俺はセイバーをかっこよく書きたいんだか、自分が書きたい事を書いてるんだけなんだか……。
勢いでバーサーカーと共闘させようなんて思っちゃいけないね、ハハ。この話のセイバーはSNかzeroかなんて俺も分からない。いや、ほんとバーサーカー救わせようとするならSN仕様は最適だとか、そんなのは甘かった。
――――でも、そんな理想を抱いて溺死するなら本望だったり。
17 幕間 ヒトと王
空間に生まれた歪み。
切り開くように幾つもの財宝が現れる。
――――鋼の瓦礫の中。
ゆるり、と英雄王が腕を掲げ、更なる武具が無軌道に空を滑る。
それは戦いの名残。そう、終わっていないのに終わったも同然。
だがしかし、彼女にそんな諦観など微塵もなく、迫る宝具の軍勢に向け――――
「―――風よ!」
剣の封印を止めた。
最古の英雄王を前にして、発せられた清澄な声に、自負はなく、慢心はなく、余裕はない。
されど、セイバーの声音には――絶望もなく――ただ、意志と力があった。
彼女の黄金の髪が揺れる。
そよ風が、やがて嵐に化け、視えなかった剣が曙光のように輝く姿を見せていく。
不可視たらしめていた鞘、風の王の名を冠する宝具をセイバーが自ら解いたのだ。
華美な装飾は無く、剣としての機能に特化された清廉なる―――神造兵器の一振りが現れる。
「く――――ふ、ふ、ふはははははははははははっ!!!
おいおい、随分と笑わせるな、女。まさか、おまえのような小娘が人類最強と謳う聖剣の担い手だったとは! しかもその騎士王が、国を滅ぼした臣下を庇うとはな……!」
「――――――――」
「女に生まれるのなら、男子に組み伏せられるが幸福だろう? 王に成るなどと身に余る選択をしておきながら、おまえは何故そこな逆臣を庇う?
ハハ、そもそも妻を寝取られた事に気づきながら裁きもせんとは、とんだ”おヒト良し”だな。あぁ、そうか、なるほど―――良い道化じゃないか。アーサー王は、だから国を滅ぼしたのか」
そしてギルガメッシュは、呵呵とより一層に哄笑した。
腹を抱え、宝具の絨毯爆撃を止める。
しかし侮蔑の言葉に構いもせず、セイバーは宝剣に魔力を込める。
風が吹き抜ける。剣を構えるセイバーから圧倒的なまでの魔力が噴出する。
光の束は収束と回転を高め、主に応えるように燦然と黄金の輝きを増していく。
「――――ふふん、どうやら本気らしいな……。
よかろう―――この万象の王が褒美を賜わす。出番だ、起きるがいい、エアよ!」
黄金の騎士が押し殺した笑いを浮かべながらも、背後から一本の黄金の柄を引き抜いていた。
だが今までの武具とはその外観が、宿す存在感の大きさが、なにもかもが違う。
鍔までを金で彩った絢爛な剣。
刀身は三つの円柱が連なり、その先端には螺旋状に捻じくれた鈍い刃。
その奇特な形状からは、突き刺すだけの用途しかないように見える。
円柱がそれぞれ別方向に回転し、剣というより削岩機といった方がよほどしっくりくるだろう。
黒い刀身の鋼輝と、ソレに走る血液のような筋はバケモノと呼称させるに相応しい不気味さ。
その異形に拍車をかけるように、三つのパーツが回転を徐々に速めていく――――
「聖剣に免じ、我が至宝たるエアを抜くのだから半端な真似は許さん。だから精一杯励めよ、女。
騎士王が、最強の聖剣とやらが、この我と、どこまで長く舞踏してみせるのか―――!」
――――それが英霊の超越者、ギルガメッシュのみが持つ剣。
彼が湯水のように放った宝具の原典。
それらは全て無名であり、彼しか持ちえぬ武具というわけではない。
だがこの剣だけは、最古の英雄王を唯一の担い手としている。
カタチの無い天と地を切り分かち、その判然に確たる姿を与えた剣。
――――すなわち対軍でも、対城でもなく、対界宝具。それがこの乖離剣エア。
「――――――っ」
乖離剣が風と光と空間とを等しく砕く。
