原発で討論型世論調査 国民に丸投げ、政策ゆがめる懸念

2012.7.7 05:00

 政府は原発比率の選択肢をめぐる国民の議論を本格化させるため、「討論型世論調査」(DP)という初めての手法を採用した。国民の幅広い意見を取り入れ、政策運営に反映させる狙いだ。ただ、東京電力福島第1原発の事故後、感情的な反原発デモが広がるなどエネルギー政策は中立的な判断がしにくい社会環境になっている。偏った民意が反映されれば政策をゆがめる危険もはらんでいる。

 政府が国民的議論に向けて、DPを採用したのは「学習や討議を通じた熟慮の結果、3つのシナリオについて国民がどういった意向を持つのかを調べる」(内閣官房国家戦略室)ことが目的だ。

 DPは討論のための資料や専門家から十分な情報提供を受け、じっくりと討論した後に再度意見を調査。政策課題に十分な情報を持たず意見や態度を決めかねる人でも十分な情報を得て判断するため、合理的な意見が得やすくなることが期待される。

 すでに「国民的議論」の場として実施されてきた従来型の公聴会や意見聴取会といったシステムは形骸化しつつある。

 九州電力玄海原発の運転再開をめぐる昨年の経済産業省の地元説明会では、九電による「やらせメール事件」が発覚し、社会問題となった。公聴会や意見聴取会でも特定の団体の意見が優先され、「政策のアリバイづくり」との批判が強い。政府はDPを活用し、大きく二分する国民的議論の落としどころを探ろうとしている。

 枝野幸男経済産業相はこの日の会見で、「国民の意見をどうやって受け止め、集約するかはこれから。議論を踏まえどういった形でとりまとめるか考えたい」と語り、DPを具体的にどう政策に反映させるのか明言を避けた。

 エネルギー政策は安全保障にも関係し、重要な政治判断が求められる政策だ。政府・民主党が「国民的議論」に頼るのは国民への責任の丸投げで、「決められない政治」の表れともいえる。(石垣良幸)