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Written by: pg THE NORTH FACE STAFF
2012/01/12 12:44 

THE NORTH FACE ATHLETE/佐藤裕介

世界中で注目を集める日本のアルパインクライマーの若手エースと称される。

2008年春にアラスカにおける巨大岩壁の継続登攀、同年代にインドヒマラヤ、カランカ峰の登攀、そして2009年にはパキスタン スパンティーク峰の登攀に成功など、それぞれのクライミングは世界トップレベル。

その佐藤裕介が毎年欠かさず行う事がある。

「2012年正月山行 黒部横断

 

 

鹿島槍ヶ岳~十字峡~大滝尾根~仙人山~坊主尾根下降~宇奈月

 

 

 

目標としていた「後立山~十字峡横断~大滝尾根~八ツ峰~剱岳」。4年前、大町から黒部を越え剱岳を登る黒部横断を正月に行って以来4回も計画している行程は今年も成功することなかった。実際にトレースしたのは鹿島槍ヶ岳~十字峡~大滝尾根~仙人山~坊主尾根下降。最終的に到達したピークはなだらかな仙人山。標高はたった2211mにすぎない。仙人山から欅平に伸びる坊主尾根の下降は、エスケープルートとして頭の片隅に一応留めておいたオプションの一つであったけれど本当にこの長大な尾根を下って、更に宇奈月まで20kmを歩くことになるとは思っていなかった。下界で妄想する行程はスケールの大きい、少し大げさに言えば壮大な計画だが、実際厳しい黒部に踏み入れると目指せ八ツ峰が、剱岳に替わり、今回は目指せ富山側となってしまった。そして、これは毎回のことだが最終的にはエスケープが容易でない黒部・剱岳からいかに脱出するかが目標となる。

 黒部での正月登山において計画達成は本来二の次なのかもしれない。重要なのは黒部にビビリながら与えられた条件の中で、いかにあがき続けるのか。そういった視点で今山行を振り返れば、紆余曲折しながら僕らもよくやったと思う。実際、素晴らしい体験ができたのだ。黒部と仲間に感謝したい。

 

1223(1日目) 曇り時々晴れ700大谷原~1530高千穂平1980

30kgのザックとラッセルで非常に疲れた。予報に反し天気は良好。今夜の食事は美味しいペミカンカレー。明日からは一食100gのアルファー米の日々が待っている。

1224(2日目) 曇り後雪730高千穂平~1530冷池小屋

最後の雪壁は雪崩を警戒しロープを出し時間がかかった。

1225(3日目) 地吹雪630冷池小屋~鹿島槍40m下トラバース~1330牛首のコル~1700雪洞

鹿島槍山頂へは行かず40m手前から牛首尾根にトラバース。鹿島槍山頂付近から風が強く牛首山上部ではホワイトアウトの中、苦労して下降。顔面が氷付けになる頃、牛首山手前のコルで雪洞を掘る。掘り始め早いうちからブッシュが出てきて新調したノコギリが活躍する。外は激しい降雪で、雪洞を掘っていた3時間足らずの間にザックは雪に埋もれてしまうほどだ。

1226(4日目) 猛吹雪400起床~700雪洞整備

吹雪で降雪が激しく、雪洞の出口の横穴を3m以上掘って外界へ。朝飯も食わずに3時間も雪洞の整備に費やされた。ある程度予想していたが、出口付近は完全に地形が変わっている。外に出ると洗濯機の中に放り込まれたような真っ白い爆風に曝されあっという間に目が開かなくなるほどに顔面が凍りつく。停滞。停滞時は普段でも少ない食料を更に節制することに決めていて、今夜食べたのはアルファ米レンゲ一杯分(25)。あまりの少なさに笑ってしまう。

1227(5日目) 吹雪400起床~500雪洞整備

雪洞の横穴は5mに延長された。この日は昨日ほどの悪天ではないがガスで何も見えない。

 

