赤ちゃん、無事でいて-。記録的な豪雨に見舞われた12日、臨月の母は泥水の中を必死で避難所を目指した。阿蘇市内牧の瀬戸口友里亜[ゆりあ]さん(24)は13日昼、第3子の女児を無事出産。阿蘇の惨状に複雑な思いを抱きつつ、「大変な時に生まれた赤ちゃん。強い子に育って」と願う。
懸命に避難し、無事に女児を出産した瀬戸口友里亜さん=菊陽町原水の産婦人科医院
「避難してください」。12日午前7時すぎ、瀬戸口さん方に消防団員2人が訪れた。夫の功さん(29)は不在で、長男(3)が発熱。出産予定日まで1週間だった。
「おなかが泥水に漬かるかもしれない」。避難をちゅうちょした瞬間、玄関に水が流れ込んできた。長男と長女(1)を団員に託し、家を出た。避難先の市農村環境改善センターまで、普段は歩いて5分の距離。ただ、最短ルートは既に水没。迂回[うかい]して避難所を目指した。
最初は膝までだった泥水は、間もなく大きくなったおなかに達した。周囲の小川の流れは激しく、おなかは張る。「一番怖いのはおなかの子」。団員の肩につかまって約30分、懸命に泥水をかき分けた。
避難所で待ち受けた市健康福祉課の笹木福子さん(51)は「感染症が心配だった」と言う。間もなく陣痛が始まったが、近くの病院は被災。約25キロ離れた菊陽町の産婦人科医院に受け入れてもらうことになった。「何とか無事に産んで」と笹木さんに見送られ、救急車で運ばれた。
翌13日午後0時17分、瀬戸口さんは2972グラムの女児を出産。「上の子も避難所で出会った方が面倒を見てくれた。自宅にいるより安心できた」と安堵[あんど]する。
一方で、複雑な思いもある。同市坂梨で土砂崩れに巻き込まれた同級生の悲報を分娩[ぶんべん]室で聞いたからだ。「逃げ遅れたみたいで…」と涙ぐむ。甚大な被害を知り、退院後の育児に不安も募る。「これからどうなるのか。食料も不足していると聞いた」
明るく優しい子に、との思いを込めた名前を決めているという瀬戸口さん。「雨だけは早くやんでほしい」。生まれたばかりの次女を抱き、病室の窓に目を向けた。(高橋俊啓)
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