみられ、北朝鮮に詳しい情報筋によると、この民間団体の幹部を中国で拉致しようと企てた、との疑惑も浮上しているという。北京や東南アジアにたびたび出国し北朝鮮の工作機関の責任者と接触、指令を受けていた疑いがある。

　府警は６月２１日、吉田容疑者の自宅や運送会社などのほか、在日本朝鮮人総連合会（朝鮮総連）の幹部をしていたとされる親族宅も捜索。今後、押収品を分析し、詐欺容疑の裏付けを進めるとともに、吉田容疑者の活動実態の解明にも努める。

　（ＳＡＮＫＥＩ　ＥＸＰＲＥＳＳ）

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　≪「正恩機関から指令」　浮かぶスパイ天国日本≫

　金正恩（キム・ジョンウン）第１書記のための工作機関」。６月２１日、大阪府警に詐欺容疑で逮捕された吉田容疑者が指令を受けていたとされる北朝鮮の工作機関「偵察総局」は、正恩氏の後継者内定とともに発足し、韓国に数々の工作を仕掛けてきた。男以外にも脱北者家族を装い、日本に潜入していた工作員がいるとの情報もある。スパイ行為を直接摘発する法律がない日本が「北の工作天国」となっている実態が浮かぶ。

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記事本文の続き　■５つの顔使い分け

　「あなたの団体に怪しい男がいる。危害を加える恐れがある」。関係者によると、北朝鮮情報を取り扱う民間団体が昨年４月、日韓の捜査当局側からこんな“警告”を受けた。

　「怪しい男」こそ、大阪府警外事課が２１日、兵庫県から融資金約１０００万円をだまし取ったとして逮捕した運送会社社長、吉田誠一容疑者だ。日韓捜査当局は、吉田容疑者と偵察総局関係者との接触を把握し、マークしていたのだ。

　民間団体に昨年３月に採用され、スタッフとして活動していた吉田容疑者が中朝国境などで活動中に、民間団体の幹部を連れ去るなど実力行為に及ぶ恐れがあると判断、異例の警告を発した。団体は吉田容疑者を解雇した。

　吉田容疑者は朝鮮総連の機関紙「朝鮮新報」の英語版編集長を務めていたが、この経歴を伏せて団体に潜入していた。

　関西の国立大大学院など複数の博士課程にも在籍し、団体を解雇された後も北朝鮮情報などを伝える東京の報道機関や日本の公的研究機関に就職しようと画策していたという。

　その間も２カ月に１回のペースで北京や香港、マレーシア、インドネシアへ渡航を繰り返していたことが当局の捜査で浮上。偵察総局の東南アジアの拠点の責任者から指令を受けていた疑いが強いことが分かった。

　朝鮮総連系編集長、融資金を巧みにだまし取る企業の社長、エリート大学院生、民間団体スタッフ…。“北の工作員”を加えると、５つの顔を巧みに使い分けていたことになる。

　ただ、北朝鮮による工作を取り締まる国家保安法がある韓国と異なり、拉致被害に遭った日本には依然として工作やスパイを取り締まる法律がない。このため、明らかな犯罪容疑で着手した吉田容疑者の事件でも工作の実態にどこまで迫れるか不透明だ。

　「拉致事件があったにもかかわらず、このままでは北朝鮮のやりたい放題になってしまう」。捜査幹部の一人はこう悲嘆した。

　（ＳＡＮＫＥＩ　ＥＸＰＲＥＳＳ）

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　■偵察総局　北朝鮮の朝鮮労働党作戦部と、日本人拉致を実行したとされる「３５号室」（党対外情報調査部）といった党の対外工作機関を、人民武力部偵察局のもとに一本化する形で２００９年に発足。１０年には北朝鮮から韓国に亡命した黄長●（＝火へんに華、ファン・ジャンヨプ）元労働党書記（１９２３～２０１０年）を暗殺しようとしたとして北朝鮮の工作員２人が韓国当局に逮捕されたが、偵察局の指示だったことが判明している。