1228(6日目) 晴れ330起床~600出発~1100牛首尾根分岐~1600十字峡~1700渡渉偵察

快晴。素晴らしいロケーションを楽しみながら進んだのは初めだけだった。標高が下がるにつれブッシュとズボリが激しくなりペースは上がらない、2日間の激しい降雪によって4年前と比べてかなり時間がかかった。十字峡に着いた頃には夕方になってしまったのに、いつになく水量の多い黒部川で渡渉点を決めかねてしまった。今日中に渡渉を終えれないようでは明日の大滝尾根はありえない。(好天後しか雪崩の危険が高い剱沢へ踏み入れるチャンスはない)強引にでも渡ってしまいたかったが、伊藤に日が落てからの渡渉はさすがにヤバイだろ」と止められた。彼とはこの7年ずっと正月山行を共にさせてもらっている。時に暴走気味の僕を止めてくれるのはいつも慎重な彼だ。最低でも、渡渉可能なポイントを決定しておきたいと思い佐藤が裸になり空身で渡渉偵察する。胸まで没す水量だった。「本当に渡れるのか?」ザックを背負っての渡渉となると、この水量ではザックが浮力となってしまうのでぐことになる。ブーツ等を含めた35kgのザックを背負って水泳するのは、かなり危険そうだ。失敗して流されてしまったらすぐ下の小滝状に巻かれてしまう。それでも夕闇に包まれる黒部川を見つめながら「なんとしても渡りたいな」という岡田の言葉を聞いてこのメンバーならやれるはずだと確信した。明日のミーティングをしながら夜を過ごす。

 

1229(7日目) 500起床~800渡渉開始~1100剱沢つり橋付近

人間は空身で渡渉。チロリアンブリッジを張って荷物を渡す方法を取った。いつも通り、裸になってカッパズボンとネオプレーン靴下のみを身に付けて渡渉開始。昨日の偵察もあったので、空身なら渡渉自体は落ち着いてこなすことができた。それよりも対岸に渡ってから濡れたまま、素手とネオプレーン靴下で冷たい雪をラッセルし足場を固めるのが変態的に辛い。テンション最高潮の裸祭りを無事に終え、チロリアンブリッジのシステムも上手くいって黒部川渡渉を終える。雪降る中、水平歩道まで上がり剱沢つり橋手前でテントを張る。振り返ると昨日の幕営地がすぐそこ100m先に見え

1230(8日目) 小雪時々晴れ400起床~630出発~800ガンドウ尾根引き返す~剱沢懸垂ポイント偵察~1100剱沢つり橋付近

昨日の降雪で剱沢を諦めてガンドウ尾根を登り始めたが時折晴れ間がのぞく天気となり、1時間ほど登った後諦めきれずに引き返す。剱沢へのアプローチにトレースを付けつり橋にごっそりと積もった雪を除雪して明日に備え。今日の午後晴れたら剱沢~大滝尾根。晴れなければガンドウ尾根と決めて停滞する。当初、十字峡周辺で3泊もするとは思いもよらなかった。牛首尾根上の2日間の沈殿もあってあれだけあった食料も半分近くになっている。まだ10日間も残っていると考えがちだが、ここから剱岳方面に向かうなら予備を含め、10日間というのは僕らの感覚からすると多いとは言えない。最悪の状況についてどういったエスケープが考えられるのか、シリアスな話し合いが始まった。行くのか、引くのか。

1231(9日目) 晴れ330起床~620出発~800大滝尾根取付~900登攀開始~1930 8P終了点

朝起きると星がチラつく良い天気だった。昨日のトレースをたどり、懸垂下降2回で剱沢に降り立こんな所を歩いて良いのだろうか?と思いつつ3人ともハイペースで進んでいった。今年は大滝尾根上のキノコ雪の発達が良く、その登攀と垂直のブッシュにとても時間がかかった。重荷を背負いそれらを越えることが非常に辛い。真っ暗の中、厳しい登攀を終えて就寝。今日の目標は「紅白歌合戦を聞けるところまで」だったが、やっぱり谷底に近いこの付近ではラジオなど入らない。

11(10日目) 小雪500起床~730出発~1700 14PFix

傾斜が落ちてスピードも上がると思っていたが、厳しい登攀は続き今日もジリジリとしか進めない。激しいキノコの登攀が次々と繰り返される。雪を処理する登山も結構してきたつもりでいたが、それは勘違いだったようだ。今までの登山人生で乗り越えてきた倍以上(数十個)のキノコを切り崩した。この数日で確実にキノコ登攀技術は向上し、使用ギアもピッケルやバイルからスコップに変化して最終的にはダブルスコップでの登攀が最も効率良いことに気がついた。リードには非常に時間がかかりビレイヤーはかなり寒い。

