2010年2月26日 20:34
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タグ:[
著作権
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こんにちは、chikiです。
札幌もここ二日間はすっかりあたたかくなり、オフィス内も暖房がききすぎている感じです。
わたくしたちが「著作権の雪かき」なんてことを申し上げてからもうすぐ一年になりますが、今年もさらなる雪解けをめざします。
さて、今回も前回に続き、作品の「パクリ」について、権利者であるみなさまクリエイターの視点から、おはなしします。
chikiは「ピアプロ」の運営にも関わっていますが、会員のみなさまから、「この作品はあの作品のパクリではないでしょうか」という情報をときどきお寄せいただいています。
一目見てコピーだとわかるのはいいんですが、そうでないもの、これがなかなか困るんです。それを判断していいのは裁判所だけで、仮にchikiに裁判官と同じ能力があったとしても、判断できないものもあるんです。
では、その裁判所がどういうふうに判断するかというと、どうもちょっとみなさまの感覚とはちがうかもしれないようです。ちょっとこんな例をかんがえてみましょう。
クリケンさん(仮名)は、若い男性を対象として、自分で描いたイラスト付きの
「この冬、男のアウトドア!」という本を出版していました。
ある日クリケンさんは、クリプトン観光(仮名)が出しているパンフレット「たのしい冬のすごしかた」を
たまたま目にして、びっくりしました。
その本にたくさん出てきた若い夫婦のイラストのうち、夫のキャラクター「GAITI」が、クリケンさんが
本に描いたお兄さんのキャラクター「KAITO」(仮名)のイラストにそっくりだったからです。
ちょうどそのころ、クリケンさんのところに、このパンフレットのイラストレーターchiki(仮名)から
「GAITIはKAITOを参考にして描きました。このたびはクリケンさんの著作権を侵害し、
たいへん申し訳ありません」というお詫びが届きました。
そこでクリケンさんは、chikiに対してはその詫びを受け入れて、クリプトン観光に対し
「パンフレットを配るのをやめてください」と言いました。
ところがクリプトン観光は
「あなたのキャラクターは若いお兄さんでしょう?
わたしたちのキャラクターは若い夫婦の夫であって、キャラクターがぜんぜん違いますよ。
chikiが何を言ったかは知りませんが、ふたつは別の物で、あなたの権利は侵害してません」
と言うのです。
さて、法律ではこういう問題をどう考えるでしょう?
普通に考えれば、chikiが謝罪している以上、クリケンさんの言い分が通りそうですね。
ところが、これがなかなか簡単にはいかないのです。
chikiがどう言おうが、実際に絵を見比べて、クリプトン観光の言うとおり、それぞれが別の絵だと認められてしまえば、クリケンさんは負けてしまうのです。
このケースは、実際にあった裁判をモデルにしています。
裁判の判決文にリンクを貼っておくので、興味のある方は見てください。
長い文章ですが、17ページからの10ページ分くらいを読めば、雰囲気だけでもつかめます。
もちろん、実際にパクリだというときには、裁判になることなんかほとんどなくて、パクリ=ダメ、ってことになって、それでケリがつくことがほとんどです。
ただ、「パクリ」ということと「似ている」ということの区別というのはとてもむずかしくて、たしかに似ているように見えても、でも簡単に「パクリ」だと言えないんじゃないんだろうかと、chikiはそんなことを思うこともけっこうあるのです。
「パクリ」ということと「似ている」ということ、そして「著作権の侵害」ということは、いつもイコールだとはかぎりません。
みんながクリエイターであり権利者でもあるCGMの時代、こういうことも知っておいていただけたらなと思って、今回はこの話をしました。
さいごにこれだけは申しあげますが、これは「いい・わるい」「創作としての価値の高い・低い」とはぜんぜんべつのお話です。
「パクリじゃないから」「著作権の侵害じゃないから」ということは、それが許されるかどうかということとはおなじでないことは、申し上げるまでもありまんせよね?
それでは、また!
(知規)
めんどくせぇぇ!
判決文を読むと、パクリかパクリじゃないか、著作権を侵害しているかどうか(不利益があるかどうか)を証明することがいかに難しいかが、よ~く分かりました。よくもまぁ、あそこまで事細かにw
このケースの場合【このイラストはクリケンさん(仮名)の「この冬、男のアウトドア!」という本のイラストを参考にしました】とかなんとか、そのパンフに一文入れればそれですむような気がしますけどねぇ。
創作活動においてパクリと言うか模倣は基本的な技法。模倣することで技術は身につくもの。
誤解を恐れずに言えば「どれだけうまくパクるか」だと思います。
元となる作品を自分の中で咀嚼して消化して、自分なりの趣向を加えた上で新しい作品として(元作品への敬意を忘れずに)表現するのが創作というもの。
もちろん、ちょこっと加工したりまるまる引用しただけで自分のオリジナル作品だなんて主張は論外。だいたいそんなの空しいだけだろうし、楽しくないと思うんだけど。
しかし下手なパクリが証明が困難だからってまかり通って、パクリ得になっちゃうとしたら問題ですね。
投稿者 チューハイ : 2010年3月 1日 08:23
>チューハイさま
お読みになりましたか?
