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 認めん、認められるか、こんなこと!

 ……別のところにいくのなら、こっちの設定でやり直したい? 
 ハっ! そんなバカな話があっていいワケ―――ぅぅぅ。
IF (2)

「シロウ、私は、」
 
 喉が引きつったように、後に続けるべき言葉が出ない。
 今更、死を恐れるつもりは無い。
 だというのに、このまま彼を残して消えるのが怖かった。
 
 それでも。
 
 果たすべき責任がある。
 その重さを誇りを思い出したならば。
 あのカムランの丘に戻る―――その自分に課した責務を他の誰よりも自分が裏切れない。

 最後の戦いの前。
 長い参道で自分を抑えて、前へと進んだ愚直な背中。
 ……それを見た瞬間から迷いなんて懐ける筈もなかった。
 ――――だというのに。







 ……泣きそうな顔をさせている。
 
 それだけでどうにかなりそうだが、それでもセイバーがそんな顔をしているのは事実。
 情けない俺を見て、それでも貫き通そうとするセイバーの姿は堪えられないし、何とかしたい。
  
 ”俺に出来ることなんて――――” 

 セイバーを救えるのはセイバー自身だけ。
 自分の道を自分で決めてきたセイバーに慰めなんて必要ない。
 真っ直ぐにただ一つの道に生きてきた彼女はひどく自分自身のコトが不器用だ。
 また心を殺し続けるなら、解答を見つけ出すことさえ出来ないだろう。
 
 ……なら出来るのは、”剣”の身を守る”鞘”になることだけ。

 セイバーが自分の心に整理をつける時まで。
 その時まで彼女が自分の心を出し惜しむことがないようにする為に。

「――――っ」

 小柄なセイバーを抱き寄せる。
 ……泣けるなら、泣いてほしいと思う。
 自分の顔をこれ以上見せたくないというちっぽけな男の意地があったのかもしれなかった。


「セイバー。そんな顔をしながら責任を果たすのは違うんじゃないのか。
 ……いままで、どんな無理をしたってそんな顔しなかっただろ? 俺が惚れた事を誇れるのはいつのものセイバーだ。当たり前だと、平気なんだっていうくらいに駆け抜けてほしいんだ。今のセイバーはぜんぜん、そんな風には見えない」


 今の堰を切ってしまった感情は、
 橋の上で喧嘩して”シロウなら解ってくれると思っていた”と言われた時に近い。
 それどころかあの時よりもっと酷いのではないか。
 ――――そんな他人を見るような自分を、殺すように。

「……初めて会った時、すごく綺麗だと思ったんだ、セイバー。
 それでこっちも助けになるって。何も知らなかったし、分からなかったけど勝手に誓った。
 だから、おまえに傷ついてほしくなかった」

「――――シロウ」

 偽りの混じらない本音を囁く。
 喉が引き絞られているようで上手く言えない。 

「セイバーは信じる理想を誇ったままでいてほしい。だから止めたくてもセイバーの理想を守るためになるって言うんなら……なんだって我慢出来る。
 でも頑張ったおまえが――――今度こそ幸せになる時間くらいあっていいと、思う」

 こんな言葉はただの言い訳に過ぎないだろう。
 だが、それでも―――止める事はどうしても出来そうもなかった。 

 言葉の中にセイバーの身を案じる物だけでなく、我侭が混じっている。
 でも本当に仕方がない。
 本当にこんなにつらそうなセイバーは初めて見たから。
 
 だから、きっと残っちまう。
 声も仕草も思い出も。いつか掠れていって、しまいにはそこにあった大事な意味を忘れていく。
 なのに自分以外の誰かの為だとしても、こんなに泣きそうになったのだというコトが。

「……報われてほしい。セイバーが安心したと笑って―――」

 そんな彼女を見たかったという未練で進めなくなることは目に見えていたから。

「――――いけるのなら。俺も自分を赦せるのかもしれない。
 誰も助けてやれなかったけど。自分ひとりが助けてもらったけど。……それでも、おまえを救えたのなら、その時こそ、自分を誇れるから」

 セイバーを放っておけないと思った。
 それで出来る事をしていって、間違いに気づかせられたのは、単なる偶然だけど。
 誰かの為に戦うのに、孤独でも頑張り続けたアルトリアが人並みに安心したと眠れたのなら、きっといつか自分(オレ)も―――。

