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広がる無線LAN(9)

音声や映像を扱いやすくする無線区間のQoS

2005/02/03
出典:2004年8月15日号  102ページ
(記事は執筆時の情報に基づいており、現在では異なる場合があります)

現在の無線LANの標準規格には、特定のデータを優先的に送るための仕組みがありません。しかし2004年11月、無線LANにQoS制御機能を付加する新規格「IEEE 802.11e」が標準化される予定です。この仕組みを使えば、音声や映像などのデータが扱いやすくなります。

 無線LANの普及とともに、音声や映像のストリーミングを扱いたいというニーズが高まっています。例えば無線LAN機能を内蔵した携帯電話型のIP電話端末や、無線LANで映像を送れるAV機器などが登場してきました。

図1 無線LANで音声を扱うにはQoSの仕組みが必要 CSMA/CAでは各端末が平等に扱われる。大きなデータをダウンロードするユーザーがいると、音声や映像のデータが途切れたりしてしまう。
 しかし、IEEE 802.11a、b、gといった無線LANの代表的な標準規格では、特定のパケットを優先して送る仕組みがありません。音声をやり取りしている最中でも、別の端末のデータ送信が開始されてしまいます。複数の端末が同時に大きなデータのダウンロードを始めると通話が途切れることがあります(図1[拡大表示])。

 この問題を解消するため、IEEE 802委員会にあるワーキング・グループ11のタスク・グループeQoS制御を無線LANに追加する標準規格の作成を進めています。2004年11月ころに「IEEE 802.11e」として標準化される見通しです。

待機時間に差を付けた優先制御「EDCA」

 具体的なQoS手法は、2種類定める見込みです。今回はそれらについて紹介します。一つは、無線LANで標準のアクセス制御方式であるCSMA/CAを拡張した「EDCA」(enhanced distributed channel access)。もう一つはポーリングを拡張した方式「HCCA」(hybrid coordination function controlled based channel access)です。

 EDCAは、やり取りするデータを4種類に分類し、分類ごとに送信機会の得やすさに差を付けて優先制御を実現します。具体的には、CSMA/CAで用いるデータ送信前の待機時間に関するパラメータを優先度に応じて変更することで、音声など優先度の高いデータにより多くの送信機会を与えます。優先度の分類は端末で行います。以下で詳しく見てみます。

 CSMA/CAは、データ送信中の端末がほかにあれば待機し、なければ送信を開始する方式です。端末は、DIFSと呼ぶ時間だけ電波を検知しなければデータ送信中の端末がいないと判断。ランダムな時間だけ待機してからデータを送信します。DIFSの値やランダム時間の範囲はすべての端末で同じ。そのため各端末は平等に通信機会を得ることになります。

図2 優先制御はCSMA/CA手順の拡張で実現 CSMA/CAでは、DIFSと呼ぶ一定時間とランダムな時間だけ待機してからデータを送信する。優先制御の実現する11e規格では、音声、映像、メールなど扱うデータの種類に応じて長さを変更できる「AIFS」をDIFSの代わりに用いる。優先度の高いデータを送るときは、AIFSと乱数の値を小さく設定する。その結果、優先度の高いデータは、ほかのデータよりもデータ送信開始までの時間を短くできる。
 EDCAでは、優先度の高いデータほど待機するランダム時間を短くします。またDIFSの代わりに「AIFS」(arbitration IFS)と呼ぶ時間を利用します。AIFSの時間は、優先度に応じて差を付け、優先度の高いデータほど短く設定します。つまり音声や映像パケットなどの待機時間を短くし、ほかの端末よりも先に送信できる確率を高くできるわけです(図2[拡大表示])。

 もう一つのQoS手法は、ポーリングを拡張したHCCAです。ポーリングとは、アクセス・ポイント(AP)がセル内の子機に順番に送信するデータがないかを問い合わせ(ポーリングすると呼ぶ)、子機に送るデータがあれば送信を開始する仕組みです。

端末ごとに帯域制御できる「HCCA」

 HCCAでは、セル内の子機は要求する通信品質(通信速度や伝送遅延など)をあらかじめAPに送信。APはその情報をリストとして管理し、品質を満たすようにポーリング時にデータ送信時間を子機に指定します。ポーリングを受けた子機は、指定された時間内は独占的にデータを送信できます。ほかの子機はデータ送信を控えて待機します。データ送信時間が過ぎれば、APは次の子機にポーリングします。

 EDCAは大ざっぱな優先度で制御する仕組みなので、帯域確保などのきめ細かい制御には向きません。その代わり制御信号のやり取りが少ないため、全体的なスループットがHCCAに比べて高くなります。

 一方のHCCAは、帯域制御が可能ですが、ポーリング時に制御信号のやり取りが必要なためスループットはECDAより低下します。

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