轟然と魔力を鳴動させ、鬩ぎ合わせて赤光を奔らせ、無敵の剣が啼く。
そこで聖剣が振り上げられた。エアにはもはや、最大の力が溜まる時間は残されてはいない。
「約束された―――――」
剣の容を取りながら、光そのものと見紛う程の赫耀が迸る。
セイバーの手の中でその至高の輝きは収斂され、一切の夜の闇に呑み込まれる事なく、
「―――――勝利の剣!!!」
渾身の力で振り下ろされた。
膨れ上がる超熱量と、触れる物を例外なく断絶する閃光の刃。
森羅万象すべてから祝福されるように、ひたすらに眩く、溢れ出す希望の如く吼える。
「……音に聞こえし聖剣。それ自体がおまえの輝きか、セイバー」
最強の斬撃がギルガメッシュに向かう。
街に使えば永久の断層を刻む聖剣を目前にして、
「――――――天地乖離す開闢の星」
静かに唱じられる。ギルガメッシュの乖離剣が振り翳される。
―――そして、爆音と爆風と閃光が交錯した。
『幕間 ――王の道/ヒトの夢――』
離れられ、恐れられ、裏切られようと――――
アルトリアの心は剣を抜いた時から変わらない。
彼女が向き合ってきたのは、目の前にある多くの問題。
侵攻してくる異民族、戦の前に執るべき準備、戦をより早く終わらせる采配。
……向き合ってきたのは、自分さえ含めた全て。
岩の剣はアルトリアから人の感情を失わせた。
だが、本当にそうであるかは疑問だ。
……一度だけ。王としての彼女が、一度だけ笑顔を見せた。
本当に些細な事だ。臣下の前で見せてはいない。見せてしまっては瓦解しただろう。
じつのところ、それは何度もあったのかもしれない。
どれもが何でもないコトで。僅かな時間、見せただけに過ぎななかっただろう。
故に聖剣は敵を討って王を守るのみであり、心までを完全に奪えなかったのではないか。
しかし事実として、アルトリアはカムランの丘までを戦い続けた。
私情を殺し続けて、無謬で在り続けた。そこにどれだけの苦しみがあったのか。
およそ十年を王として務め上げた。それだけ待って、夢見た平和な国を迎えた筈だった。
―――赤い丘
ブリテンの戦いは、終わった。
騎士達の亡骸が、黄金だった草原を覆っている。
血潮の匂いを風が運ぶ。
手を伸ばしても届きそうにない空と、手を伸ばせば掴めそうな雲。
剣が、華と散ったユメの墓標だった。
………それはもう、変えれない冷たい現実。
――――もっと長く平和な国を築けられたら、良かった。
剣を支えに、アルトリアは慟哭の涙を流す。
「―――、ぁぁ――――」
前だけを見据え続けた結果がこんな絶望。
結局、王であろうが少女であろうが、自分には守れるモノなど存在しなかったという事か。
―――それを、何度繰り返すのだろう。
―――その間に、どれだけの犠牲が出るのだろうか。
「……聖杯は、必ずや私が……」
果たせなかった誓いを、果たしてみせる。
果たせる筈もない誓いは、全てこの身と共になかった事にしよう。
聖杯を得る為に、戦いの後ろで流される涙を、私が不甲斐無いばかりに出た嘆きを摘み取る。
国を、ランスロットとギネヴィアを、アイリスフィールの命を。
………この手で救えないのなら、救えるモノに託そう。
「――――私の祈りなんて、」
”体は剣で出来ている”
――――誰よりも多くのモノを切り捨ててきた。
常に先陣に立って敵を駆逐した。結果で騎士たちを抑え付けた。
”血潮は鉄で、心は硝子”
――――無謬の王で在り続けた。
その十年間で一体幾つの心を捨て置いたのか。
”幾たびの戦場を越えて不敗”
――――それでいいと。どのような戦であれ、それが戦であるなら犠牲が出る。
ならば前もって犠牲を払い、無駄なく敵を討つのが最善だと。
”ただの一度も敗走はなく”
――――国を守る為に、自国の国を干上がらせて軍備を整える事を常道として。
効率よく敵を倒し、戦の犠牲となる民を最小限に抑えた。