「…………」

 両腕の締め付けを少し強くする。
 彼女を迷わせた自分が何かをするのはひどく滑稽だろう。
 深みに嵌める愚かな行為になってしまうのかしれない。
 
 ――――それでもセイバーが俺に体重を預けてくれた事は、嬉しかった。 




 ……それからどれだけの時間が経ったか。

「…………貴方を愛している」

 唐突にセイバーが発した言葉に意味はなかった。
 個人の感情を王の責務で塗り潰してきた彼女にとって、これもまた同じ。自分を殺すなんて当たり前だったんだから。
 隠せない気持ちを口にしただけで、選び取る道をセイバーは示してはいないのだから意味はない。
 
「――――――――」

 彼女の責任と幸福への願望。
 どちらを望む事が、救われる事に繋がるのか判らない。
 衛宮士郎は、正義の味方を目指しているくせに、無力だ。
 
 感情を憚る必要なんてないと、そう願った手でセイバーの頭を抱いて撫でている。
 セイバーはそれなのに声を上げず、肩を震わして、ただなすがままにされているだけ。

「……腕を緩めてほしい、シロウ」

 そうしてセイバーは顔を上げた。
 涙で潤む瞳を隠すために閉じて、決意を固めて開くと。

「私は、シロウ――――」

 静かに答えを紡いだ。
 どんな感情が籠められていたかなんて、解るほど大きさの声ではなかったけれど。
 それでも確かに聞いた。なら俺はどうするべきかを考えるまでもなく、

「ああ――――わかった」

 





 ひたすらに抱きしめて、それでまたどれだけの時間が経ったのか。
 鼓動と呼吸を近くで重ねても、体が冷えていくのはどうにもならない。
 いい加減動かなければならないんだけど、何もかも億劫だ。
 それに腕を解けば、至近距離で顔を合わせるのだから翠緑の瞳に引き寄せられる自分が容易に想像できて――――

「――――キスくらいは許すけど。でもシロウとセイバー、ここ一応、境内の裏よ。それにもうすぐ夜が明けるんじゃない?」

「~~~、イリヤっっ!?」
「イリヤスフィール……!?」

 バッと、セイバーと二人飛びのく。
 しかし忘れていけない。そう、ここは山。
 つまり石につまずいて転ぶことだってあるのだから。



 ⇒タイガー道場

『きゃー。登場だけで主人公をここに送るなんてさすが、わたし!』
『その事には感謝してる、にじファンが閉鎖ということでもうやりたい放題やっていくのだのコーナー、タイガー道場の師範、藤村大河でーす』
『弟子一号ことFateルート最後の希望、イリヤでーす』

『そーか、そーか。セイバーちゃんがいなくなった後の士郎を癒すのはイリヤちゃんなのねー』
『もういっそのこと、ロンドンでのシロウの執事ライフ以上に語られるべき本編アフターだと思うわ』

  べっちーん!

『調子に乗るな弟子一号』
『イタっ!?』
『だが本音を言わせてもらえば』
『ちょ、ちょっと待ちなさいタイガ、振りかぶりす』

『出番があるだけいいなコンチクショーーーっ!』

  キュルキュルキュル、がこーん!

『――――きゅう、バタリ』
『……がこーん? あ。タイガが気絶してる。
 こんな事ができるのは―――』

『……………………』

『ちーす先輩。助けてくれたんですか?』
『……………………』
『???』
『出番が無いのは虎だけか、ブルマ』

『アレ? もしかして、もしかしなくても?』
『わたしは、わたしの目的の為だけに(ハンドル)を執る。
 だが、そこに虎がいては些か面倒だ』


  ブウッン!


『くっ、ゲットマネー号……! 
 ならこっちも……カモーン、バーサーCAR!』


  ブォッン!


『……いいわ、リン。タイガー道場のコトは今は忘れるわ。
 貴女とは――――聖杯レースで勝負を決しましょうッ……!』


T:お、弟よ、動けるかい?
シ:ああ。……それより、寸止めするつもりでもあんな迫真の演技されると誰だって怖いぞ
T:えへへ――つい
シ:「つい」、じゃねえよっ! 子供苛めて楽しいか、このバカ虎!?
T:だってー、このままだと私の出番そっくりそのままイリヤちゃんの物になっちゃうしー
シ?:きも。語尾伸ばすな、歳考えろ、歳。わっ、鳥肌出た
T:……口悪いし、歳のコトいうし。切嗣さんなんて言うかなー
シ?:別にいいよ。今のあいつプリンスオブ厨二だから、どう言われようと

 ………………
 
T:分かった。貴方もしかしてアヴェどんがらがっしゃーん!
ア?:あーあ、バレちまっ――おい、藤ね――どわっ、のぶ! 

