一話 旅立ち
朝日が照らし始めた街の一角、一軒の店の前で、少年と少女が言葉を交わしていた。
まだ朝も早いこともあり、人通りは少なかったが、それでもその少女と少年は人々の目を引いた。
少女の方は言わずと知れたこの店の売り子で、気さくな性格で街の冒険者から絶大な人気を得ている。チャームポイントは三つ編みだ。
しかし、そんな少女よりも、更に目を引くのが、少女と親しげに話している、少年だ。
確かに、まだあどけなさが残る顔立ちは、格好次第では女にも見えるかもしれない。しかし、それより、先ず目に付くのが、彼の髪だ。光の加減によっては銀色にも輝くその白い髪の毛は、他のどんな色も含んでいない。朝日に輝くその様は、まるで天使が舞い降りたかのようだった。
「……それじゃ、行ってくる」
買ったばかりの小型ナイフを、大事そうにベルトに挟んだ少年が、少女に向けて微笑みながらそう言った。
「うん……。頑張ってね」
少年の瞳に、しっかりとした決意の色を見た少女は、期待と心配とが織り混ざったような複雑な表情で、頷いた。
と、その時、少し遠くの方から、恐らく少年を呼んでいるのであろう声が届いた。
「レーンー! はーやーくー! 置いてっちゃうよー!?」
レンと呼ばれた少年は、慌てて声のした方を振り向いた。すると、緩やかな坂の先に、少年と同じ白銀の髪を、腰まで伸ばした少女が、腰に手を当てて此方を睨んでいた。白い肌や整った顔立ちから、その容姿は、美少女と言っても良いだろう。
目の形や雰囲気が少年に良く似ている。恐らく兄妹か何かなのだろう。
その姿を確認した少年は、もう一度最初の少女に視線を戻した。
「ごめん。もう行くね!」
そう言われた少女は、ほんの一瞬だけ、寂しそうな表情になったが、直ぐにいつもの笑顔を見せた。
「うん。行ってらっしゃい! 気を付けてね!」
少女は精一杯の笑みを、惜しみ無く少年に向けて放った。
そして、その笑顔をしっかりと胸に刻み込んだ少年は、少女に背を向けて、走り出した。
「ありがと! 行ってきます!」 走りながらも振り返って手を降る少年の目は、これから旅立つ、未知の世界への希望と、焦燥にも似た期待に色めき、輝いていた。
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