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2012年7月16日(月)付

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原発と自治体―地元の定義を見直せ

関西電力・大飯原発3号機が再び発電をはじめた。福島での原発事故の教訓は、いったん放射能が大量に放出されれば県境など関係なく汚染が広がりうるということだ。[記事全文]

農産物輸出―ずさんさにあきれる

民間の社団法人を主体としつつ、政治家と農林水産省が深く関与した農水産物の中国向け輸出促進事業が、暗礁に乗り上げている。農水省が公表した調査結果の中間報告は、責任の所在な[記事全文]

原発と自治体―地元の定義を見直せ

 関西電力・大飯原発3号機が再び発電をはじめた。

 福島での原発事故の教訓は、いったん放射能が大量に放出されれば県境など関係なく汚染が広がりうるということだ。

 大飯については旧来の定義に沿って福井県とおおい町が「地元」とされ、その同意をもって政府が再稼働を決めた。教訓が生かされたとは言えない。

 安全対策や事故時の減災対策を国や電力会社とともに担っていく「地元」とは、何をさすのか。住民の安全を優先する視点から再定義する必要がある。

 まず急ぐべきは、事故時の防災計画の整備だ。

 福島の事故を受け、政府は原発から半径8〜10キロ圏内としていた防災対策の重点区域を拡大し、30キロ圏内を緊急時防護措置準備区域(UPZ)とした。

 新たに対象となった地域では防災対策に追われている。

 大飯原発から最短で約20キロの滋賀県高島市は、南方向への幹線の国道161号ががけ崩れで分断されれば孤立しかねない。東に面した琵琶湖に逃げられるよう、急きょ漁船で人や物を運ぶ協定を漁協と結んだ。

 京都府も原発30キロ圏内の8市町に避難計画の策定を促した。その中のひとつ、舞鶴市は人口の7割が大飯原発から30キロ圏内に住む。広域避難場所や放射線量の情報を得るモニタリングなど、国の指針を待たずに暫定計画をとりまとめている。

 防災指針を策定するのは、新たに発足する原子力規制委員会だ。政府は全閣僚がメンバーとなる「原子力防災会議」も創設し、指針にもとづき、平時の防災計画をたて、自治体との調整や訓練もする。

 どのように「地元」と向き合うか、規制委員会の存在意義がさっそく問われる。

 原発の安全性に立地自治体以外の声を反映する仕組みも不可欠だ。大飯の再稼働にあたり、政府は30キロ圏内に入る滋賀県と京都府の意向を尊重する姿勢を示したが、最終的に「理解を求める」対象にとどめた。

 福島の事故後、京都府と滋賀県は、関西電力に立地自治体並みの原子力安全協定の締結を求めている。関電が福井県と結んでいる協定では、立ち入り調査や事故で停止して再稼働する際の事前協議が含まれる。しかし事前協議の対象が拡大することに、関電側の警戒感は強い。

 原子力規制委員会のもとで、安全について協議する自治体をどう定めるか。再稼働手続きを進める場合、少なくとも30キロ圏内の都道府県の意向を立地道県と等しく考慮すべきである。

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農産物輸出―ずさんさにあきれる

 民間の社団法人を主体としつつ、政治家と農林水産省が深く関与した農水産物の中国向け輸出促進事業が、暗礁に乗り上げている。

 農水省が公表した調査結果の中間報告は、責任の所在など極めて不十分だ。このまま事業を進めることは許されない。

 事業を担っているのは、昨年夏に設立された一般社団法人の協議会。中国の国営企業を窓口に、北京に日本の農水産物の展示・販売館を設ける。日本の企業や自治体に会員登録や基金への出資を働きかけ、販売額の一定割合を受け取って運営する。そんな計画である。

 構想が生まれたのは、10年夏〜秋に開かれた民主党の研究会だった。同党衆院議員の元公設秘書が事務局長を務め、そのまま協議会の代表理事に就いた。

 計画は筒井前農水副大臣が引っ張り、鹿野前農水相も後押しした。2人とも研究会の中核メンバーで、副大臣や大臣として中国の国営企業との間で異例の「覚書」や「声明」をかわしている。農水省の事務方は、協議会の定款作りや説明会の開催、会員登録への働きかけなどを引き受けてきた。

 ところが、今年2月に展示販売用として輸出されたコメや粉ミルクが、検疫面での手続き不備で廃棄された。農水省の一部部局は中国側の姿勢を事前に確認していたものの、輸出は筒井氏主導で進められ、省内の縦割りもあって十分にチェックできなかったという。

 協議会は昨年度、展示施設の賃貸料など4億円を中国側に支払うことになっていたが、工面できていない。ずさんさに、あきれるしかない。

 事業には、スパイ騒動が持ち上がった在日中国大使館の1等書記官がかかわっており、関心はそちらに集まりがちだ。

 だが、根本には「政治主導」のもとで計画が強引に進められ、官僚組織も機能しなかったという問題がある。

 農水省は事業の立て直しに乗り出す構えである。それには、中間報告であいまいな点をはっきりさせ、責任を明確にすることが大前提だ。

 野田政権は先の内閣改造で鹿野、筒井両氏を交代させ、官邸は農水省の中間報告をあっさり了承した。まるで、「臭いものにふた」である。

 農水産物の輸出促進は、競争力強化への柱の一つだ。とりわけ市場の拡大が見込まれる中国向けは重要だ。それが一部の人間の思惑で左右されているようでは、農業の体質強化はとてもおぼつかない。

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