 ………………

ア:いーなー、羨ましいナー。セーギのミカタはシリアス空間でいいなー。
  オレじゃなかったら、ただのノリでFate第一回目のバッドエンドと同じになってたんだが? 
  ―――やっぱりアンタ、タフだな
T:ふーん、なら、本編でてみる? 士郎とチェンジしてみる? 切嗣さんに狙われるけど
ア:やっぱりなし。復讐とかどうでもいい。たまには役に立つね、この道場も
T:たまにじゃないよー。そうだ、今から林檎の島に行かない? 
ア:前後関係無視しすぎ。
  ……まぁ、ここにいるよりは退屈しないし、命の危険がある訳でもないだろうから
T:ふふふ。じゃあ、決まりね。
  早く行きましょっか、またイリヤちゃんに轢かれる前に



 ………………………………
 ……………………
 …………


 ……まぁ、尻餅をついたのは俺だけなんだけど。
 セイバーも俺を庇う余裕なんてなかったし。
 雪のように白い少女はそれを見て、くすくすと笑いながら。

「うーん。それじゃあ、まだ心構えなんて出来る訳ないか」

 なにか、不吉な響きをもって言葉を発していた。
 だからって聞かないわけにはいかないのだし、今ここで聞こう。

「イリヤ、それどういう意味なんだ?」

 少し考える素振りをしてからイリヤは、

「ここは十年前、しかも第四次聖杯戦争の真っ最中に私たちは転移したのよ」

 そんなワケの分からないことを言った。
 しかし、セイバーは。

「それはおかしい、イリヤスフィール。私たちが居る時点でここは並行世界という事になりますが、それだと同一人物が同じ時間に存在する事となる。それでは―――」
「大丈夫よ、セイバー。世界からの修正への対処はちゃんと打ってあるから」

「同一人物……何かまずいのか、イリヤ?」

 世界からの―――あたりは遠坂の魔術講座で聞き覚えがあった。
 が、半人前もいいところの俺は話に付いていけない。
 だから武人であるセイバーより、生粋の魔術師であるイリヤに訊く。
 ……なによりも、十年前という単語は、絶対に聞きのがしてはいけないものだから。

「―――シロウも投影で複製するでしょ? その時掛かる負担が世界からの修正。そして、ここには……シロウになる前のシロウが居る。あとは分かるでしょ?」

 色々と省略してイリヤは説明した。
 ……だが、それでも理解できた。
 つまり―――■■士郎を衛宮士郎にする、あの火事を止められるかもしれない、という事か。

「シロウはちゃんと聞きなさい」
「む……。ちゃんと聞いてるぞ」
 
 出来の悪い弟に話を呑み込ませようとする姉のように話すイリヤ。
 セイバー、遠坂などの師匠……藤ねえは除外するが、こんな態度でものを教えられるのは初めてだ。
 しかもそれがチビッ子によって。されど何故か感じる威厳。
 ……なんていうか、これってもしや天敵というやつか?

「もう一度言うけど、同じ物があって、そのどちらかの僅かでも劣る方が―――潰されるのよ」

 呆れた風に。でもって直球で。
 そこまで言われれば俺でも解った。なら、なんで俺たちは無事なのだろうか。世界に潰されるのは間違いなく異分子である俺たちの筈なのに。
 俺とセイバーの視線に籠められた期待を感じ取ってイリヤは口を開ける。

「まずあの闇が何なのかをはっきりさせてからよ、二人とも」
「? なにって、あれ聖杯だろ?」

「そうだけど違うわ。あれはセイバーの聖剣で大部分の呪いを失っていた。
 だから二人は取り込まれてもしばらくは無事だった」

「―――待ってくれイリヤ。質問を増やして悪いんだけど、なんで聖杯の様子と取り込まれたのが二人って断言する、いや、出来るんだ?」

「色々とあるのよ、色々と」

 セイバーを一度流し見てから、そして自分の爪先か地面を見つめながら答えるイリヤ。
 しかし、とりあえずは回答を得た。
 あまり必要の無いことだから説明が少なかったのだろうし、話を先に進めよう。