”ただの一度も理解されない”
――――王は人の心が分からない。
当然だ。誰か一人を思えば弱くなる。王でいられなくなる。
”彼の者は常に独り 剣の丘で勝利に酔う”
――――この結末をやり直そう。
こんな得るモノのない勝利を胸に秘めるのは自分だけで良い。
”故に、生涯に意味はなく”
――――自分なんかよりずっと心の強い王がいる筈だ。
硬く、折れず、鋭い名剣のような。そんな王ならば国を救えた。
”その体は、きっと剣で出来ていた”
――――頭を垂れ、膝を屈した。
それでも剣を放さなかった。だからアルトリアは、まだ、戦っていい。
「……ごめん、なさい……」
だから立ち上がる力を持ち合わせてはいなかった。
アルトリアは、そしてもう二度と謝ってはいけない。
詫び続けてしまえば動けなくなっただろう。
その心が楽になってしまう。罪の意味を忘れてしまうから。
―――教会の地下
「――――いらない。そんな事は、望めない」
無くした物は戻らないと。
痛みにのた打ち回りながらも、彼女の主はそう、口にした。
「私、―――私は」
それでも、彼女はなかった事にしたい。
自分以外が王となったならばもっと長く平和な国を築けたのではないか。
多くの人々が幸せに暮らせていたのなら、それはどんなに――――
”――――多くの人が笑っていました。
それはきっと、間違いではないと思います”
選定の剣を前にして、少女は何を言ったのか。
マーリンが見せた未来には、破滅だけでなく偽りの無い笑顔があると。
そう、言い切った。それを―――王のアルトリアも信じ続けた。
だから……だから、すべて揃っていた。
騎士としての誇りも。王の誓いも。少女が夢見た理想郷も。
”―――今までの自分が、歩いてきた道が間違ってなかったって信じている”
あの結末が悲しみだけだったとしても、その過程に失ってはいけないモノがある。
美しいと感じたモノ。それが尊いから守りたいと思った少女のアルトリア。
理想の為に、多くの物を奪い、多くの死を重ねてきた。
けれどそんな自分に付き従った騎士と民までもが、間違いだとは思えない。
多くの命を預かったアーサー王が。
それでも自身を正しいと信じ続けた誇り。
彼が向けてくれた信頼を――――どうして裏切れようか。
「……ええ、あの聖杯もこの私も、有り得てはいけない夢だったのです」
「―――はい。貴方ならそうしてくれると信じていました、マスター」
「マスター、命令を。貴方の命がなければ、アレは破壊できない」
―――山頂の荒野
……そうして聖杯は破壊される。
願望機が招いた戦いは終わったのだ。これで誰かが犠牲になる事は無くなる。
奇蹟は閉幕する。
サーヴァントは消える。
少女はただ一度のとうといユメから醒め、少年は空っぽの心に星を擁く。
救いようのない話、なのか。
戦いから逃げられなかった愚者の悲劇、はたまた喜劇なのか。
当人達には、そのどちらでも構わない。
誰に否定されようとも。
いつか、かつての自分を後悔しようとも。
決断した瞬間に抱いた誇りは、決して偽りではないのだから。
……ひゅう、と風が吹く。夜のしじまが綻んでいく。
血潮の吹く荒野に、やがて辿り着くだろう。
こうでありたいと。こうであってほしいと。そう、願い続けて。
人として壊れているから。
泡沫の夢を、痛みを受け入れて走り、多くの出会いに感謝をして、人生に満足する。
――――幸せを望むか、その先に手を伸ばすか。
――――だから、夜明けの青色がその境界線を示している。
……この世界では。
黄金ではなく、闇が吹き抜ける風だった。
――――スタートラインより一歩。
進んだはずの足は。
踏み切ったはずの足は。
そんな不条理で、覆された。
「セイバーは信じる理想を誇ったままでいてほしい。だから止めたくてもセイバーの理想を守るためになるって言うんなら……なんだって我慢出来る。