そう、笑っちゃうほど面倒くさいんですよ。
でも、判決文の後半は同じことをパターンで延々繰り返しているだけなんですけどね。
「キャラクターが似ている」ということと、「著作権を侵害している」ということがいつも同じとはかぎらない、ということのかけらでもおつかみいただければ、というご紹介でした。
これは今後の展開の前振りでもあるのですが、けっきょく「キャラクター」というもの「それ自体」が著作権法の対象になっていないこと、「キャラクター」というもののうち、部分部分を切り取っていろいろな法律で保護の対象にしていること、ということはもっと知られていいと思うんですね。
「一文を入れれば」というのは、ここまで何度か申し上げた、「つよいい権利と契約の自由」のお話ですね。
それで話が済むときもあれば、かえって話を持ちかけたために、払う必要のないはずのお金を払わなくてはならないこともある。
このへんがなかなか大変なところです。
この辺、今までのアメリカの大資本だと、「もめそうな可能性のものは事前に全部買ってしまえ」ってことになります。本当は関係ないものでも、あらかじめ知的財産権買い取っておけば、問題なくなりますからね。
でも、CGMの世界じゃそれはムリ。まず、そんな大資本だれももってないし、仮にもっていたって、全部は探しきれないですから。
>だいたいそんなの空しいだけだろうし、楽しくないと思うんだけど。
chikiも、かんじんなところはこれだと思うんですね。
他人のキャラクターや設定を丸うつしして、著作権法に違反しない作品をつくることは、けっこう簡単にできます。
でも、それは「パロディ」や「オマージュ」でないかぎり、本人にとっても見る人にとっても、あんまり価値がないですよね。
そういうものは、法律とか道徳とかもちださなくても、自然に消えると思うんです。おもしろいものなら、そのまま残る。
そういう意味で、「パクリ得」ってことはあまり起きないはずなんです。
投稿者 chiki : 2010年3月 1日 15:56
>chikiさん
興味深い判決例ご紹介ありがとうございます。勉強になりました。
著作権法上の複製権侵害に要求される「依拠した(真似した)」という条件と「真似た結果、似ている」という条件は、それぞれ独立のAND条件なわけですが、混同しがちですよね。chikiさんのおっしゃるように、真似られた方にしてみれば、「真似られた事実」だけで、すわ権利侵害、と言いたくなってしまいますが、冷静に考えなければならないと思います。
なお、この判決については、もっとストレートに、絵柄だけ比べて「原告イラストの女性の容姿は一般的なもので権利は狭い。両者の共通点はありふれた表現である。だから似ていない」としてくれたらわかりやすかったのに、と個人的に思いました。ただ、実際にこのイラストを見ると、似ているかどうかは意見の分かれるところだと思います(この事件のイラストは次のurlでみることができます)。
http://www.courts.go.jp/search/jhsp0030?action_id=dspDetail&hanreiSrchKbn=07&hanreiNo=37482&hanreiKbn=06
無粋なコメントで申し訳ありません。
投稿者 chunsen : 2010年3月 2日 15:13
>そういう意味で、「パクリ得」ってことはあまり起きないはずなんです。
ピアプロ開発者ブログでこういう台詞が出てくるところが非常に興味深いですね(ω)
勿論、そういうお話も今後出てくる訳ですよね?
投稿者 桐生琢海 : 2010年3月 2日 15:48
>chunsenさま
コメント、ありがとうございます。
裁判例別紙のご紹介、わたくしからすべきでしたところ、ありがとうございます。
実際のところ、「明らかに侵害」といえる事案は、そもそも裁判にならないのですよね。
出てくる事例は、これのように、絵を見てみると、ちょっとあれっと思うことが多いですね。
キャラクター、ということについていうと、必ずしも「絵がそっくり」ということばかりではありませんから、この辺が大切な部分と思って、ご紹介しました。
第2章で、もう少し詳しくお話する予定です。
お読みいただければ、幸いです。
>桐生琢海さま
コメント、ありがとうございます。
>そういうお話も今後出てくる訳ですよね?
そうですね、第2章ではそういうお話もあろうかと思います。
ただ、思われている内容に一致するかどうかまでは、今のところ保証いたしかねますけれど。
投稿者 chiki : 2010年3月 3日 22:32