アルパインクライマー佐藤裕介

いま日本で最も注目されるアルパインクライマーの1人、佐藤裕介氏。2008年春にアラスカにおける巨大岩壁の継続登攀、同年秋にインドヒマラヤ カランカ峰の登攀、そして2009年にはパキスタン スパンティーク峰の登攀に成功など、それぞれのクライミングは世界トップレベルと称されている。極めて困難な課題であっても成功し続ける理由、そして佐藤氏のクライミングへの情熱を聞いてみた。

- 山登りは子供の頃からですか。

本格的に山登りをしようと思ったのは高校生の時です。山岳部に入ってはじめました。

- それまでなにかスポーツをされていましたか。

中学卒業まで7年間サッカー少年でした。団体競技というか義務感でスポーツをするようになってきていたのですが、だんだんそれが面白く感じなくなってしまって。それと並行して遊びのほうではよく釣りに出かけていて、たとえば日曜日に部活動が9時からはじまるとすれば、3時に起きて釣りをしてからサッカーをしていました。その魚釣りが原点になっているのかもしれませんが、高校に入ったら、今度は自然の中で自分のペースでやれることをしようと思いました。人と競うのではなく、自分のペースで自分が満足できる世界。そこを追求しようとして「山だったらぴったりではないか」と。小さな頃は親に連れられてハイキングにもたまに行っていましたし、だいたいそういうのは好きでした。

- 山岳部は高校の3年間だけですか。

そうですね。大学に入ってからも山岳部に所属しようと思っていたのですが、部室まで行っていろいろ聞くと、あんまり激しいことはやらないと。その頃には僕はヒマラヤのような場所でアルパインクライミングをしたく、その活動内容のしばりの中では難しいだろうと、社会人の山岳会に混ぜてもらいながらやっていましたね。

- 最初のクライミングはどうでしたか。

山登りをはじめた頃から漠然とはしていましたがよく分からないけど、ヒマラヤとかでアルパインクライミングをやりたいと思っていたんです。そのためにはクライミング能力が必要だと思って、ジムに通ったりしていました。でも実際の壁は登ったことはなかった…。本当の岩登りってどうするんだろう。システムも何も知らない時に近所の石切り場に行って、そこにスクーターで行って、ボロボロの壁をとりあえずクライミングシューズだけで登り出したというのがいちばん人生最初のクライミング(外岩)の経験です。
あ、でも非常に刺激的な出来事かというとそうでもなく、フリーソロで登るというなら小学生の頃にやっていた木登りも同じようなことかもしれません。木登りの大得意な少年でした。うちは当時団地に住んでいたんですけど、4階まで雨樋を伝って登ってみたりして。いま考えればそっちのほうが危ないなとそういう経験はありました。