【シリア中部 緊急ルポ】負傷者に放火、漂う異臭 虐殺に泣き崩れる女性 悲劇再び
14日、シリア中部ハマ近郊のタラムセ村の攻撃で壁が崩れた家の前で、虐殺に使われた銃弾の薬きょうを手に取って見せる住民(共同) |
14日午後(日本時間同日夜)、国連シリア監視団(UNSMIS)に同行し、日本メディアとして初めて現地に入った。
▽殺気立つ住民
男性住民数十人が記者を取り囲む。「記者か?」「(アサド政権を擁護する)ロシア人か?」。焼け付く日差しの中、大声を上げながら詰め寄る住民の殺気立った雰囲気に汗がどっと流れ出す。
「日本の記者だ」と繰り返し説明し、ようやく落ち着くと、「100人以上の避難民がいた学校をヘリコプターがロケット弾で攻撃した」「モスク(イスラム教礼拝所)は遺体であふれていた」などと、口々に状況を説明し始めた。
▽砲撃そして虐殺
証言によると、政府軍は12日午前5時ごろから村に向けて砲撃を開始。午後8時ごろに砲撃がやむと、「シャビーハ」と呼ばれる政権支持派の民兵集団が村の中で略奪や殺害を始めた。「300人以上が殺された」と住民の一人が話す。
ロケット弾攻撃を受けたという2階建ての校舎の壁は黒く焼け焦げ、モスクの床には茶色くくすんだ血の痕が残る。自宅で22歳の息子を殺害され、遺体を焼かれたという女性は「左手しか遺体を見つけられなかった」と涙ながらに訴えた。
部屋で寝ているときに砲弾が落ち、両脚を負傷したノラさん(12)は「とても痛い」とおびえた表情で話す。多数の負傷者がいた近くの民家にはシャビーハが押し入り放火したという。村内には装甲車が走ったとみられる跡があちこちに残る。
▽装甲車
シリア軍はタラムセの「虐殺」について、村内の「テロ集団」を掃討したが、市民に犠牲はなかったとの立場だ。反体制派「自由シリア軍」が村内にいたため政府軍が攻撃したとの見方もあるが、住民は自由シリア軍の存在を否定、真相は明らかではない。
攻撃が終結したのを受けて監視団が現地入りする直前、村に突然、政府軍の装甲車が現れ、住民を憤慨させた。「停戦実現の役に立っていない」との不信から、監視団が村に入るのを止めようとする住民もいた。
日が傾き始めた午後5時ごろ。若者たちがバイクに乗って村から出て行き始めた。大学生のアブアブドさん(21)は「監視団が出て行けばやつらがやって来る」と視線を落とす。村の外の畑に隠れて夜を過ごすという。
▽震える唇
国連などのシリア問題特使、アナン前国連事務総長は政府軍の停戦違反と批判。だが、政権を批判する欧米と、擁護の立場のロシアの対立で制裁が科される可能性は低く、監視団の活動を著しく阻害している。
「調査に合わせて装甲車が現れるなんて」。デンマークから参加の監視団員は、ふがいなさを押し殺すように唇と手を震わせた。国際社会の協調があれば悲劇の再発を防げたのではないか―。こう尋ねると、目を閉じて深くうなずいた。
(共同通信)