でも頑張ったおまえが――――今度こそ幸せになる時間くらいあっていいと、思う」
朝焼けではなく夜へ。
あらゆる意味で、未踏の地に衛宮士郎とセイバーはいる。
「……セイバーが、ただ楽しくて、嬉しくて。
『自分』の為に心の底から笑った姿が見たいんだ――――」
「……………貴方を愛している」
言葉に意味はなかった。
個人の感情を王の責務で塗り潰してきた彼女にとって。
これもまたそうであるのかもしれない。
隠せない気持ちを口にしただけで、選び取る道をセイバーは示してはいない。
「――――――――」
放したくない、と。
手をきつく握りでもするなら、離れたくない意思を伝える事が出来るだろう。
だが抱き締められている。セイバーの手は士郎の胸に当てられたままだ。
「……腕を緩めてほしい、シロウ」
感情を誰かに憚る事のないよう、守るようにセイバーに回していた腕が緩む。
そうしてセイバーは顔を上げた。
涙で潤む瞳を隠すために閉じて、決意を固めて開く。
「私は、シロウ――――貴方とずっと共にいたい」
故に――――今のセイバーの心は弱かった。
―――夜の倉庫街。
時間は進み、現在へと立ち返る。
アイリスフィールを盾にして、ランサーは倉庫街より消えようとする。
「ッ……待て、ランサー――――!」
言いつつも、それが不可能だと理解していた。
リスクが大きく、かつ士郎から離れる必要があるならば……ここは諦める他ない。
遠くへと。その姿が消えるまで、セイバーには敵を睨み見据えるしかなかった。
「くっ―――――」
追いすがろうと思えば、出来ないでもないだろう。
しかし、おそらく彼は彼自身の言葉通り、自分の主の為ならアイリスフィールを手にかける。
セイバーは不甲斐無さに唇を噛む。
あまりにも―――自分の心が弱すぎたから。
「っ、ランスロット……」
バーサーカーとギルガメッシュの戦いの音が耳に届く。
経験した初めの聖杯戦争。
その中で擁いた―――今なら果たせるかもしれない未練に思い立つ。
「――――それは、駄目だろう」
ランサーの主の為に必死になるという気持ちは彼女には解る。
だがそれは聖杯戦争に基づいた契約があるからというわけではない。
本当に仕える値する主だった場合だからだ。
騎士の意地として、英霊として。譲れない誇り。守るべきモノを守るという信念。
全霊を以って、セイバーは衛宮士郎を守ると決めている。
「――――――――」
ランサーは真の忠義するに相応しい主に仕えている筈だ。
そうでなければ無意味に騎士道に反し、アイリスフィールを盾にした事になる。
だが、だからこそ理由を察する事はセイバーには出来なかった。
かつてランサーと共闘し、主の許に馳せ参じようとする彼を阻まなかった事があった。
当時のマスターであった切嗣を危険に晒す行為であった。
が、ランサーが忠義を立てた主ならば騎士の想いを汲んでくれるものだと。
そんな理想的な主従関係を期待し、信用したのだ。
―――だがそれは違った。
彼の主は、ランサーの最期の時分さえ目を合わせようとはしなかった。
あれは、忠誠がランサーにあった分だけ、切嗣と自分の関係よりもひどい。
人質を取ってまで守る意味のある主だとは、今思い返しても到底思えない。
「っ――――」
そこでセイバーは頭を振る。
どうやら気づかない内に思考を逸らそうとしていたようだ。
それが、より思考の深みへと彼女を沈めるコトとなる。
「ランサーが盾にした者が……」
”アイリスフィール以外だったならば……私は斬れたのだろうか”
最後まで口には出せず、胸中でセイバーは呟く。
無辜の民を斬るなんて事はしたくはない。だが戦いで犠牲が出るのは当たり前。
それが怖いのだと、いつかの橋の上で、彼女は指摘された。
戦いを急く自分を意識して、過去を顧みて、いつもそうではなかったか、とその時思った。
”だから、これは、なんだ……?”