 

 

12(11日目)激しい雪 400起床~630出発~6P登攀~163021P目終了

今日こそ少しは楽に進めるのではという期待は裏切られ激しい降雪の中、キノコ雪との戦いは終わることなかった。かなり頑張ったつもりだったが6Pを伸ばすのが精一杯。非常に寒い。

 

 

13(12日目) 曇り時々晴れ400起床~700出発~1500大滝尾根終了ガンドウ尾根JP付近2000m~1630雪洞

今日の後半には、傾斜が緩くなりキノコ登攀も散発的になった。コンテを交えながらスピードを上げガンドウ尾根JPに合流して、4日間充実の大滝尾根登攀が終了した。ピーク状にもならないなだらかな尾根との合流点で標高は2000m足らずだが、そんなことは関係ない。素晴らしい登攀だった。大滝尾根の終点で3人揃って取った一枚の写真からは皆の歓喜が溢れ出している。嬉しかったなあ。

14(13日目) 吹雪400起床~700出発~1230仙人山~1500 2050m付近~1630雪洞

吹雪の中、ガンドウ尾根上を空身ラッセルで進む。雪がとても深く重い。風も強くトレースを付けてもすぐに埋まってしまうのでパーティー各人の距離もあまり離すわけにはいかない。仙人山の稜線上では去年は強風で雪が飛ばされクラスト気味だったが、今年は積雪多く深いラッセルが頂上まで続く。こんな状態では雪崩の危険が高い池平山の大斜面へは入れない。残りの日数を考えると停滞して状態を待つ余裕もないので、剱岳を諦め欅平を目指すことにする。徐々に天候が悪化する中、坊主山方面へ進み雪洞を掘った。

15(14日目) 吹雪400起床~7:00停滞決定

標高2000m程度のこの尾根上なら、かなりの悪天でも動けるはずと鷹を括っていたが、雪洞を出てみると猛吹雪で強引に動いても無駄と判断。停滞に決定。腹が減る。

 

16(15日目)くもり雪 330起床~600出発~1600m付近

長大な坊主尾根を下降する。朝は時折晴れ間も見える中、いくつもの小ピークを越えながら坊主山へ到着。昨日の悪天による強風で尾根上の雪がある程度吹き飛ばされラッセルも少し楽になった。それでも小ピークを越えるたびに空身でラッセルを続ける。坊主山からの急な猛烈ブッシュには閉口する。アウターパンツに大きな穴をこしらえつつ突破。これ以降比較的歩きやすい下りと幾つかの登り返しを経て最後の上り返しピーク手前で小雪庇を利用し幕営。

 

17(16日目) くもり4007:00出発~1300欅平~宇奈月1830

最後のピークを越えてからは支尾根に入り込まないよう気をつけながら下降、もはや間違って登り返す余裕は持ち合わせていない。欅平から軌道を20km歩き宇奈月へ下山。

 

来年こそ、黒部の厳しい尾根と八つ峰をつなげた末の剱岳に立ちたい。もう4敗退目である。この周辺で正月に積み重ね費やされた山行日数は50日以上におよぶ。しかし黒部で過ごした全ての日々は僕の宝物だ。夢が叶わないというのも追い続けられるなら、時に幸せな事なのかもしれないと黒部に通う内に思うようになった。次も、山の本質に出会えるはずだ。今から楽しみである。

 

「2012 黒部横断使用ウェア」

NP15101   ICICLE JACKET   NP15102   ICICLE Bib   NA45103   Versa Air Grid Jacket

NL45101   Power Dry Grid Hoodie   NT30133   S/S Paramount Mesh Crew

NT52125   Alpine Pant   Mesh Pants   NY17105   RedPoint Light Jacket(保温着)

NN85111   Expedition Balaclava   高所帽

 

Alpine Climber    佐藤 裕介

Twitter: @Alpine_yusuke

 

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