この本を読んで、すぐに自分も路上生活を始めようとする、そそっかしい人は
それほど多くはないと思う。本書をただのホームレス・マニュアルとして読もうとするなら
特に購入する必要はない。しかしこの本には価値がある。たとえば次の部分。
アルミ缶拾いは他人よりも先に拾わないといけない生業なのに、達人たちの話を聞くと、
みんなあまりガツガツしていないことに驚かされる。ようするに焦ってはダメなのだ。
採集したあとは周囲を掃除するくらいの心の余裕が必要だ。そんな君を見ている人がいる。
それが次の顧客との出会いにつながるのである。
(p.68)
評者はこの部分を「社会性のある人は、路上でも人間的な生活を送れる可能性がある」と理解した。
これまでのホームレス関連の本に欠けていた、「ゆとりと礼儀正しさと少しの社交性」を大事にする視点が
導入されているところを、評価する。
ただ、これだけ好奇心や探究心の旺盛な著者であるならば、もう一歩踏み込んで異なる側面にも
目を向けてほしい。たとえば、「路上生活者支援に積極的なのはキリスト教会であり、それに比べて仏教寺院の多くが冷淡であるのはどうしてか」とか。
採集を可能にする土壌は「都市」ではなくて「社会」だと思う。その社会の成り立ちについて、もし考えが深まらないならば、生活は行き詰るだろう。