「イリヤスフィール。貴女は私達よりも早く起きていた。
 聖杯を破壊する前は気を失っていた貴女はあの闇に共に取り込まれたのではないのですか?」

「入ったという点なら同じよ、セイバー。
 ―――あのままだと、シロウとセイバーは溶かされるしかなかった。だから二人には信じられないかもしれないけど、聖杯を使ったのよ」

「……莫迦な。冬木の聖杯は災厄しか引き起こさない。そんな事は不可能だ」

「元から聖杯がそうであった訳じゃないわセイバー。
 だから、やり直しは出来たかもしれないし、現にわたし達は十年前に居る」

 嘘をつく理由がイリヤにはない。
 一度消えたと思った身体があるのも事実だし、信じにくくても納得した。





 

「――――金がない」

 現代社会において魔術師だろうがルールに沿って生きる以上、ないと困る物。
 それが此処にはない。
 ……十年前に衛宮家の銀行口座なんてある訳がない。
 
 ―――人間、お金がなくとも数日は生きていけるが。
 
 ちらりと目を二人に向ける。負い目があるわけではない。
 この二人に何日かご飯を抜いてもらうのは、嫌だったからそうなってしまった。
 男一人なら兎も角、三人で、しかもそのうち二人は女の子だとやはり話は違ってくる。

「どうすれば―――」

 これが、お金の事が。
 これから聖杯戦争にどう関わっていくかという話から来たものだというのは、なんだか脱力しそうになってくる。
 せめて聖杯が用意してくれていれば―――と、考えたところで頭を振った。

 これだけ弱気になったのはいつぶりだろうか。
 建設的な思考がマッハで出来なくなってゆくのをひしひしと感じる。
 ――――と。

「そういえば。星読みを学んでいるから言える事なのですが、既に聖杯戦争は始まっているようです。たしか―――この時はランサーと私が戦った次の日でしたか」

「あ――――」

 少し目を見開くイリヤ。

「……アインツベルンの城ならお金をなんとか出来るわ」
「え――――それ本当か、イリヤ?」
「待ってください、イリヤスフィール。聖杯戦争は起きているのです。なら既にアイリスフィールが居る筈。それを何とか出来ると?」

 アイリスフィールという名前を俺は初めて聞いた。
 イリヤ”スフィール”とアイリ”スフィール”。ならばアインツベルンの魔術師だろう。
 ―――それにしてもセイバーがその名前を呼ぶ時に篭った親しみは何だったんだろうか?

「何? もしかして昔の自分を倒す自信ないの?」

「そういう事を言っている訳ではありません、イリヤスフィール! 
 過去の私と……自分同士で戦うというならば――――」

 そこではた、と動きを止めるセイバー。

「いえ杞憂でした。手負いの私、さらに迷っている私が相手であるのならば―――勝算を考えるどころかシロウ達を危険に晒すことさえないでしょう。
 そもそも真名がこの時、既に全員に知れ渡っているのですからエクスカリバーの使用も躊躇う必要はなかった」

「? こんなに早くか、セイバー?」
 
 セイバーの剣はあまりにも有名すぎる物だ。
 しかし、それを隠す風の鞘があり、おまけに不可視。
 間合いを計らせず、ペガサスの突撃すら減衰させる盾としても使えるのだ。
 その正体すら見ることが出来ずに終わる英霊だっているだろうと思っていたのだが。

「はい。第四次のランサーの宝具は魔力の循環を断つ槍でした。
 ですから風王結界を破られてしまったのです。――――それでどうするのですか、シロウ?」 

 方針はもう決めるまでもないだろう。
 セイバーの自信もあるし、やはり――――

「アインツベルンの城に行く。金が無いと、飯だって作れないし」

「な、なななっ!? シ、シロウ! それならそうと早く言ってくれれば良かったのに……!」

 ブンブンと音がなりそうなくらい腕を振ってセイバーは慌てていた。
 主な変更点は、

1 イリヤが最初から登場。もともと出すつもりだった、です。
2 ジルさんの出番増量。
3 タイガー道場はこれっきり?
4 意外なところと士郎達は同盟もどき。
5 湖に突き刺さってろ、バーサーカー。
6 ケイネスの許での活躍の機会はこの先一生ない輝く貌。
7 アーチャー(エミヤ)は細かいのを合わせると四度死ぬ(消滅する)。
8 英霊召喚の一日前じゃなくて、開幕戦の一日後からスタート。

 ……の予定です。感想、批判お待ちしております。


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