犠牲しかない選択を過去にしたことがある。
それでも。得る物など何もなくとも、守るモノがあったという、ただそれだけで戦えた。
後ろを振り返る余裕なんてなかった。
振り返ってしまえば……耐えられなかったかもしれない。
ただ、だからこそ――――真っ直ぐに前に進む事がアルトリアには出来たのは紛れもない事実。
いま守るモノは国ではなく一人。それも大切なヒト。
違いはあるが根本は同じ。
この身に代えてでも守ると誓ったところまでも同じ。
”―――だからこそ、あの時ランサーを斬るのを躊躇ってはいけなかったというのに”
「―――――――」
具足を引きずるようにしてセイバーは歩く。
セイバーらしくもなく、一時、継続中の戦いを忘れて裡を視る。
その目蓋の裏に浮かぶのは、騎士と騎士道が散った多くの最期。
”―――今のこの身は、岩より剣を抜く前の小娘と何が違うというのか”
ソレは紛れもなく彼女が選んだ選択の結果。
今の彼女は士郎と共に在るというユメを叶えてしまったが故に、王ではない。
でもセイバーは真実、後悔なんてしていない。
此処に残ると。ユメを見続けると決めた選択を否定する気はない。
選んだ道、望んだ道ならば―――最後まで進むことが、犯した罪の対価であるのだから。
剣を執る強さに以前と変わりはない。
もしかしたら、とは思うがセイバーにはそれでも変わりはないと断言できた。
ディルムッド・オディナ。
彼が主の前にすら立てずに戦いに敗れる事に、僅かばかりの、カムランの丘で自分が懐いた絶望があって共感できてしまう。
でも、それさえもセイバーは戦いとなれば打ち棄てていける。
だが大きな問題が一つあった。
アイリスフィールは聖杯を持っている。
故にランサーを斬り捨てていれば彼女を説得し、その成功の瞬間に聖杯戦争は終わる。
アイリスフィールを救出できなかった事で、死と狂気が隣り合わせの、この戦争をまだ続けていかねばならない事。
”――――自身の正体を晒す事でシロウを守れるかという不安さえなければ。今頃はソレが現実になったかもしれないのに”
何一つ守れなかった少女を自覚している。
剣を執った誓いの重さ、行った治世の重さはよく解っている。
皮肉にも、だからこの自分に自信が無い。
あまりにも剣以前と隔たるモノがある。
それを解り過ぎて、簡単には流せない。それが今のセイバーの不安。
自分は士郎を守りきれるのか、と。
失敗の覚悟は、剣を曇らせずとも、戦いの判断を誤らせるのではないか。
いざという時、傾く天秤を守りきれるのか。
「すみません、シロウ。彼女を……アイリスフィールを……」
セイバーの声は重かった。
そのせいで今の心境を主に悟られなかったようにと彼女は願う。
彼女は選択を迫られた時、いつもそうしてきたように。
自分を追い詰める為に、自分だけの問題として解決しようとする。
剣として、盾として、自身のコンディションを万全に整えておく為にもそんな拘りは不要。
だが、衛宮士郎に戦いの最中に自分以外の事を考えさせるのは危険だった。
なによりも。
王としてのアルトリアとの折り合いだけは――――自分だけで決着をつけたかった。
「まだ終わったわけじゃないさ、セイバー。……俺にだってその責任があるし」
「……そんなシロウ。
まさか貴方は、アイリスフィールと魔術戦をしようなどと考えたのですか?」
「い、いや、でも。アイリスフィールさんが女の人だからって無意識に戦う相手として―――」
「考えていなかったと? それは確かに問題ですが、私はライダーに貴方の安全を頼んだ。
その意味を、シロウは汲み取ってはくれなったのですか?」
「む……それは、戦う時に相手は一人じゃないって事か……?
