1年でどれくらい山に入っていますか?
この10年以上で100日を下回ったことは一度もありません。
では常にベストコンディションが保てている訳ですか。
いえいえ。アルパインクライミングのベストとスポーツクライミングのベストとは両立できません。アルパインクライミングの遠征に一度行ったら、帰国してまた5.10台(ファイブテン:平均的なグレード。佐藤氏のベスト時のグレードは5.14)からやり直しです。戻すまでに半年以上は必ずかかります。体重にしても5キロは違いますから。やっぱり荷物をかついで歩いたり、クライミングをする時は、スポーツクライミングをしている軽い状態よりも、だいたい3キロほどバルクアップしていたほうが調子いいみたいです。
じゃあバルクアップする時は積極的に食べたりするのですか。
基本的にぼくは摂生していないと、ガツガツ食べてしまうほうなので体重を増やすには苦労しません。でもスポーツクライミングのベストシーズンである秋は摂生して体重を落とすように心がけています。
遠征にはどれくらい費用がかかるのですか。
僕たちの遠征ってかなり低コストでやっているほうだと思います。このあいだのパキスタン遠征でも一人の自己負担額が50万円くらい。ただ一ヶ月半のあいだ仕事をしていないので、そのときの無収入の状態というのは家計には大きい負担でしょうね。でも普段から節約した生活をしていますよ。楽しみながら。
自身の活動を報告することについて、どう考えますか。
ぼくのクライミングは基本的には自分のために登るのですが。発表するという行為はそのクライミングを世の中に伝えていくためであり、そしてクライミングというものへの還元だと思うんです。たとえば、ミック・ファウラーの記録を見て、写真を見て、彼の言葉を読んでぼく自身もそれに憧れてきたのですから、ぼくには還元する義務があるかなと。それに今後若いクライマーの中で強い人が出てくるかどうかは、自分自身の将来もかかっている。これから年齢を重ねていった時に、どんどん仲間が減っていく可能性があるんだと思います。そこで仲間がいなくてはクライミングを続けることはできません。つまり還元は自分のためでもあるんです。
遠征でのトライ中にはどんなことを考えますか。
いかに効率良く安全に、登れるか、帰れるか。それを考えています。たとえば家族のことを考えますかと聞かれますが、トライ中は一度も思わないです。ベースキャンプのような安全で落ち着いているところだったら思い出して「いまどうしているかな」と考えたりしますけど。トライになったら一切考えない。いま山の中でなにをすべきかです。でもアルパインクライミングはずっとピリピリとした状態でやっている訳ではありません。たとえば安定したテントの中で、そこで天気が悪くなって停滞したら時間だけはあるわけですよ。昨年のカランカ遠征の時のように。ここからどうやったら脱出できるかなとずっと考えていたら滅入っちゃって、精神的にも厳しくなるのでそういう時はギアの話とかをしていました。結局山登りのことでしたね。