話をぶった切って回想描写ばっかりで正気の沙汰じゃないんだけど、ほかの表現が、構成が思いつかんかった。そういう才能ほしいなー。
16 闇の向こう 前編
interlude in
アルトリアは戦いに、本当の意味で武勲や誉れを求めたことはない。
――――戦いを終らせる為に、戦うと決めた――――
初めから欲しかったモノは一つだけ。
だからそれは錬鉄された原初の決意。
口には出さないが決して、望みを違えることなく彼女は走り続けた。
常に彼女が立つ戦いには理由があり、勝利という結果を得なければいけなかった。
魔術師マーリンの秘術で性別を偽っていようと、剣を抜いたその時から永遠に歳を重ねなくなった若き君主が臣下を従わせるには―――一片の曇りもない、皆が望むモノを用意せねばならなかった。
誰が求めていなくとも、国という機構を守る為に必要な物は、すべてを背負い、そして英断してきた。
王である彼女が信じるモノは、王である自分のみ。
自分の意志で選び、望んだ。
たとえ少数を犠牲にした時すら、憂いに目を細める事すらアルトリアは許さなかった。
それが苦しくなかった筈がない。
だが本人は気づける暇も余裕もなかった。
理想で身を固め、そしてあらゆる功績は国であり、守ると誓ったものに捧げる為に。
だからこそ……彼女は王でありながら騎士。
騎士王という渾名は、その献身が眩く、気高く……国民の目を通せば、偶々それが騎士として理想的だったという結果の名称だ。
真に騎士王と称すべきなのは、打ち立てた伝説でも、勝利でもなく、彼女の魂そのものだろう。
だから……そう。
自身に見返りを求めなかった彼の王が、剣の丘で、選定より前の少女に戻ってしまったのは。
彼女の責任ではなく――――誰一人として、その残酷さを解ってやらなかった罪の証明だったのではないのだろうか。
騎士王はおそらく――――
祖国を救う望みは王として在った時には持ち得ず、持つ隙はなく、
ただ救う、ただ信じた道を進む、その一心で構成された現象であっただろう。
―――Sometime
「……その別称が人殺しであるように、多くの物を奪い、多くの死を重ね、その業と怨嗟を背負う者だ。故にやり直しなぞ望まず、願われた想いを侮辱せず、犠牲にしてきた者の悲しみを忘れる事はない――――それが英雄が備え持つべき、いや英雄が進む上で勝ち得る覚悟だ」
まぁ例えば、祖国を救うだとかいうのなら免罪符にもなるだろうがね。
その上で、罪の意識を持ち続けるかはそれぞれだ。
そう冗談めかして男は言い、しかし巌のように表情は凍ったまま、さらに言葉を続ける。
「だからその重さに肩を落とした存在は、英雄などとは呼ばれない。だが、ソレが偽善者ではなく何だというのか。
誰かの想いを引き嗣ぐのは間違いではない。しかし想いを果たす機会を奪ったのは英雄自身だ。故に弔いにも、償いにもなりはしない」
「……それでも悔いも迷いにも足を止めず、果てに至る者はいる。
総じてそういう輩は色々な意味で孤独なんだ。
大馬鹿者に最後までついてくる仲間なんてそうそういない。長く付き合っている内に、理解や共感に齟齬が出来てくる。走り続けて多くのモノを零していく」
「そういった意味。そして他には―――望んだモノ、つまり生きた証は残らないと言うコト。どんなに足掻こうと英霊の座には持ち込めない。何もかもが無価値に還るという意味だ。
例えば、栄光、武勲、逸話など、後世に語り継がれるそれらは、時が経つのつれて美談に脚色される。何を思い、何が不可能だったかなど、悉くを覆されていくのだ」
「故に誰かを救いたいともがく者には、とりわけ救いがない。人を辞めたモノに、人の幸せは掴めない。 ……英雄なんてキリがいいところで止めてしまった方が、ずっといい」
でもそれが無理だから辿り着いてしまう。
だが、だからこそ。それを哀れだと思う事は止められない。
―――そうして、断固たる口調で、話し手は聞き手に希望を押し付けるように。
”だから忘れるな。幸せが解るなら、孤独と成る前から在り、胸に残ったモノは自分の手に有るものだけは――――決して忘れるな。
大切な事だ。自分を許してやれるのは、やはり自分だけなのだから”
――――そう言った。
「―――だったら貴方はどうだったのかしら、アーチャー?」
「私か? 私は皆が――――」
