ワールド・エクスプローラー [world explorer] 世界を拓く人

佐藤裕介さん 未知なるものとの出会いを求め、頂をめざすアルパインクライマー

必要な装備や食料をすべて背中のザックに詰め、あらゆる手段を駆使して岸壁や氷壁を登り、山頂を目指す アルパインクライミング。確かな技術が必要とされるこのクライミングにおいて、若きエースとして注目を集める佐藤裕介さん。彼に会うために、みずみずしい新緑が彩る5月の瑞牆山(山梨県北杜市)を訪れた。
取材・文 柴崎朋実

競争がないことが、クライミングの最大の魅力

全山を花崗岩で覆われた瑞牆山の登山道沿いには、ところどころに巨大な岩がそそり立つ。木々の間から見える岩峰はうっすらと霧で覆われて、まるで仙境の趣である。
その岩肌の微妙な凹凸を手がかり、足がかりにして、佐藤裕介さんはこともなげに登っていく。あまりに軽々とした身ごなしなので簡単そうに見えるが、佐藤さんのように高度な技術に裏打ちされたクライマーでなければできない離れ業である。
「何千、何万回と登っているうちに、どこをつかんだらバランスがとれるのか、特に考えなくても瞬時に判断できるようになります。登れば登るほどわかってくるんです」
毎週のようにどこかの山を登り、年に数回は海外遠征へと向かう佐藤さん。本格的に登山を始めたのは、高校生の頃からだという。
「山岳部に入って、登山道を使った山歩きをしていました。この瑞牆山を登ったり、富士山を登ったり。当時はまだ山やクライミングについてよく知らなかったんですが、少しずつ山の知識を得ていくにつれて、雪とか氷のある山を登りたいと思うようになりました。それで、大学に入ってアルパインクライミングを始めたんです」
今や「山が生活の中心」と言い切る佐藤さんだが、小中学校時代に夢中になったのはサッカーだった。
「本当にサッカーが好きで、小学校ではそればっかりやっていたんです。でも、中学校で部活動としてやるようになると、一番をめざすためにはチーム内での義務が生じるわけですよね。団体競技の宿命なんですが、そんなふうに『やらなきゃならないこと』という枠のなかでサッカーをするのがつまらなくなってきて、本当に自分がやりたいことは違うんじゃないかと感じるようになって。
じゃあやりたいことってなんだろう、と考えた時、自分のペースでできるもの、そして他人と比べたり競ったりする必要のないものがいいなと思い至った。 小、中学校くらいの頃、釣りにものめり込んだことがありました。釣りって基本的に競うものではない。自分のペースでやれるし、自然の中でやることでもありますよね。山もそういうものじゃないかと思って、そっちに行ったんです」
佐藤さんは、「勝敗がないこと」「評価がないこと」がクライミングのいいところだと言い切る。
「端から見ればアルパインクライミングなんか、わざわざ危険を冒しに行くようなもの。日本社会では、批判されることはあっても評価されることはほとんどないんですね。
それでもなぜ行くのかと行ったら、100%自分がやりたいから。
そもそもアルパインクライミングって、天候が変化すれば条件はまったく変わっちゃうわけで、ほかのスポーツと同じようには評価できない。評価する意味がないでしょう。自分自身が満足できたかどうかがすべて。それがアルパインクライミングのいいところだと思っています」
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