確かに――――そうだな、ごめんセイバー」
アイリスフィールさえ助けた時。
それで彼の聖杯戦争は終えれる。正義の味方を目指す彼が、危険をおかす必要が減る。
それはセイバーにとって、願ってもないことだ。
彼女は二度の聖杯戦争で、現代の魔術師の目的以外を顧みない在り方を理解していた。
そして、士郎を早くこの愚かな闘争から遠ざけるべきだという結論に達したのは必然。
「これすらも防いでみせるか、狗―――」
「■■■■■■■■■■■■ッ――――!」
「―――、―――」
ギルガメッシュとランスロットの戦闘。
だが遠い残響だ。セイバーにとっては、それ以外の何物でもない。
ここでバーサーカーに付けば、ギルガメッシュを倒せる可能性は高い。
だがそれは、彼女の真名を代償にしなければ成り得ない。
主を守る為には、危険を出来うる範囲で避けるのは当然だ。
そう―――少なくとも英雄王を倒す唯一の機会というワケでもないのだから。
ランスロットを切り捨てていけばいい。
道義に反そうとも、友誼を無視しようとも。それでも私は構わない。
「セイバー、さっき手加減してなかったか?」
「…………………ッ」
どうして、こんな決意に耽っている時、シロウは見抜けてしまうのか。
アーサーであると信じきっていた私になら、ランサーを斬れたのかもしれない。
その躊躇いを捨てる為に、今、ランスロットを見捨てようとしている私を感じ取ってしまうのか。
「令呪が使われた。バーサーカーにはもう、後が無い。
……俺が言える事じゃない。でも俺を信じてくれないか」
衛宮士郎の、硬い、そんな声が彼女の根幹へと響く。
騎士道で誰かを救えると信じてきた。
人の笑顔はあんなにも美しいのだから、地獄から引き上げる行為には、必ず価値があると。
「私は―――彼を助けてよい、と?」
ランスロットを救いたい。でもシロウを守りたい。
誰かの為になりたいという気持ちがあろうと守れないものがある。
それをよく識っている。かつての自分は――――
「誰かを救いたいという気持ちに間違いなんてない。
でも何よりも、それで自分も含めて救えるのなら――――それが正しいんじゃないのか」
――――だから、それが答え。
自分自身さえ偽れない嘘に意味は無く、ましてその歪みが誰かを救える筈も無い。
守りたい誰かが信じてくれるのなら、それを裏切る自分に全霊の力を奮えはしまい。
”――――彼を信じていなかった。なんて、独り善がり―――”
「■■■――■■■■■……!!!!」
武器と狂戦士の哭する声が、今度こそ耳に届く。
ソレが倉庫街で響き終わる前。
セイバーの決断は早かった。ただ、彼女は駆ける前に、
「―――行きます、シロウ」
主に対する感謝と、信じ切れなかった謝罪を。
「――――ああ」
だから――――其処には境界線。
道は長い。だが踏み出した足に迷いがないなら、続く。
いつかの何処かで、誰かの星となれた彼女ならば――――。
interlude out
fateでアルトリアが王様だったのってベディヴィエールに湖に剣を返させた時だけだよね。
レアルタ見ると解り易く、剣を抜く前の絵が挟まれたり、Last episodeなんかでそういった文章が出てたり。zeroのセイバーは少女のアルトリアを忠実に書いていると思えなくもない。イスカンダルの言ってた事って結構正しかったと思う。
……言い訳くさくてスイマセン。
話が急展開過ぎるようなと思った方……感想、批判どうぞ。
後、更新遅かったという非難は大歓迎。文を書いて自分がMなのだと初めて知りました。いや冗談です、起爆剤になって結構いいかな、と。
長くなってしまいましたが、駄文に付き合ってくださり、ありがとうございました。
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