―――――――――――――――――――――――――――――――――――
嘗て、ある一人の少年の許に救国の意志を掲げ集まった騎士達がいた。
少年―――いや、少女は王となった。
初め、誰もが懐いていたのは”こんな青二才に国を守るなど務まるものか”である。
それは別に周りは悪くなかった。ただの当然の感情だった。
そもそも集まった騎士達は、初めに王に付いた騎士に付いて行っただけであった。
そうして時が経つ。
――――王の理念は正しく、最もソレを王が体現していた。
だから円卓には破れぬ結束という名の理念を得た。
それは、誰もが王のように在りたいと願っていたからだろう。
多くの者が羨望し、賛辞し、目標とした。
ついぞ届かぬ天に輝くあの星を手に掴まんとする行為に似ていると気づかず。
……なまじ力があったせいか。
彼の王に仕えた武勇に優れ、忠節に厚い、或る一騎士は―――完璧を望まれた。
それは、いい。
己にはそれしか望まれなくても、騎士道を崇め奉る全ての人々の物なのだから是非はない。
”我は憎悪する――――
我は怨嗟する――――
闇に沈みし者の嘆きを糧にして、光り輝くあの者たちを呪う――――”
……それすらも偽物か。
私も目指した。
遥かな地平に届きたかった。
だから不義を働いたその後も騎士である事を捨てられなかった。
……憧れはいつしか薄汚い執着に変わっていたのかもしれない。
王に尽くす機械でなければならないと。
女の王の横。諸人の求める王妃として犠牲となったギネヴィアがいると。
そう、自分に言い聞かせて。それを盾にして、王妃の涙さえ盾にして―――。
あるいは初め。あの拝謁の時から王を憎んでいたのかもしれない。
妬ましくて、近づきたくて。
託された想い、誇り、王妃との愛、王との友情――――それら全てが欲しかった。
状況に流された。
王妃を愛する事が許されないと知りながらも変われず。
その不貞の罪、理想に殉じる王への裏切りを貫き通せず、悩み続けた。
だから彼女を泣かせた。
かつて『完璧なる騎士』だった男に道を踏み誤らせた、と。
妃を連れ出したのに、死罪から救出したのに、肝心のその女の心をを救えなかった。
もっと己が強ければ――――
王妃を救えたかもしれないのに――――
忠臣ではなく人として、それさえ出来れば――――
王が憎い。その強さが憎い。己が憎い。その弱さが憎い――――
――――そうでなければ。
愛したあの女を救えたかもしれないのに―――――!
そうして時が経つ。
”来たれ狂える獣よ。来たれ執念の怨霊よ”
知ってか、知らずか。
ただの裏切りの騎士の抱く迷いを、その無念を言い当てる声がした。
此処には時間の流れはない。始まりもなければ終わりもない座では何も為せない。
誘われよう――――
解き放たれよう――――
狂気に身を堕とそう――――
ただ、もし望みが叶うなら――――
……そうして時の果て。
理性を無くし、何もかもをこそぎ落として、全身を隠し、獣となった。
何も考えない。狂気と殺戮の武芸だけが駆動し、英霊の座にまで持ち越した無念さえ忘れていた。
だがいかなる奇蹟だろうか。
なんと悪辣なる運命の悪戯か。
だが紛れもなく自分が求め欲した物だった。
「……共に戦わせてほしい、盟友よ……」
――――――その日、ランスロットは運命に出会った。
―――――――――――――――――――――――――――――――――
最強というカテゴリーにおいて、更にその頂点に位置する黄金の英雄王の前に。
……数の暴力の前に串刺しとなるが必定なのだと。
……もはやバーサーカーの消滅は免れないのだと。
剣を生やし、槍を生やし、射し貫かれ、塵芥に砕かれる狂戦士の姿。
誰もが―――おそらく当人達でさえも、一瞬の後に現実となる未来視を抱いたであろう、刹那。
「彼を倒す。貴方をみすみす倒させるわけにはいかない」
鋼の嵐の中を、青い突風が駆け抜けた。
セイバーのその手に握られるは、最強の聖剣。
この世でその剣を折るモノがあるとすれば、持ち主たる彼女―――アルトリアが信念に反した瞬間のみ。
だからセイバーに恐れる必要など、いったい何処にあろうか。
「はぁあああぁっ!」
死力を尽くす剣技と魔力放出スキルの限界噴射。
アロンダイトの剣撃を逃れた十五の財宝を、すべて薙ぎ伏せる。
「で、何をするつもりなのだ?」
英雄王が口角を吊り上げて言った。
宝具の照準が介入したセイバーにも向けられる。
バーサーカーと宝具を分けていながら……それでも圧倒的な数。
先程をなお上回る暴雨が振り下ろされる事は、容易に予想が付いた。
「ッ――――――!」
発射を先んじてセイバーがスタートを切る。
彼女の未来予知に近い感覚が捉えたのは、英雄王が最も狙いを甘くした箇所。
戦場の風を読み、マナを読み、敵の呼吸を読む。
幾多の敵と大戦が培った勘。
彼女が一番その戦いを見てきたサーヴァントたる英雄王の戦術から判断した結果。
迷わずに選び、逡巡なく跳んだ。
それが正しいのかなど、そもそも彼女達に考える時間は残されていない。
ただ”勝利を掴む”と。それだけの反射に近い行動。
「―aarr――ar―th……ッ!」
セイバーから遅れることコンマ以下の時間。
バーサーカーが彼女を上回る身体性能を最大に駆使した速度でそれを取り戻す。
地面をただの蹴りで深く穿った白銀の騎士と黒の騎士の踏み切り。
だが同時に天を衝くまでの轟音と魔力を発して無双の武器群が放たれる。
剣で打ち払うなどあまりに愚挙。
覚悟を決っして出れば次の無数の矢が身体に突き刺さるだろう。
人の域を超えた反射神経を以ってしても、絶望的に遅かった。
ならば避けるしかあるまい。ここは縦と横だけの平面ではない。
高さが存在する。そして幸いにも四方を囲む足場がある。
地面に刺さる長い竿を踏み台に流星の如く跳ぶ。セイバーとバーサーカーがコンテナの上に逃れ、
「―――私を斬るか、ランスロット」
斬撃の圏内で静かにセイバーは問うた。
立ち位置はセイバーが前、その後ろにバーサーカーがいる。
背中に斬りつけようと思えば出来なくもない、その距離で。
「a……Arr……thur………!」
怨嗟の声を叫びこそするがバーサーカーはセイバーに襲い掛かろうとしなかった。
令呪がギルガメッシュに向かえと訴えている。
だが―――それだけではなかった。バーサーカーは自ら従っている。
全身を纏う黒い鎧をガチガチと軋ませる。激しい憎悪に剣を、さらに強く硬く握り締めていく。
……彼は、共に戦場を駆けていた時間を嫌というほど思い出した。
騎士王が頼りとする並外れた直感を憶えていた。双椀に染み付いた殺戮技能。かつての名残はそれだけではなかったのだ。
憎む相手の背を追えた。彼が狂気に走った原因、彼が裏切りを望む相手の背を、ただひたすらに生き残る為に追った。
あそこで彼女の後ろを辿らなければ、ランスロットの望み、すなわち自分の王に剣を振り下ろす事を出来なくなってしまっていた。
……なんと皮肉の利いた運命か。
斬ろうとする者の輝きを見せつけ、その輝きを追わせ、そしてこんなにも己の醜悪さを自覚させる。
だが立ち止まれない。立ち止まる筈が在り得ない。騎士の身ならばいざ知らず、今の彼は狂戦士。獣であり、鬼であるのだから。
騎士道に拠らず、希望に走るバーサーカー。
狂化の呪いに侵された主に反し、美しき湖水を思わせる輝きを放つ無毀なる湖光の剣先を英雄王に向ける。
――――オマエは邪魔だ。
紅蓮に煮えたぎった双眸が、そう言っていた。
既に機械の如く優先順位を付けている。
怨敵を殺すためにも、まず、ギルガメッシュを斬り伏せると。
殺意は一本に編み上がっていく―――理想と謳われた威名の証明を今こそ……と。
禍々しく渦巻く―――眩き貴様ら英霊共を蹂躙せよ……と。
不朽の輝きを。永久の誉れを。その、全てを貶めてやると。
硬く冷たい鋼の隙間から、どす黒い瘴気が漏れ出し、空気を侵し、ねっとりと蜜のように―――
「いくぞ湖の騎士―――――無窮の武錬は健在か?」
不敵な問いかけ。そして”風よ”と、鈴のような声が響く。
セイバーを中心として、苛烈なまでの突風が荒れ狂う。
それはまさに風の鎧。戦いの為の鞘。
風王結界から漏れ出る光。そして影に堕ちた嘆き、その淀みが茫洋と彼方に霞んでいく。
だが、驚くことはない。
これは紡ぎ上げられた想いの結晶。その『最強の幻想』。
――――約束された勝利が姿を現したのだから。
なんだかんだと独自解釈ばっかでしたので批評、感想お願いします。
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